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デッドライン  作者: タキン
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もう1人の僕

校庭の桜の花びらが開ききった4月上旬。入学式を終え、学校中に華やかで初々しい雰囲気が漂っているなか、


「すいません、今日で部活辞めます」

「なっ……!」


満を持して僕は部活を辞めようとしていた。


ざわめいていた職員室の喧騒がピタリと止み、全員が僕と顧問の山岡先生との会話に耳を傾けていた。


「そうか……、これももう飽きたのか……?」


左手に持っていたコーヒーカップをゆっくりと

置きながら僕の方に向き直る。


「はい……すいません………」

「まいったな……、お前を中心にした作戦を考えていたんだがな……」


山岡先生の机の上には今後のサッカー部のスケジュール表があり、唯一赤ペンを使って鮮やかに書かれていた文字は「インターハイ 初戦!!」だった。


「本当にすいません……」

「いや、いいんだ。お前だもんな(・・・・・・)……仕方ないさ……」


どこか納得したように呟くが、その声は沈んでおり、自分にのし掛かってくる罪悪感が更に重くなってくる。


「まあ、気が変わってまたやりたくなったらいつでも言ってくれ。俺はいつでも歓迎だからな……」

「はい、ありがとうございます……」


握手を求められたので右手を出し、軽く握手を交わした後、無言で職員室から退室した。




ーーーーーー

ーーーー

ーー




産まれてからの18年間、いろいろな事でこれまでの常識を覆してきた僕には、科学者でもわからない秘密を持っていた。


生後3週間で鏡に向かって当然のように話始めた僕は、その次の日から研究所に入れられることになった。図形識別、音声識別。この2つの試験は3日で意味を成さなくなった。

恐らくその3日間、普通に話していたからだろう。(勿論独り言だが)

極め付けは運動能力テスト。はいはいを初めて20秒後、何を思ったか掴み立ちを始め、気がつけば歩いていた。

何度も体に異常がないか調べたし、脳の発達も調べた。だが、どこを見ても同年代の赤ん坊と同じなのだ。まあ、当然のように僕の名前は世界中に広がったし、両親の知名度も一気に上がった。

それがどういうことかもわからない当時の僕は、当然のように新記録を更新していった。


それから数年が経過し、小学校を卒業する頃。僕はいろいろな習い事に興味を持ち、極めては辞めるを繰り返していた。

ピアノ、トランペット、茶道などの文化系の習い事を中心に極め、高校生に入る頃には運動部を含めたほとんど全ての部活を極めていた。

だが、何をやってもすぐに極めてしまう為、いつも自己紹介の短所の欄には、「飽きっぽい」と書いていた。




ーーーーーー

ーーーー

ーー




学校から駅までの間、電車の中、そして家までの道。何度もルートを変えてはいるが、いつどこにいても視線を感じることが多かった。声をかけられたり、ひそひそと言われたりするのは当然のことで、1日に3度程は握手やサイン、2ショットを求められることがある。小学生の頃からこういったことが続いているので、最早当然のように思うことが普段だが、どうにかして辞めてもらいたいというのも本音ではあったりする。

ちなみに両親はどちらも仕事で海外出張しており、正月に軽い電話をするくらいなので、息子がこういったことで悩んでいるというのは知らない。高校に入ってから家で会った回数は恐らく0だろう。生活費の方は、大金の入った通帳を渡されたので、それでどうにかしている。


自室のゲーミングPCを立ち上げ、先週買っておいたスコーンの袋を開ける。ヘッドセットをつけ、PINを入力し、ログイン欄をクリックしてログインを開始しながら僕は、独り言(・・・)を呟く。


「ローズ?」


パスワード、IDを入力すること5秒。ロードを待つ間の10秒。あわせてたっぷり15秒程待った後、のんびりした声が頭の中に返ってきた(・・・・・・・・・)


(………………ん~…………?)

「もしかして寝てた?」

(………あぁ……寝てた……けど、何?)

「iron・warやるけど」

(マジか!見る!!)


寝起きの声が一気に大音量となって頭の中に響く。


「じゃあ、手伝ってよ?」

(任せろ!!後はレアアイテムだけだしな!)




産まれた時から僕は1人ではなかった。常に頭の中にローズがいて、僕の良き話し相手になってくれていた。助言してくれたことも、手助けをしてくれたことも1度や2度ではなく、何度も何度もローズには助けてもらった。ここまで言うとわかる人もいるとは思うが、今までの驚異的な僕の功績は、全てローズからの影響と言っても過言ではない。

ローズから言葉を学び、体の動かし方を学び、知識をローズから授かった。(授かったはおかしいかな)


(待って。その武器は強化しなくて良いでしょ)

「え?なんで?」

(いや、次のダンジョンって火炎系のモンスター出なかった筈だから、水属性強化しても意味ないと思う)

「そっか、なら止めとく」

(そうしとけ)


誠に信じがたい話ではあるが、ローズは成長している。産まれてから5歳頃までは、声しか聞こえなかったのだが、小学校のトイレで手を洗った時、鏡の中の僕の顔を勝手に動かすほど、力をつけていた。そして18歳となる今年、遂にローズは僕の体を勝手に動かすことができるようになった。

日に日に干渉力が強くなっていくが、不思議と不安を感じることはなかった。むしろ逆にローズの成長を喜んでいたりもする。


「さぁ、レジェンドゴーレム戦!!」

(魔法使いの呪文で動きを止めろ!)

