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【小説】オリジナルの小説っぽいやつ

私が幼女になったわけ

異世界転生とかの転生ってなんだろうって考えながら書いたらこんなものができました。

あるところに男がいた。

彼はひどく死を恐れていた。

「恐ろしい。恐ろしい。死ぬのが本当に恐ろしい。」

そう口癖のように言って、ただ死を恐れ無為に日常を暮らしていた。

男はそれなりに頭のいい男だったが、なまじ中途半端に高い知性が死の恐怖を増幅し、そして死を遠ざけるすべがないことをよくわからせた。

こういった恐怖は幼少期によく発症し、そしてその途中経過においては鈍化し、鳴りを潜めるものであったが、男にはそれはなかった。

ただただ日々迫りくる死におびえ過ごしていた。

何もしていなかったというわけではない。男は物心ついた時から、そして死を認識したときから、死から逃れるためにすべてを尽くした。

医学を学び、寿命の楔から逃れようとした。宗教を学び死後の世界に救いを求めようとした。怪しげな魔術に傾倒し悪魔との契約を真剣に考えたことすらある。

すべてが無駄だった。

ありとあらゆる死から逃れる行動、その挫折の果てに、男はようやく根本にある死とは何かを考えるに至った。

死とは何か、それは生命が活動を終えるときである。ではその生命とは何か・・・

「生きる。それは食べ、増えることである」

なんとなしにつぶやいた言葉ではあったが、それしかない気がした。

しかし、男は納得できなかった。

何も男は食べることができなくなることが怖いのではないのだ。

増えることができなくなるのが怖いのではないのだ。

そう思い至ったところで男は自身の恐怖に対して再度考え直すことにした。

男は悩んだ。

何が怖いのか。

・自身の形がなくなることが怖いのか

 ―違う、体を構成する物質は今でも入れ替わり続けている。

・思考できなくなることが怖いのか。

 ―違う、それなら寝ることすらできない。

・私の知識が残らないことが怖いのか。

 ―違う、それならば本を残せばよい。

違う、違う、違う。

いくつもの思考の果て男は自身で納得できる結論に至った。

「私は私が続かないことが怖いのだ」

連続性、自己が自己である理由。

ただただ続いていくこと、それが自信の望みであると気づいた。

私が連続するためには何をすればよいのか。

男は振り返った。

それならば子を成せばよいではないか。

なんという簡単な結論。

私はくだらないことに囚われ続けていたのだ。

ひとまずの解決策を得た安堵感もあり、男はうとうとし始めた。

男はぼやけた思考のまま将来を考えていた。

子を成すにはまずは母親が必要だ。

生まれてきた子にはすべてを与えよう。

知識も財もすべてを与えて完ぺきな自分にするのだ。

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――――――はて?本当にそれが私の続きになるのか?

いつしか男の目は完全に冴えていた。

違うではないか。

確かに私から分かれた時点では続いているといってもよいだろう。

しかしその後は?

完全に分裂した個と個だ。

私から子が別れた後も私は続いていくのだ。

そして私は死ぬ。

「そんなもの!そんなもの私の続きとは認めない!!!」

男は声を荒げる。

違う。違うのだ。そんな不確かな連続性で満足できるのならもっと早くに解決できていた。

私は満足して死を受け入れられたのだ。

もっと完璧に私を伝えられたら。

最後の瞬間まで私を誰かに伝えられたのなら、それは私が続いているということになるのだろうか?

最後まで伝える?

どうやって?

思考を伝える方法なんていまだ確立されていない。

いや、そうなのか?そんなことはない。

思考は伝えられる。

完ぺきではなくても言葉がある。

人間には思考を伝えることも、そして聞き取ることもできるのだった。

簡単だ。最後まで、私の最後の瞬間まで私の言葉を聞かせつづればよい。

年を取り、終わりも近づいている。

それからの行動は素早かった。

相手には遅い時間まで外を一人でふらついている子供を選んだ。

別に自分の子供である必要はなかった。いや、本当ならば自分に近いもののほうが良いはずだ。

しかし男には時間がなかった。手ごろに確保できるならそれでよかった。

子供にはすべてを与えた。

財も、集めた知識もすべてを与えた。

与えたという言葉は間違いかもしれない。

どのみち自分の続きに渡すのだから。

そして聞かせた。今までの半生をそして、

――――――――――これが最終局面だ――――――――――

ベッドに横たわりながら男は息も絶え絶えに言った。

「お前は俺になる」

老いぼれた顔をしかめながら話す。

「ありとあらゆるものを準備した」

咳が出る、終わりが近い。

「何かやり残したことはあるだろうか」

何も言わない、ただじっと見ている。

「心配するな大丈夫だ。何もかも整えてある」

彼は薬を飲んだ。

「これで最後だ」

ガタガタと体が震える。

「最後の瞬間までしっかり私を見ておけ」

そういって目を瞑った。

――――――――――

――――――――――――――――――――

「・・・本当に間違っていなかったのか?」

そして崩れた

「私は本当に続くのか」

壊れていく

「何かを何かを間違っていなかったか」

目を見開き、手を伸ばす

「いやだ死にたくない、死にたくない」

血を吐く

「俺はお前になって次こそ死なない方法を・・・」

最後にそういって男は事切れた。

「馬鹿な男だ」

彼女はそう言って椅子から立ち上がると男を見下ろした。

間違いだらけの男の人生だったがまさか最後まで間違え続けて死ぬとはなんという哀れか。

現に私には彼の意識も何も伝わっていない。

「これではただの幼女誘拐犯だね」

彼女は笑った。

「さて、これからどうするべきか」

男は私にすべてを残したというが、それをすべて自分のものにするには手間だろう。

誘拐犯の資産を誘拐された被害者が奪えるどおりもなし、杜撰な計画だ。

「警察に通報するのは手に入れる算段が付いてからだな」

彼女はクスクス笑いながら辺りを見渡した。

しかし何というか男の考えはいまだによく理解できなかった。

なぜ自分の最後まで話すことが自身が続くことになると考えたのか。

もし成功したとしても、それで続くのは意識のみだ、知識、人格などは続かない。

「もし私ならどうするか」

これからやらないといけないことが多すぎて嫌気がさしたのか彼女の思考は横に逸れ始めた。

「私ならもっとうまくやるのに」

彼女は口癖のように言った。

「恐ろしい。恐ろしい。死ぬのが本当に恐ろしい。」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の幼女のセリフでゾクッとしました。非常に良く物語が構成されていて、伸びるべき短編だと思います(謎の上から目線) [気になる点] 男は短くて70才生きたとして、少女を誘拐したのが40才く…
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