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If I were a bird─後編

 多分前編からいらしたとは思うのですが、もしこの話しへ直接迷い込んでしまったようでしたら前の話しへどうぞ。

 前編からご覧いただいた方は、このまま読んでいってくださいな。


 私がニワトリになり、何日か過ぎたある日。

 その日、私はソワソワしていた。何となく落ち着かない気分だったのだ。


 ソワソワむずむずソワソワ。



 ……落ち着かない!



 気を紛らわせようと散歩に出かけることにする。


 お散歩効果も虚しく、落ち着かないソワソワとした気分は継続どころか少し強くなっているみたいだ。あっちからソワソワする。なーんか、ソワソワする。


 何故ソワソワするのかを考えもせずに、私はフラフラと歩き始めた。


 あっちだ、あっち。


 チャッチャッチャッと音を立てながら村の外を目指して歩く。この道は村を出て森を越え、大きな街道に続く道だ。

 以前大きな犬に襲われたのもあっち側だったな。あ、嫌なこと思い出した。忘れよう。犬なんて知らない。


 王都へも繋がっているという大きな街道に出るには、森の中を通る必要がある。よく晴れた昼間は、道を外れない限り滅多なことでは危険な獣も出ないいい森だ。

 村を出て少しすると、すぐに森の入口が現れる。

 森の中は木陰と日向の具合がちょうど心地よく、チャッチャッチャッと音を立てながらソワソワした気分に導かれるように進んでいく。


 チャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッ。


 そうしてソワソワのままに歩いていくと、警笛の音が聞こえる。ちょうど進んでいた道の先のほうからだ。

 慌ててそっちに向かって走っていくと、危険な状態だった。

 行商隊が推定野盗に襲われていたんだ。


 相手はぱっと見六人いた。

 でも、行商隊にいる男の人たちが反撃して、二人倒していた。代わりに、行商隊の方も二人倒れていた。


 敵の残りはたぶん四人。行商隊の残りは……幌馬車だからよくわからないけど、もういない気もする。元気そうなのは、大きな剣を構えてプルプル震えている少年だけだ。


 警笛が村まで届いていたら、きっと誰か様子を見に来るだろう。

 でも、このままだとその前に行商隊は全滅してしまう。絶体絶命だ。


 見知らぬ人々でも、そのまま見殺しにしてしまうのは後味が悪すぎる。

 プルプル震えている少年に野盗の一人が切りかかったとき、私は思わず夢中で二人の間に躍り出た。そのまま野盗の顔に飛びかかる。


 えーいっ、蹴り! 蹴り! 突っつき! 突っつき! もう一つおまけに羽根はたき!


 蹴ったりつついたり掃除道具の名前みたいな攻撃を次々と繰り出すと、野盗はまさかニワトリに攻撃されるとは思わなかったのか目を白黒させて唖然としていた。


 あたしの目の黒いうちは、犯罪なんて真似許すまじ!

 暴漢なんか、叩きのめしてやる!


 頭の中まで鳥になってしまったのか、どうにも短絡的になっている気がする。でも、それで誰かを助けることができるなら、短絡的だっていいじゃない。


 ひたすらビシバシと攻撃を加えていると、見知らぬ盗賊達は、私のことを気味悪げに見つめてくる。

 私も気味悪いと思うから大丈夫だよ。人間に意味もなく飛びかかってくるニワトリなんて、意味わかんないよね。

 ちらっとだけ共感しつつも、攻撃の手は緩めない。

 あ、私に攻撃されている人だけは違った、私を追い払おうと必死にジタバタしているからニワトリを見つめている暇はないみたい。


 さぁ、この隙に弱くても手数と気迫で勝負だ!


 ──バチィ!


 出し方のコツを掴んだばかりの魔力攻撃を、とどめとばかりに放つ。

 すると、犬の時と同じように打ち出したはずなのに、魔力は三つに分かれて三人の盗賊に向かっていく。魔力の雷に当たった盗賊は、そのまま昏倒した。


 ……え?


「コイツ、魔物か!?」


 最後に残った何となくイヤな感じが強いヤツが、震えながら私を指さしてくる。悪態をつきながら破れかぶれにこっちに突進してくるものだから、怖くて反射的に魔法を打ちだした。

 思ったよりもゾワッとして、大きな音と光に撃たれた男はドサッと倒れた。



  ***



 それからのことはあまり覚えていない。

 村から自警団が駆け付け、プルプル震えていた少年はガタガタ震えながらニワトリを魔物だと指さしていた。

 泣きそうになりながら村へと戻り、お隣さん家のニワトリ小屋に逃げ込んでかくまってもらった。

 遠巻きに見つめる村の人たちのおびえる視線を感じながら、必死でニワトリのふりをする。武器を持ってすぐ近くに寄ろうとしてくる人には、ごくわずかな魔力の塊をぶつけて威嚇した。


 ねぇ、おじさん、おじさん、私だよ!

