二夜目「夜のhappening」
比較的短めです
後書きに画像付きキャラ説明してます。
「ハ……ハァ…ッ……!!!!」
どうして、どうして僕走ってるんだ!?
さっきまで家へ向かって帰っていたのに…!
今まで散々現実だけを見てきた僕の前に現れたのは、非日常そのものだった。
運動が大の苦手な僕は兎に角、物陰に身を潜めようと、徐に近くの路地裏へ駆け込んだ。角さえあれば曲がり、後ろを何度も見返して怪物との距離を確かめるのを繰り返した。
しかし、黒い怪物達を一向に捲く事が出来ずに、とうとう僕は息切れによる酸欠で目眩と吐き気がしてきた。
これではマズい…と思いつつも打開策なんてあるはずもなく、最後の力を振り絞り目の前にあった曲がり角を右折すると、そこには何の変哲も無い壁が無慈悲に立ちはだかっていた。
まるで僕の人生はここまでだと告げるように
神様は僕に微笑むことは無く、まさに絶望的な状況だ。そして間も無く黒い怪物が目の前に現れ、僕は前方に怪物、後方に壁と言う袋の鼠状態になってしまった。
「ここまで…か……」
まだ人生でやり残した事が沢山あったのに、死というものはあまりにも唐突に訪れてしまうものなのだ。何故こんな事になったのかなど僕には知る由もない。これが僕の運命だったのであろう。僕はゆっくり容赦無く迫り来る怪物に圧倒され腰が抜け、目の前で佇む黒い闇に呑まれるように気力が瞬く間に消滅していった。
そんな絶望の底に叩き落とされた時、また何処からか”声”が聴こえた。
「伏せてください!!!!!」
今度は頭の中に響く様な声ではなく、しっかりと誰かが発した声を感じ、それはあろうことか僕の頭上からだった。僕は訳も分からないまま咄嗟にその場で蹲った。
「ラスティ・ラズ・クリファトフッ!!!」
そう聞こえた瞬間、突然目が眩む程の光が辺りを強く照らした。目を瞑っていた筈なのに何故こんなに明るくなったのかと思い、思わず顔を上げてみるとそこには強い光を縁取る様に逆光で等身大のシルエットを浮かべている人物が立っていた。僕はそのローブ姿に見覚えがあった。そう、昨日家で倒れていた人だったのだ。
やがて彼が放ったらしい光は弱々しくなって消えて行き、黒い怪物は消滅していた。ふと辺りから鳥の囀りや人の声が聞こえて来た。どうやらこの状況から察するに元の世界へ戻って来ている様だ。そして背を向けていたローブの人が振り返り何も言わずに唖然としている僕の姿を確認した。その顔はフードで隠れて睨んでいるのか凝視しているのかすらわからない。そして前へ向き直った後、壁を上手く使い勢い良く屋根の上へ登り夜空に溶け込むようにして姿を消したのだった──
* * *
「非日常……か。」
風呂上がりで水が滴る髪をハンドタオルで拭きながらソファに腰掛け、今日の出来事を思い出していた。
今まで魔法だとか非現実的な物の類には全く興味がなかったが、本当に存在していたんだな…魔法の様な物を使っていた気がするんだけど一応人間…?みたいだったし、何処と無く女性的な声だったが……男ではないのか?それに結局あの古書の事は分からず終いだった。
正直、面倒事に関わりたくないと言う気持ちと、もう一度会えないかと言う期待の気持ちが僕の胸の内で鬩ぎ合っているこの現状は所謂”もやもやしている”と言うやつなのだろうか。全く、言葉にするのが難しい感情だ。
* * *
次の日の朝、アラーム音が部屋全体に鳴り響く午前6時過ぎ。僕は昨日あのままソファで寝落ちをしてしまった様で、目が覚めてから空腹感と共に身体の節々に痛みを感じた。
まるで昨夜の一件が嘘だった様に、平凡な朝は今日も僕を迎えに来た。
いつもの様に支度をしてから、余った時間で庭の花達の手入れをする。とっておきの時間を堪能した後、僕は通学路を辿っていった。
見慣れた風景でさえ、目に入る度に”あぁ、しっかり日常だな。”と言う気にさえなる。
電車を経由し学校に着くと、教室の定位置に着席をし講義が始まるまで本を読む。この淡々とした日々を相変わらず過ごしていた。
その日の帰り道も、昨日の出来事が少しだけトラウマで辺りの人が消えていかないか確認しながら帰ったが特に何も起きなかった。
* * *
それから数日が経過したある日のことだった。
夕陽がもうすぐ落ちるであろう時間帯に、僕が大学から家へ帰っていた時のこと。一瞬、誰かの視線を感じた。自意識過剰だろうと止まりかけた足を進めると、また視線を感じ、次第に何かが僕のあとをつけているように感じた。
「(そういえばあの化け物に追いかけられた時も視線を感じたような…。)」
