表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

第2話「葬式と失恋のタンゴ」 3

 言葉はなんだって、口にするのは容易い。

 だから、いつだって言った後で後悔するのだ。


 ――あたしは鈴木田さんの、お葬式にゆく。


 体は死んじゃったけれど、心はまだあたしの中に生きている、鈴木田さんのお葬式。

 考えてみれば、鈴木田さんの事はたいして(というかほとんど)知らない。

 まるでこれから、それを知るために行くようなものだ。

 お母さんは、そんなあたしに何も聞かなかった。


 ――聞かれないから、語るしかない。


 あたしは今まで嘘を吐いたりしたとき、決まってこのやり方に引っかかって嘘がばれた。

 あまりに単純だが、あたしを産んだ人の眼差しから、逃げおおせる事は出来ない。

 でも今度ばかりは、嘘をつき通したいと思う。何故だか分からないけれど、その思いはかなり強く湧き上がってくる。


「鈴木田さんって言うんだ。この携帯の人……」


『どうして知っているの?』とは、お母さんは言わない。あたしの口は、止まらなかった。


「携帯の、オーナー情報を見たの。それに、多分この人、あたしの命の恩人かも……」


『命の恩人』のフレーズにお母さんは、少し不思議な顔をした。少し超展開過ぎたか……。その分、あたしの口は滑らかになる。


「男の人で、おじさんで、いつも朝のバス停で一緒だったから。顔はよく知ってて。でも名前は知らなくて。そう、作業服なの、いつも。結構真面目な人で、あたし態度が悪いとかって、たまに怒られたり……。挨拶はいつもおじさんからだった。でかい声で、うざかったけど、もう慣れてて。もう直ぐ卒業だから、最後は名前くらい聞いとこうかなあなんて思ったり。それが事故で、あんなになって、あたし気を失ってて、おじさんが叫んでくれなかったら、死んでたと思う――」


「そうだったの……」


 お母さんの声が、まるで久しぶりに聞くように、あたしの頭の上から聞こえる。

 あたしは泣いていて、お母さんに抱かれていた。


「おじさんの、おかげ……で、あたし生きてる。携帯、返して、家族の人たちに、お礼を言わなきゃ……」


「そうね。きっとご家族も、聞きたがっていると思うわ。お葬式の事はお母さんが準備するから、美弥は少し休みなさい。大丈夫よ。相手の方には、お母さんが連絡しておくから」


 話の流れで、あたしは鈴木田さんの携帯をお母さんに預けた。それから自分の部屋に入り、ベッドに倒れこんでぼんやりと窓を眺めてみる。今の心にまったく似合わない青空が見えたから、あたしは起き上がってカーテンを閉めた。

 薄暗くなった部屋でぼんやり立っていると、自分の中に別の人が二人も居るなんてことが、信じられなくなる。鈴木田さんも大下さんも、そんなあたしの心を知ってか、気配を薄くしてくれている。


(ちょっと、眠ろう――)


 そう思った時、お母さんのノックの音――。


「美弥? 今、担任の先生から電話があってね、今度の事はクラスの皆さんにも説明してあるから、心配しないで落ち着くまで休みなさいって……。いい?」


「うん、わかった――」


 話を聞いて、あたしは自分のスマホが何かのはずみで、電源が切れていることに気づいた。ボタンを押せば、スマホは何もなかったように目覚めるだろうか。それとも故障でもしたのだろうか。それを、今確かめる気にはなれなかった。


(あたしは鈴木田さんみたいに、たくさん安否確認されるほど好かれていないし。)


 そんな、ひがみのような事を考えながら、だけど、徐々に気になる。

 ベッドに横になって、手探りでスマホをとり電源ボタンを押すと、よく知ったバイブが手の平を揺らした。


 ――偶然の着信?


 鳴るに任せても置けずディスプレイを見ると、同じクラスの野島依子である。

 そう親しくはないけれど、クラスのみんなとなんとなく距離を置いているあたしと、仲間外れの依子は、他人から見れば同じ括りと思う。

 電話はなかなか切れず、あたしはつい出てしまったが、ちょうど同じに電話が切れた。

 依子には悪いけれど、あたしは少しほっとしながら、あらためて目を閉じる。


(友達かあ……。あたし、そういえばこういう事何でも話せる友達、いないなあ……)


 鈴木田さんや大下さんには、そういう友達がいただろうか。

 そんな事を考えながら、眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