 魔物なんかじゃないよ、私だよぉ!


 怖くて怖くて悲しくて怖くて、なんだか泣けてくる。

 そんな私(ニワトリもどき)を、お隣さん家のニワトリ達は何を気にすることもなく普通に迎え入れてくれていた。ありがとねぇ……。


 そうするうちに、近づいてくる人もいなくなり、ひたすら監視だけされるようになる。

 膠着状態のまま何日過ぎただろうか。

 立派な身なりの騎士様たちがとうとうやってきた。討伐隊だ。

 誰を討伐するかって、決まってる。「私(魔物)」だ。


 魔術が近くに撃ち込まれ、ニワトリ仲間と一緒に恐慌状態になっているとそこに騎士様たちが一斉に切りかかってきた。

 無実のニワトリ達が切り伏せられていく。


 ごめん、ごめんね。ここに逃げ込んでごめんね。優しくしてくれたのに、ごめんね。

 私も必死で逃げ惑う。


 でも違う、違うよ!

 私は魔物なんかじゃないよ!


 だから、殺さないで……!


 討伐隊に追いかけられて逃げ惑い、気づけば自分の家の屋根の上に登っていた。

 飛べないと思っていたけど、人間ニワトリやれば出来るものなんだねぇ。

 涙なんか出ないと思っていたこの身体から、ボロボロと涙が溢れる。視界がボヤけてよく見えない。

 それでも、見下ろす視界に一つだけはっきり見えたものがあった。黒い色。


 あの人だ。あれはあの人の色だ。

 私の頭の中が一気に歓喜で満たされる。怖くて不安で悲しくて仕方なかったのに、あっという間に世界がキラキラと輝いた。


 世界のついでに私も輝いた。銀色に。


 あれ? 私って褐色の羽根だったよね?

 ううん、そんなこと今はどうだっていい、だってあの人だ、あの人がいるんだよ!

 こんなにすぐ側にいるんだよ!


 恐怖なんてもうどこにもなかった、あの人がいる、そのことだけが世界のすべてだった。


 よかった、こんなに高い屋根の上からだって、ニワトリならば飛んでいける。

 主に滑空だけど!

 さぁ、あの人の元に。今行くよ!


 私は屋根のふちを蹴り、あの人目掛けて飛び出した。

 そして、騎士達の矢も、私に向かって飛び出してきたんだ。


 私は騎士の放った矢に貫かれた。たぶん。痛みよりも衝撃が強い。


 意識を失う前に聞こえたのは、あの人の絶叫だったと思う。

 彼が大声を出しているのが珍しくて、なにより声変わりをしているから確信はなかった。でも、多分、絶対、あれはあの人の声だった。


 ──大丈夫だよ、大丈夫。あなたが心配することなんてないからね。何もないからね。


 あの人の事を考える時はいつも「あの人」もしくは「あの子」。名前を呼んで返事がなかったら寂しくなるから、名前は呼ばない呟かない。そう、自分を戒めていたけど。

 あぁ、でも、今なら呼んでもいいかな、あの子の名前、呼んでもいいのかな。八年ぶりに呼んでしまおうかな。

 今ならちゃんと、返事をしてくれるよね。


 けれど、その前にあの子が泣いてる気がして、とりあえずは頭をなでてあげたいなぁ。痛みと寒気に腕をあげることが出来ないや。むむむむむっと諦めきれずに腕をあげようとしていると、震える身体を温かな何かに包み込まれた。

 懐かしい香りに包まれて少しホッとすると同時にやっぱりどこか懐かしいような重いほどの魔力を感じたと思ったけれど、それは意識の隅に引っかかることなく、私はそのまま気を失った。



  ***



 私が目覚めたのは、村長の家だった。村長の家の客室。なんで村長の家かだなんて疑問はわかない。

 だって、あの人がずっと手を握っていてくれて、私はとても幸せな気分で目覚めることができたから。……なんか、体中痛いけど。すっごい痛いけど。特に、左肩が痛いけれども。

 あ、やけに痛いと思ったら包帯巻いてある。この服誰のだろ、村長の奥さんのかな……って。


 ひぎゃぁ、待って待って、ちょっと待って!

 ぎゅーってしてくれるのはやぶさかでないけれども、ちょっと待ってええええええ!!!

 痛い痛い、ぎゅーは痛い! もうちょい力加減をお願いしたいです!