「わかってる!」

(慎重にやれよ?レアモンスターなんだからな!?)

「わかってるって!」

(レアアイテム落とす奴なんだからな!?)

「わかってるってば!!」


それでもたまに邪魔だと感じることはある。

街を歩いている時にローズが1度興味を持つと、僕の体を勝手に動かして、興味が尽きるまでその場から動かない。

また、今日のように、興奮したりすると、僕の体を勝手に動かしてリアクションしたりするので、まともに行動出来なかったりするのだ。


「よっしゃぁ!倒したぁ!!!」

(ナイス!!)

「リザルト画面……には………」

(ある!!あるぞ!ゴーレムハート!!!)

「ほんとだ!」

(え、じゃあ、遂に…?)

「そう!!アイテムフルコンプ!!」

「(よっしゃぁぁぁーー!!!)」


とまぁ、こんな感じで2人で騒ぎながらゲームをしたりしている日々なのだが、産まれた時から一緒ということもあり、かなり仲良くやっている。


ちなみにローズの本名は、"ロキ"というらしく"ローズ"は愛称である。

北欧神話の神様"ロキ"であり、ローズが言うには、北欧神話に書かれてあるロキは、自分のことらしい。神様っぽさは今のところ0だが。




ーーーーーー

ーーーー

ーー




『example………例え………』

(いや~、にしても長かったな~、iron・war……)

「……………」

『great………素晴らしい………』

(プレイ時間、2772時間52分。今までで最長プレイじゃないか?これ)

「……………」


耳にかけたイヤホンから、流暢なイントネーションで英単語を話す女の人の声が流れているが、それと同じ音量でローズは話をしていた。


「ねぇ」

(ん?)

「テスト勉強したいんだけど……?」

(したら?)

「正確に言うならしてるんだけど……?」

(気にせずやったら?)

「できるか!!」


マイク付きのイヤホンをしているので、周囲の人からは通話中の人に見えている筈だ。


(まあ、クリア祝いで手伝ってやるよ)

「本当に?」

(少しだけだがな)

「………おい」


いろいろな事に首を突っ込んでは手伝っていくローズだが、勉強面だけは何も手伝わなかった。(それだけは自分でやれ)というのがいつもなので、手伝うこと事態珍しいケースだった。


(で、次はどのゲームをするんだ?)


絶対テストを手伝う気ないだろ………


「そういえば、去年の東京ゲームショウで発表された、新しい据え置き器の発売が明後日だったよね?」

(明日じゃなかったか?)

「明日だった?」

(買うのか?)

「買う」

(じゃあ、買ってから決めようぜ)


昨年発表された新しい据え置き器は、VR機器よりも小さな、カチューシャのようなものだった。しかし、その機能事態はとても素晴らしいもので、ゲーム界に革命を起こす新機能だった。

そう、ゲーム内に意識を飛ばすことができるようになったのだ。


底知れぬワクワク感を2人で抱えたまま学校に向かい、テストをこなす。(意外にもしっかり手伝ってくれた)無事に合格点を越え、翌日の補習を免れた。




ーーーーーー

ーーーー

ーー




USBプラグを接続し、電源ボタンを長押しする。"Awareness Drop"通称"AD"を床に置き、2M離れると、体のスキャンが始まった。


「うわっ、こんなのあるんだ……」

(すげぇな……、これが最新技術か……)


付属の真っ青のタイツを着用してのスキャンは、終始ローズに笑われた。


(で、その飴玉みたいな物(・・・・・・・)は一体何なんだ?)

「あ~、これね、3日以上連続ログインすると、ログアウトさせる道具らしいよ」

(ほ~、じゃあなんだ、体調面も気を付けろってやつか)

「そうみたいだね」


タイツを脱ぎ捨て、寝間着に着替えると、ちょうどアップデートが終わったらしく、ベッドの上で震えていた。 鞄の中から、ADと一緒に購入したソフトを取り出して、ADに挿入する。


「じゃあ、遂に……」

(初体験だな……)

「向こうの世界で」

(おう)


ADを目の上に当て、しっかりと頭にセットし、ベッドで横になる。英語で「ログインしますか?」と問われたので「yes」と口に出したとたん、一瞬目の前が真っ暗になり、意識がゲームの世界へと落ちていった。

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