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聖女召喚

作者: はるいち




世界を創り早幾年




“巫女”を世界に配置し、信仰心を植え付けたのが功をそうした。


信仰の強さによる“力”が存分に集まり、常に胎内に満ち、何もかもを思いのままに叶える力を持つことが出来た。



なんという全能感。全て我が意のまま。



世界創造時、何者よりも尊く、何者にも負けぬという自負のようなものが内にあった。


だが、今こうなってみると、あの頃の脆弱さが良く解る。ゴミのような力で、何故あれほど自信に満ちていられたのか。


当時を思い出せば、面映ゆい。






水鏡を覗けば、何時も変わらぬ光景が映し出される。


大きなうねりもない、ただただ平坦で、どこまでも行っても何もない緩やかな世界。



嗚呼、なんて




なんて退屈な世界。





初めての創造で、張り切り過ぎたのが間違いだった。





“不穏分子”配置



作物不作地域作成



徐々に拡大





“魔王”配置


“魔物”配置



御告げ発動




さぁ、どうなる?






暫し時を巡らせれば、良い具合になってきた。




停滞


停滞


停滞




御告げ発動




“異分子”投入




さぁどうなる?







王族、貴族、教会関係者等が集まる広間に描かれている魔方陣。その中央には黒髪黒目の美少女が呆然と佇み、同じく黒髪黒目のもう1人の少女が、美少女の傍らに立つ。



「ようこそお出でくださいました。聖女様。」



“巫女”が柔らかな声音と、優雅な笑みで聖女(異分子)を迎えれば、聖女と呼ばれた美少女は、直ぐ様己の状況を察し、花のように可憐な笑みを浮かべた。








高貴な者に接するように丁寧に扱われ、見目麗しい男達が聖女に侍る。



聖女に与えられた贅を尽くした部屋は、燦々と陽の降り注ぐ明るいうちから、男と女の艶めいた声が漏れ聞こえた。



誠意を尽くされた聖女は、快く使命を引き受け、見目麗しい男達を従え、癒しと浄化の旅へと赴くのだった――己の運命を知りもせず







一方、もう1人の少女は…



じめじめと苔むす不衛生な牢に放り込まれ、空腹と寒さに苛まれていた。






「巻き込まれ召喚とか……ふっ…ぅ……くっ…」



みすぼらしく汚ならしい様相の小娘が肩を震わせ、泣くのを堪え―――てはいなかった。



「ふっふふっ…くっ…あはっ、あはははっあははははっあーっはっはっはっ――」



ゲラゲラと狂ったように笑い続け――実際狂ったのだろう。己の未来にあるのは、哀れで悲惨な運命だと思い至り、精神が耐えられなくなったのだ。



狂った少女の袖口から、キラリと何かが光る。


それは角度により、様々な色で光り、何とも不思議で美しい石だった。



どんな宝石より美しく輝き、長い年月を過ごした中でも、見たことのない石。




あれが欲しい。



あれは、異界の神が造りし至宝に違いない。


何故あのような価値のない存在が、神の至宝を持っているのかは疑問だが、あんな少女には相応しくない。




涙を流し、笑い狂う少女のもとに、“巫女”と兵士が向かう。



薄汚い物体を見る目で少女を眺め、“巫女”が兵士に命じる。



「あれを取り上げなさい。」


「はっ!」




力ずくでくる兵士に、少女がハッと我に返った。


「ダメーっ!これは形見なのっ!」



成る程、形見か。


恐らく人に扮した神が、気紛れに人と交わり、至宝を残し去ったのだろう。


ではあの少女は、半分神の血が?――少女からは何も感じない。すなわち、形見とは少女の親のではなく、何代も前の誰かの物を、代々受け継いできたというところか。



兵士は無言で少女を蹴り、踏みつける。


「ぎゃっ……か、返し…おね、お願い、し、ま……それを盗ったらダメ」



足にすがり付く少女に、巫女からの命を遂行するのを邪魔され、苛立ちを覚えた兵士は、また少女を蹴る。幾度も幾度も。