だが今回の視線は前の物とは少し違い、悪寒がする程ではなかったのだ。
僕は覚悟を決めて後ろを振り返ってみると、ストーカーらしき人物はどこにも見当たらなかった。やっぱり僕にストーカーをする人なんているわけがない。と少し自虐気味に心で笑いながら前に向き直ると、目を疑うことに8m程先にあのローブの人が此方をじっと見つめて立っていたのだ。僕は驚きのあまり少し硬直していたら、とある違和感に気がついた。
普通、街中でフードを深くかぶってローブを羽織っている人なんていたら明らかに怪しい人として視線が集まるはずなのに、通り過ぎていく人達は誰も彼を見ていないのだ。それどころか、まるで存在していないかのようにそれぞれの行く先々へと歩いている。どういうことなんだ…と混乱していると、彼は左の路地裏への道を確認するように見て、その方向へと歩き出した。僕は咄嗟に追いかけないといけないという意思が込み上げて来て、人混みをかけ分けながら彼を追いかけた。
──不気味な追いかけ合いは思ったよりも長く続いた。見覚えのない薄暗い入り組んだ路地裏をただただ進んでいき、追いついたかと思いきやマントの人はもうすでに次の曲がり角へと消えていて、まるで"ついてこい"とでも言っているかのように背中だけをちらつかせ奥へ奥へと歩いていった。そして、僕が痺れを切らして
「どこまで行くんですか」
と少し大きめの声で角を曲がりながら言うと、丁度行き止まりに突き当たった。切れかけた息を整えながら僕は漸く立ち止まった彼を見た。すると、彼は僕の方に向き直ってから
「………本を…返してくれませんか…」
と俯き気味に言ってきた。
何に驚いたのかは自分でもわからないけど、驚きのあまりキョトンとしてしまった。本って……あの古書のことで合っているのだろうか。取り敢えずこの前助けてくれたし悪い人ではないような気がしたので
「本、家に置いてきたので取りに行きますか?」
と言って僕の家に行く事になった。しかし、その前に大きな問題が発生した。
………ここはどこなのだろうか。
随分と帰路から離れてしまったようで、現在位置がわからなくなってしまったのだ。生憎僕は未だに携帯を持っていないし、それに付け加え地図も持ってないと来た。
「どうしよう…」
今来た道を辿ろうにも流石に無理があるし…と悩んでいると彼が何かを察したかの様に一度頷き、分かりやすく何か考え込む様な仕草をした後にローブの隙間からオペラグローブの様な黒手袋を付けている手を僕の方に差し出し、掌に直径10cm程の淡い光の球を浮かべてみせた。
「……これに触れてください」
そう言われて僕はそっと、どこか暖かみを帯びている光に手を伸ばした。
気がつくと、僕はいつもの見慣れた玄関のアプローチの上に立っていた。
まさか今日瞬間移動を体験するなんて思いもよらない出来事に驚かないなんて出来るはずもなく。しかし、彼から掛けられた言葉にさらに驚いた。
「……驚かないのですね。」
どうやら僕はあまり驚いている様に見えなかったらしい。「驚いていますよ」と軽く返事をしてから家に入って本を取りに行った。
……
…………
…………………………
ない。
…え?何故だ……??確かに机に置いていたはずなのに消えてるなんて…まずい。ここは素直に説明するべきなのか………??
僕は渋々重い顔で玄関へ出た。玄関には当然の様に僕が本を持ってきてくれると思って待機している彼が首を長くして待っていた。心が痛む。どう説明をしたらいいのだろうか…いや、ありのままの事を話そう。
「あ……あの。本が、その……消えていたん…ですけど」
重たい口を開いてそう告げると、数秒の間沈黙が続いた。空気がとても重たい。
第二夜の【貴方へ雫と色彩を】もお読み頂き誠に有難う御座います。 次回も是非お読みください。
キャラ説明(その1)
描きかけとデフォルメの画像で申し訳ないです
キャラの特徴は、薄い茶髪の癖っ毛、実は長髪、三白眼、琥珀色に輝く瞳、肩出しの服、て感じです。
名前:月詠真琴(tukiyomi makoto)
年齢:19歳 / 身長:173cm
性格:綺麗好き、クール
趣味:読書とガーデニング
特技:料理 / 好物:甘い物と紅茶
苦手:辛い物 / 好所:自宅
嫌物:人(特に女)、運動
職業:大学生
設定:両親は既に亡くなっており15歳から一人暮らしで自分はごく普通の大学生だと思っている…思っていた。しかしある日突然古書略奪戦争に巻き込まれ魔術師の存在を知る事になり、慌ただしい日々がスタートした。