 ちょっとお花畑が見えた気がしたけど何とか相手をなだめすかし、こっちから抱きついて八年ぶりの愛しい幼馴染みを堪能した。

 泣くなよ、男の子だろ。私はあなたを置いてそんなに簡単に死んだりしないよ。

 と、言いつつも、私も少し泣いた。少しだけだよ、少しだけ。



 そうしてやっと少し落ち着いて、彼から話を聞いたんだ。

 どうやら、私の身体を鳥に変えたのは、あの人の魔力だったらしい。しかも、有り余る魔力のついでに、私は元からただの鳥として村の人たちから認識するようにされていた……らしい??

 さっぱりわからない。


 ありがたいんだか、ありがたくないんだか。何その無駄ないたれりくせり感。

 おかしいと思ったんだ、いくらそんなに積極的に交流してなかったからと言って、人一人の消息が消えて全く騒がれなかっただなんて。私、そんなに存在感なかった?


 それから私の願いであった彼と再会したことであの時魔術が解けかけ、私の羽根が元の髪の色の銀色になったらしい。自分では気づいていなかったけど、ニワトリの時は黒色だった目の色も緑になっていたらしい。銀色の羽根に緑の目なニワトリって派手だよねぇ。そしてめでたく人間に戻った……らしい。

 らしい、ばかりでよくわからない。


 彼はなぜここにいるのかと思ったら、私のいる村で妙な魔獣がでて討伐隊が組まれると聞き、いてもたってもいられなくなって討伐に組み込んで貰ったのだという。

 会えてうれしい、無事でうれしいという彼の言葉を聞いてもっと幸せになる。会いたいと思っていたのも、心配をしていたのも私だけではなかったのだと。


 肩の怪我のことは……うん、うーん? しかたないよねぇ、痛いけど。これも、ちゃんと治るって。傷跡が残ってしまうのはしかたない。

 これでも一応、嫁入り前の娘さんと呼ばれる立場なんだけどなぁ。

 責任をとって、騎士様のお嫁さんにしてもらう? うわぁ……やだやだ。深く考えないようにしよ、そうしよう。


 うっかり考えてしまった思いつきからくる寒気をふるりと逃しつつ彼の話を聞いていると、私に起こっていた変化では説明がつかないこともいっぱいあるとか何とか。

 魔術の形式がどうの体の中に取り込まれてしまった魔石を媒介にした術が云々、魔術でなく魔法の〜と、最後はほぼ独り言に変わってしまった彼の話しを聞き流す。

 うん、よくわからないね。

 唯一分かったことは、彼からもらった「お守り石」という名の魔石は私の中に今あるということだけだった。だから、私の石が消えてしまっていたのか。この身体の中に入ってしまった魔石の影響が今後どう出るかはわからない、と言われてしまった。

 まぁ、きっとなるようになるよ。たぶんだけど。


 そんなようなことを討伐隊から外れ、王都への帰還を先延ばしにしていた彼から聞かされつつ、私は彼がここにいる幸せを噛み締めていた。


 そうそう、実はニワトリだった間、やっぱり魔力が強くなっていたみたいだ。彼が村に来た時に感じたニワトリの魔力は、かなり強くなっていたらしい。

 ニワトリになっていた副作用かどうかはわからない。魔石を体内に取り込んだ影響か、もしかしたら犬やら何やらに襲われたことで生命の危機に反応して、今まで使うことのなかった力が引き出されたのかもしれない。火事場の馬鹿力的に魔力が増えた実例もあるにはあるらしいけど、検証しようにも、意図的に再現できるものではないからねぇ。


 しかも、人間に戻ったことでニワトリだった身体で扱えた魔力に比例したのかどうか、体内の魔力が更に増えた。使える力は、相変わらず雷だけみたいだけれど。

 うっかり使うと黒焦げにしてしまいそうだ。

 何をって? お肉をだよ。


 でも、この力があれば、上手く行けば商隊の最終手段のお守り的な扱いで王都まで連れていってもらえたりするかもしれない。

 一気に増えすぎた力に慣れなければならないけれど、それくらいの事は頑張るよ。


 明日、あなたは王都へと戻っていってしまう。でも、私はもう嘆かない。


 今度こそ、あなたに会いに行くんだ。人間のままでだって。





 ところで、私のお家はどこに行ったのかな?

 まっさらになってしまった我が家(跡地)を前に、私は茫然とするしかない。

 ちょっと。ねぇ。説明、してくれるよね?

 気まずそうに眼をそらす彼を、私はキッ、とにらみつけた。

 しょんぼりしてみせたって、可愛いだなんて……お、思わないんだからっ!



 お読みいただきありがとうございました。

 すっごくどうでもいいことですが、主人公は変身能力があるのではなくあくまで身体変化ですので、身体がニワトリになっただけです。ですから、人間に戻った時、服は……。

 この後、おまけという名の蛇足に続きます。読まない方が多分すっきりします。蛇足ですから。

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