蹴られるたび、少女の身体から鈴の音がする。ポケットに忍ばせた持ち物にでも付けているのだろう。



「がっ、ぐっ…やめっ……」




岩壁に建つこの城の牢は、殺した咎人を、そのまま海へ遺棄出来る仕様をしており、少女も海へ遺棄された。



ユラユラと漂う身体は、様々な生物に食い散らかされ、肉も骨も、全ては海の生物の血肉となり、さして時間も経たぬうちに消え失せた。









聖女の旅は順調に進む。


癒し、浄化し、毎夜美しい男と享楽にふけ、そして次の町へ。



精々束の間の幸福を謳歌するが良い。旅の終わりには、生け贄となり命を散らすのだから。







とある小さな村で、病死した老人。抵抗力も衰え、死んでも何の不審もない。




思えばそれが、始まりだったように思う。





死者は拡大の一途をたどり、浄化したはずの土地も枯れていく。



病の特効薬も作れず、聖女の癒しも一時進行を食い止めるのみ。




何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故――





あることに気付く。




聖女に癒された者が病になり、聖女に浄化された土地が枯れていく。



時間差でじわじわと広がるため、気付くのに手間取り、聖女を処分する頃には、全てが遅かった。





世界の大半の生命は死滅し、残る僅な生命も終わるのは時間の問題だ。



初めての世界創造は大失敗に終わったが、初めてだから仕方がないと言えよう。


これを教訓に、次はもっと良い世界を創ってみせる。



世界は滅ぶが、あの不思議な石は我が手に出来た。




嗚呼、本当になんて美しい――!?!!



石を持つ手の先から、みるみるどす黒く染まりゆく皮膚は、激痛を伴いながらドロドロと崩れていく。



慌てて捨てようにも、まるで生きているかのように移動し、石が触れた場所は全て、どす黒くなり崩れる。


力をふるい治そうにも、何故かうまくいかず、激痛でのたうち回る身体から、ドロドロの肉片が飛び散り、あちこちから見え始めた骨は亀裂が入り、木っ端微塵になっていく。



「あ゛あ゛あ゛ががあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」




いつの間にか、手元から離れた石に、溶けた肉片と微塵の骨が吸い込まれる。



剥き出しになった臓器も、何もかも――自身を形作っていた総てが石に奪われて無くなる瞬間、牢で狂った少女の、耳障りなゲラゲラと笑う声が聴こえた気がした―――







◇◇◇



カレーが焦げないように、時々混ぜながら煮込んでると、玄関を開ける音と鈴の音が聞こえた。



「たっだいま〜。あ〜良い匂い!めっちゃお腹空いたよ!」


「お帰り〜。おい、ちゃんと手を洗え。」


「へいへい。」





「「いただきまーす」」


「はぁ〜…カレー旨し。暫くご飯食べれなかったから余計旨いわー。」


「マジで?」

「マジで!ゴミばっかだったし。」



こいつのことだから、なんかエグい仕返ししてそう。



「ムカついたから、“死体”食わせて、食ったヤツが他のに食われって感じで、病原菌拡散するようにしてやった。聖女様も頑張ってたよ〜。ヤりまくって性病拡散させんのを。あははっ―まぁ、本人は性病のこと知らないだろうけど。」



ドヤ顔の報告を聞いてると、不思議な輝きを放つ石が現れる。


夏休みの宿題で、作った石だ。先生も、良く出来てるって誉めてたっけ。



妹が手に取る。



「うわ〜、何これ。アイツ、クソみたいにショッボい力しか持ってないとか、マジ使えないわ〜。」


石を投げてきやがった。



「ちょっ、ばっ」




避けるのに失敗し、身体に当たってしまう。




「………………」





流れ込む映像に食欲が失せた。










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