一夜目「僕のterritory」
初めまして、イザナと申します。
今回『小説家になろう』への投稿は初めてとなります。よくシステムも理解しておらず、筆の腕も未熟者ですが何卒よろしくお願いします。
今作は自分が約二年前から書いては書き直しを繰り返していた作品で、人に読んでもらう為の小説というよりか自身の想像の世界を生きるキャラクター達の物語を言葉にした様な作品なので、あまり面白みは無いかと思います。ですが精一杯書き連ねた作品なので是非お手隙の際に読んでいただきたいです。評価や感想は正直無くても良いです。ただ目を通していただけると幸いです。
(以下はあらすじの細かい説明なので読まなくても大丈夫です)
この物語は主人公である月詠真琴は小さい頃から読書が大好きで友達が少ない大学生なのですが、とある雨の日に家に帰ると庭のど真ん中で倒れている1人の人を発見します。しかしその人はすぐどこかへ去り、その場に古本が残されていました。月詠真琴はその本が裏世界の超貴重な【魔道古書】だとは知らず、「さっきの人が取りに帰って来たら渡そう」と一旦預かっておくことに。しかしあろう事かその魔道古書を狙っている裏世界の『ザラディ魔族軍』という組織に命を狙われる羽目になり、そんな大ピンチの中まるでヒーローの如く一人の魔導師が月詠真琴を助けに現れます。それは昨日庭で倒れていた謎の人物でした。この出会いから、退屈で味気なく廃れかけていた二人の人生が次第に色付き始めます。
そんな雰囲気の作品となっております。(そうしていけると良いなと思っています)
長々と失礼しました。どうぞお楽しみください
これは色彩を持たない者達の物語───
今は梅雨の季節。
僕…月詠真琴は降りしきる雨の中、ぽつぽつと傘に当たる雨音を聞きながら大学の帰り道を歩いていた。今日はいつも以上に湿度の高い空気が僕の癖っ毛を際立たせる。早く家に着かないかと心の中で唱えるばかりだ。
そう、今日は……運が皆無な日なのだ。
朝寝坊して遅刻しそうになったり、大学の廊下で転んだり、雨の日なのに傘を忘れたり。傘は何とか大学の購買部で買えたものの、転んだ時に強打した膝の痛みが消えることは無かった。
いつものように薄暗く人気のない細い路地裏を通り、帰路の過程で一番最後にある曲がり角を右折した。すると正面には壁が現れ、一見行き止まりの様だが、その壁には手形認証パネルが埋め込まれており、僕が壁に右手を翳すとパネルが手を瞬時にスキャンし、壁が扉の様に右へスライドした。近年は空き巣防犯の為、二重扉で隠れ家式の家が増えているのだ。
そこには間も無く、色とりどりの植物や花が装飾され、地面には芝生が生い茂り、アプローチは砂利の上にお洒落な石段が置かれていて、その芝生とアプローチに境界線を引く様にして両サイドの地面に埋め込まれているガラス張りの水路には透き通る程の綺麗な水が循環している。そんな清々しい見慣れた玄関先が広がっている…はずだった。
ただ一つ、この場にあるはずもないものが視界に入り込んでくるまでは。
──そこには何故か、”人”が倒れていた──
その人は暗い灰色のフード付きローブの様な服を身に着けていて如何にも怪しく、身長は僕と同じ173cmくらいでどういった訳かアプローチの上で蹲って俯けに倒れていた。そして何故か至る所に傷を負っており、そのせいか服がボロボロになっていた。ぱっと見た感じ女性という感じはなく、どちらかと言うと男性の様だ。
「誰……」
空き巣防犯で名高い隠れ家式はどこへいったのであろうか…
さっきからピクリとも動かない様子からして恐らく寝ているか気絶しているか……死んでいるかのどれかだ。
僕は呆気に取られながらも、その謎の負傷し蹲っている不審者みたいな人に恐る恐る近づき、まずは生存確認を行ってみた。
「息は…してるのか、な??」
耳をすませて呼吸を確認しようとするが、こういった場面に遭遇したことのなかった僕は人命救助方法なんて無知に等しく、あまり意味はなかった。だが、微かに息をしている様ではあった。
「も、もしもし……」
呼び掛けてみるが当然の様に反応は帰ってこなかった。
どうするべきか?と一人悩んでいると、突然倒れていた人が意識を取り戻した様に勢いよく立ち上がった。
「…!」
そして辺りを見回したのちにローブを翻して嵐の様に去って行った。
「えぇ………」
そのあまりに速く唐突な動作に終始硬直するしか無かった僕は、深い溜息を吐いてから室内へ入る為に立ち上がろうとした時、ふと地面に一冊の本が残されていることに気がつく。
「さっきの人の忘れ物かな…?」
