蛇足とオマケ
『蛇足、またの名をある日の王宮の片隅』(本編中~本編後)
『ニワトリ的日常非日常──仁義無き戦い編』(本編中)
ノリと勢いだけで生きています。
『蛇足、またの名をある日の王宮の片隅』
その日は昼から騎士団内がざわついていた。王都近くの村で魔獣が出たというのだ。
しかも、強力な魔力を使うのに普通の動物と見分けのつかない魔獣。そんな見たことも聞いたこともない存在に、騎士の派遣が決まったらしい。
「おい、聞いたか。変な魔獣が出たってよ」
ちょうどそこにいた兵士仲間に雑談を持ち掛ける。相手もそれにのってきた。
「ああ、聞いたぜ。魔獣化してるようにゃ見えないのに人間四人昏倒させたんだってな」
「しかも、倒した相手を食うでもなくそのまま村の中に潜伏してるっていうじゃないか」
「無差別に人を襲うようになってるだけでもやべぇってのに、普通のニワトリに擬態してるから根こそぎ倒さないと危ないんだろ?」
ヤツは嫌そうな顔をした。俺も同じような顔をしているだろう。そんな厄介な魔獣が王都の目と鼻の先にでるとは……。
「だが、騎士だけじゃなくて第三席の魔術師様の派遣も噂されてるじゃないか。それなら大丈夫だろう」
兵士仲間が新たな情報をよこす。その思いがけない情報に、俺は思わず目を丸くした。
「は? あの引きこもりの魔術師様か?」
「おう、どうもあの方の出身の村らしくてな。しかも、できれば魔獣を生け捕りにして研究対象にしたいらしい」
「そ、そうか……それは、安心だな」
引きこもりで変わり者と噂の魔術師様だけれども、実力だけはあるらしい。主席魔術師様と技術的には引けを取らないと聞いている。
めったに出てこないという国で三番目の魔術師様が出張るというからには、魔獣の一匹や二匹サクッと倒してくれるに違いない。
しかも、彼は魔力を多く持つ黒髪をしているらしく、単純な魔力量だけなら国一番だと言われていた。後は経験さえ積めばもっと上へ、いつかは首席となるのではと噂されている。
だが、その魔力量を表す黒いと言われる髪を俺たちは見たことがなかった。いつも彼が目深にローブをかぶっていたからだ。
いくら実力はあるといわれていても、得体が知れなさすぎる。安心だと言いつつも、なんとなくどもってしまう。
そんな気持ちは察してほしい……。
同僚との会話に安心なような心配なような、何とも言えない気分になって、俺はその場を後にした。
後日、魔獣討伐隊が無事村からから戻ってきた。
しかし、その戻ってきた人員に魔術師様がいない。
どうやら、討伐の事後処理のため帰還が遅れるということだ。
さらにその後しばらくして、件の魔獣討伐のあらましが噂になって俺の耳にも届いた。
曰く、魔獣が村を跡形もなくふっとばしただとか、銀の女神さまが魔獣を倒しただとか、実は魔獣は女神さまの使いの聖獣だっただとか?
いったい何なんだ。
首をひねりながら仕事をしていたある日、俺に魔術師の派遣を教えてくれた同僚とまた廊下で会った。
向こうから近寄ってきて、俺の耳元に口を寄せてくる。
「この前の魔獣討伐の噂きいてるだろ。あれに関して、討伐参加者に何らかの箝口令がしかれたらしい。お前もうっかり下手なこと言わないように気をつけろよ」
「お、おう。ありがとな」
ヤケに真面目な顔して話すものだから、ビビりながら忠告を受けた。確かに俺は噂好きだし話すのも好きだ。
なにかわからないがヤバい事情があるなら気をつけよう。
だが、同僚よ。そんな情報もってるなんて、お前ナニモノだ?