徐にその本を拾い上げてみる。見た目は今時少し珍しいアンティーク調の本だ。しかし、表紙には明らかに母国語ではないどころか外国にすら存在していないような見たこともない字体の文字が記されている上に、中のページは全て白紙だったのだ。読書好きな僕ですらこんな本見たことがない。
一番にこの本をあの倒れていた人に返そうと思い立ったが、言葉通り僕は彼のことを何も知らないし家に不法侵入された側でもある。況してや空き巣だったかもしれない人の落し物だ。ただ何故か怒る気は湧いてこないのだ。それどころか怪我は大丈夫なのかと心配している程である。
しかしどうやって家内に入れたのだろうか?入り口は隠し扉であるし、セキュリティも万全なはずだ…扉には外傷や抉じ開けた形跡すらも無かった。………はッ、もしかして…
「壁を擦り抜けたとか?」
………何を言っているんだ自分。きっと疲れているんだ。と虚しさに浸りながら取り敢えず本を片手に家に入ることにした。
──そして翌日
早朝に起きてから玄関兼庭に置いてある花の手入れをするのが僕の日課だ。
「(うん。今日も一段と綺麗だ)」
愛用しているティーポット風の金属製ジョウロで植木やプランターの花に水をやりながら一つ一つの花を心の中で愛でる。
そして、朝の水やりを終えると支度をして大学へと向かう。
雨は苦手なのだが、翌日に見られる雨上がりの街というものは僕を心底魅了させる。
水溜りに反射して映る空の青色。朝露を纏って煌びやかに輝いている紫陽花。そして何より稀にしか見ることのできない神秘的な虹。それはまるで書き留められた小説の中にある世界のようで、この世界は誠に壮麗であると改めて告げられているようだからだ。
辺りに目を奪われていると、あっという間に最寄り駅の前に到着した。大学へは電車で通学していて、その間は暇だから持参した小説を立ち読みしている。普段も暇されあれば小説を読み漁っているおかげで、昔付けられたあだ名は”本の虫”だった。今となってはしっかり名が体を表しているなと嘲笑えるものだ。
目的の駅に到着すると、改札を出て真っ直ぐ外へ向かう。大学は駅を出てすぐ目の前にあり、今はちらほらと生徒が校門を潜り始める時間帯だ。僕も人の流れに身を任せる様に校門へと続く階段を登っていると、いきなり背後から誰かにドンッ!!と頭突きをされた。
何とか倒れかけた体勢は立て直せたものの、危うく階段から転落しそうになった。一体誰が頭突きをしたのかと振り返って見ると、案の定僕が想定していた人物だった。
「よっ!おはよう真琴!!お前今日も朝早いのなぁ」
そこには僕の数少ない友人の一人"詩口蓮"がスポーツバッグを肩に掛け感心の目を僕に向けていた。
「……おはよう、蓮。蓮はバスケ部の朝練?それといきなり頭突きは辞めて」
蓮は大学のバスケ部に所属していて、僕と正反対なスポーツマンなのだ。
「いきなりじゃなかったらいいのか?!」
「そういう問題じゃない……今さっきだって階段から落ちそうになったんだよ」
「だーいじょーぶだって!俺が受け止めてあ・げ・る・☆」
「そんなキラキラしてもダメ」
「ちぇ〜……ってやっべ!!!朝練遅れる!またな真琴ー!!」
「あ、あぁ……」
なぜ最近僕の周りには突然現れ嵐の様に去る人が多いのだろうか…と走っていく蓮の背中を遠目に僕は気怠げに教室まで足を進めた。
教室に着くと、人気のない室内を見渡してからいつもの定位置の席を確保する。そして講義が開始するまで、また小説を読むのが僕の日常だ。小説を読んでいる時だけは辛い事や現実を少しだけ忘れる事ができるし、何より他人と関わるよりずっと楽だ。
なんて、そんな事を思いながら鞄から読みかけの小説を取り出そうとしたその時、ふと鞄の中に入れた覚えのない本が入っている事に気がつく。
それは、昨日倒れていた人が落としていった本だった。傷がついてしまっては大変だと思って確かに家に置いて来たつもりだったのに、何故ここにあるのだろうか。僕はその本をそっと鞄を閉じ、また小説を読み始めた。
気がつけば講義時間間近になっており、辺りは大学生で溢れていた──
* * *
講義が終わると昼食のため殆どの生徒が食堂へ向かう中、僕は一人”中庭”へ向かった。
大学の中庭は噴水や花壇が充実しており澄んだ空気の中、食事専用のラウンジスペースにて昼食をとることができる。更にここは教室から遠い所為か全く生徒がおらず、ゆったりとした快適な時間を過ごせる。僕にとって、まさに楽園だ。
だが、その”楽園”は唐突に一変した───
本を片手に手作りのサンドウィッチを食べていると、一瞬何処からか物凄い悍ましい視線を感じ全身に寒気が走ったのだ。
しかし…辺りを見ても特に変わった様子はない。
「気のせいか……?」
平和な生活を送りたいのに、最近変な事ばかり起こってる。僕は何か悪い事したのか?
おかげで午後の講義は全く頭に入って来なかった。
* * *
次の日、僕は講義を終えた後大学の図書館へ向かった。大学の中では最も居心地の良いお気に入りの場所だ。
この図書館には大体100万冊もの本が保管されており、一般人の立ち入りが許可されているAエリアと大学関係者のみ立ち入ることが出来るBエリアの2つがある。ここには子供の頃から通っていて、この大学に入学したのも3割…いや5割が図書館目当てだ。Bエリアには閲覧室や自習室、PCが完備されたコンピュータ室等が完備されており基本出入りは自由。
しかし今日ここへは本を読むといういつもの目的とは少し違う用事で来た。あの倒れていた人が落としていった謎の本の正体が知りたくなったのだ。これは昔からの癖で、何でも疑問に思いすぐに解明したくなる。この文字は一体何語なのか?本の素材は?作者は??何故白紙なのか??探ってはいけない気がしながらも僕はやめなかった。それを上回る好奇心の矛先が今、手の中にあるのだから。
そして数時間後、見事なまでに何もわからなかった。読書は好きなのだが、調べ物はあまり得意ではない。どの語学資料を探してもこの本の字には当てはまらず作者の名前すらわからなかった。もしかすると彼が自分で作った本なのかもしれない。
「今日はもう帰ろうかな…」
僕は各所から引っ張り出してきた本を片付けて、図書館を後にした。
図書館から出ると真っ直ぐ帰路を辿るように最寄り駅へ向かった。思ったより暗くなっていた夕空が辺りを影で飲み込んでいく。こんな日には不穏な何かが起こりそうな気がしなくもない、できれば何も起こらないでほしいが。
駅に到着すると改札を通りホームへ向かう。今が丁度、帰宅時刻を少し過ぎた所為だろうか、普段よりホームに人は居なかった。
電車に揺られること約20分、辺りはすっかり闇に染まり、人気はより一層少なくなっていた。僕はいつもより早歩きで家へと向かうが、道中途轍もない異変に気付いてしまう。
それは明らかに非日常を示しており、受け入れるのに数時間では足らない程のものだ。
僕が帰路を辿る足を進めるたび徐々に、道路を走る車も、歩道を歩く人も、堀の上を歩く猫も何もかも消え、先程僕とすれ違った人でさえももうその姿を視覚で捉えることすらできずに、いつしか世界は僕一人だけが存在しているかのように、静寂の街と成り果てていた。無人のコンビニや道路が異常な静けさを放ち、僕を無の威圧で押し潰していった。
「何だ…これ……」
あまりに突然な出来事に僕は動揺するしかなく、早く帰りたいと願っていた早歩きの足でさえも完全に停止している。
すると、そんな僕を嘲笑うかのようにどこからか一匹の鴉が不気味に鳴き声をあげた。
次の瞬間───
背後に雷が落ちたかのような強い振動と凄まじい轟音が鳴り響いた。振り返ると、そこには人の様な形をしているが、全身が真っ黒で手足が長く2m以上はあるであろう得体の知れない化け物が一匹、まるで獲物を狩る前の猛獣のように僕を凝視していた。
自然と溢れ出る恐怖と言う感情は後退りも許さず足を竦ませた。
『僕はここで死んでしまうのだろうか』
そんなことが頭を過る。そりゃそうだろう、何せ、僕は目の前の化け物を倒す術などない一般市民なのだから。
《………て》
「えっ」
ふと、誰かの声が聴こえた。
《に…て…………逃げて!!!》
!?
気がついた時には、僕は訳も分からないまま車一つ通ってやしない大きな車道のど真ん中を走り出していた。
【貴方へ雫と色彩を】をお読み頂き誠に有難う御座いました。今作は男同士の恋愛話ですが、潔癖症、恋愛無関心、性欲皆無な人間達の話なので何時迄もお互い望んで触れ合うことすらない関係の全年齢向けです。なのであらすじでも書きましたが恋愛話としてはかなり薄味だと思います。冒険小説だとしてもまだ先の話になると思います。今の異世界モノで盛り上がっている小説界にはあまり似つかわしくないと言うか場違いの様な物語だとは思いますが、これからも地道に執筆して行きます。