親切心からの忠告だったのだろうが、俺は思わずその去っていく背中をうろんな目で見つめてしまった。
─── ─── ───
『ニワトリ的日常非日常──仁義無き戦い編』
「コッコッコッ、ケッケッケッ、コッコッコッ……」
今日も今日とて、代わり映えのしない晴れた朝。朝自体は代わり映えしないけれど、私の日常は先日から大違いだ。
まぁね、朝気づいたらニワトリになっていただなんてね。昔から近所のガキどもに鳥頭だバカだとさんざん言われたものだけど、まさか奴らも私がホントに鳥頭になるとは思わなかったろうな……ハハッと、脳内で乾いた笑いを漏らす。
さて、ニワトリとなってから三日目。私は……。
カッカッカッ……。
とりあえず、裏庭で育てている葉っぱを食べていた。
うーん、じゅーうしーい。おーいしーい。みーずみーずしーい。へーるしーぃ。
だって、なってしまったものはなってしまったのだ。対処方もわからない以上、ジタバタしても仕方がない。
人生(もしや、これからは鳥生になるのか……?)何が起こるかわからない。現にどこにでもいそうな村娘がある日ひょいっとニワトリになるだなんて、誰も予想しなかっただろうことが我が身に起きているのだし。
……この状況を予想できたという人がいるならちょっと出てこい。半日ほど膝詰めてお話合いしよう。
そう、こんな風に何が起こるかわからないなら、考えたところで仕方がない。
そんなこんなで、私は代わり映えのしない晴れた朝を諦めと開き直りでもってのんびりと過ごすことにしたのだった。
☆☆☆
このまま私は非日常となった平和な日常を過ごしていくかと思いきや、狼……じゃない、犬に引き続きピンチ再び!
そんなにせっせと来なくてもいいんですのよ、ピンチさん。
ただいま時刻はちょうどお昼時。私の庭に、侵入者があったのだ。そいつの正体は、そう、なんと──ニワトリ!!!
え、ニワトリってお前じゃないかって?
いやだなぁ、人違い(ニワトリ違い)ですよ、もう。
あまりの衝撃に、誰とも知れぬココロの中のナニカと会話してしまう。
だって、だってええええええ!
私のお夕飯んんんんんんんん!!!
立派な鶏冠をもつ雄鶏に、私が夕飯にしようと楽しみにしていた青々と瑞々しくて柔らかい葉っぱを盗られていた。
食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ、おのれええええ!
今、そこにある危機!
具体的には食料問題。
「コケケケケケケーーーーッ!!!(なにすんじゃわれぇ! それはあたしのモンじゃ、手ぇ出すんじゃねぇぞこルあああああああああああああ!!!)」
私はまずは先手必勝とばかりに、苛立ちのままに侵入者(侵入鳥)に向かって叫んだ。あらやだ。ちょっとお口が悪くなってしまったようで。
これも、鳥になってちょっぴり野生にかえってしまった影響かしらね、おほほほほほほ。
まぁ、私の口の悪さはとりあえず置いておくとして。
大声を上げた私に対し、侵入者(侵入鳥)はこちらにちらりと一瞥を寄越しただけですぐに食事に戻りやがっ……戻った。
なんだコイツ! その葉っぱは私のモノだ!
私がせっせと畑を耕して種をまいて手をかけて育てた、かわいいかわいい葉っぱなんだから!
私はムッとして、それならばと肉体言語でのお話し合いをすることにした。
ケンカっぱやいのは私の性分だ。さすがに最近は手を出すことはなくなったけれども、大切なモノを守るためには、強くならなければならなかった愛する幼馴染みとの日々を思い出す。
ちゃんと晩ご飯の無念は私が晴らすからっ。
ひたすら私の葉っぱをつっつく侵入者を排除すべく、私はじりじりと後ずさる。
少し彼我の距離を空け、そこから助走をつけて敵に向かって飛び蹴りを繰り出した。
返り討ちにされた。
こうして、私とヤツの戦いの日々は幕を開けたのである。
そうして今日も、庭には二羽ニワトリがいる。
この日から、主人公は修羅の道へと進むのであった。(そんなわけない)
主人公は残念ながらニワトリ語を話すこともできなければ、もちろんニワトリ語を理解することもできません。
身体変化しているだけなので。
一回り以上大きい相手(雄鶏)に勝てる日はくるのか。でも、人間に戻っても負けると思う。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。