自称神様
真っ白な地面。
周りを見渡すと氷原のような純白の地面と夜空のような深い青色の空間が果てしなく続いていて、時々気泡のような物が見えるだけ。そして脳内には漠然とした感覚。
「…ここは……どこだ……」
「ん、やっと起きた」
はあっ?!?!?!何?!誰!?さっきまで俺の近くに誰もいなかったよな?!
俺の目の前には10歳くらいの、白いワンピースを着た白髪ロングの少女が立っている。めっちゃ白。唯一瞳だけが綺麗な青色。
「き…君は……?」
「私はこの世界の神様だよ」
そう言って微笑む目の前の幼女。顔も整っているため正直可愛い。
けど神様ってのは流石に冗談だろう…
というわけで、まず簡単に神様診断的なものを行おうと思う。
「じ、じゃあ君はこの世界のこと何でも知ってるの?」
「んー…何でもじゃないかな。でも大体のことなら知ってる」
まてまて神様がそれでいいのか?!よくないだろ!
と、とりあえず……次の質問だ。
こんな答えが返ってくる可能性があることも分かってたしな、うん。
「それじゃ、神様なら天変地異とかと起こせたりするのか?」
「てんぺんちー?」
「……ごめん、なんでもない。君が神様だと少しだけ本当に信じた俺が馬鹿だったみたいだ」
駄目だこの子天変地異が何かも分かってない。
テンペンチーって何だろう。チンパンジーの仲間か何かかな。
そしてこの子めっちゃ頬膨らませてるけど大丈夫かな、水泡眼の真似かな。
水泡眼ってのは目の下に風船みたいな袋がある金魚だ。俺は別に好きでもない。金魚はピンポンパールとか出目金とか結構好きだ。頑張って泳いでるとことかが。
なんで俺こんなに観賞魚の知識あるんだよ、すごいな俺。だが今この知識思い出しても役に立たん。
「私、神様だもん」
「そ、そっかー神様かーわかったーおっけーりょーかーい」
とりあえず神様じゃなさそうなことに了承しておく。
自称神様の幼女には聞きたいことが沢山あるんだからねっ!
「君さ、名前は?」
「あっ、そうだね。名乗るの忘れてた。私の名前はエルだよ」
「おー、エルな。わかった。あ、あと……俺の名前って…何て言うのか分かるか?」
自称神様の少女の名前をスマートに聞き、その流れで自分の名前を聞く。
これは決してふざけてる訳じゃないからな。俺は至って本気だ。馬鹿なんじゃないよ?…本当だよ?
……自分に関する記憶がほとんど無い。
だが、知らないのではない。
思い出せないのだ。
思い出せそうで思いだせない、すっごい嫌な感覚がずっと胸中にある。めっちゃ嫌だこの感覚。
自分のことで今分かるのは背の高さとか体つき的に20歳くらいの男。黒髪でラインの入った青い長袖の上着の中に黒い半袖半ズボン着ててファッションセンスは無さそうってことくらいか。
「貴方の名前かぁ。んー……そうだなぁ、じゃあ、レウムって呼ぶよ」
いや、絶対違うだろ。 俺の名前ではないだろ。
じゃあって何だよ。呼ぶよって何だよ。
しかも日本語喋ってるんだし少なくとも俺日本人だと思うんだけど、レウムって完全に日本人名じゃないだろ。それとも俺はキラキラネームの保持者なのか?!
「な…なんで?俺はレウムって名前なのか?違うよな…?」
「貴方の着てる服。綺麗な青色。どこかの言葉で青はカエルレウムって言うの。そこからとった」
なんで俺は名付けられてるんだ?
流石に名前無くはないだろ。
まぁ、カエルの方にしなかっただけ大目に見てやろう。
「俺、名付けてほしいとは言ってないんだけど……」
「あー…ごめんなさい。私も貴方の名前…その、わからなくって」
そうだよなぁ。初対面の少女が自分でもわからない俺の名前知ってるわけないよなぁ。
自称神様だからワンチャン……って思ったんだけど。やっぱ自称は自称みたいだ。
「ごめんなさい……」
エルは少し目を潤わせて呟いた。
「知らないものはしょうがない。気にしなくていいって」
俺が軽く慰めてみても、更に罪悪感を覚えたのか申し訳なさそうにしている。
そこまでされると本当は知ってるんじゃないかとか期待しちゃうよ?お嬢さん。
でもなんだかんだレウムって名前も嫌いじゃないからこの世界ではこの名前ってことで良いだろう。
「まぁ、いいから。とりあえずレウムって呼んでくれ」
「う……うん!その……気にいってもらえたならよかった」
「まぁ、嫌いではないよ」
この名前、綺麗すぎて俺には似合わないと思うけどな……
なんて思って苦笑いしつつ、これからどうするか考えるべきだと思い浮かべる。
そういえば、ここが一体何処なのか分からないままだったな。流石にこれくらいは自称神様少女のエルちゃんでも知ってるんじゃないか?
「なぁ、エル。この世界って何なんだ…?てかここどこなんだ?見渡す限り白い地面と青い空間だし。他には時々気泡みたいなのが見えるくらいだし。ファンタジーちっくだとは思うんだけど。……まさか…夢?」
「そうだなぁ……ここがどこかって質問に答えるのは難しい。"ここ"は"ここ"だから」
は?………俺から見たら異世界なのかもしれないけど、エルにとっちゃこの世界しか知らないからこれが普通でエルにとっての現実世界ってことか…?
「それから、レウムの見てる夢でもないよ」
といって俺の両頬を両手でつまんでくる。
「いひゃいんれすけろ」
痛いんですけどっていったつもり。
「でしょ。だから夢じゃない」
この夢か夢じゃないか確かめるために頬つまむ方法、夢の中でも痛いって感情があるなら意味ないと思うんだけどな。
でも、夢じゃないならこの世界は何なんだ。
1度来たことある場所なら何か記憶の手がかりになりそうだけど、そんな気配も全くない。
「でも、ここはあなたの世界よ」
「え?いやお前さっき自分で自分のこと神様だって言ってなかったか?それなら俺じゃなくてエルの世界だろ」
「私、あなたには敵わないもの」
「いや、敵わないって……なんのことだよ。俺何もしてねぇよ」
「さぁね、秘密」
少女ははにかみ笑いしながら言った。
「あなたが全て忘れちゃってるのが悪いんだから」
「……まぁ、そうだな」
……絶対……絶対この子俺のこと何か知ってるぞ!!
秘密ってなんだよ!怪しすぎるだろ!!
さっきちょっと期待してみてフラグ立てといたのが生きたんだな。きっと。
でも話す気はない様子だし、ここは勘づいてないフリをするのが正解だろう。
「でも、とりあえず今この状況で俺が頼れるのはエルしかいないんだ。記憶を取り戻すこととか、元の世界に戻ること…協力してくれるか?」
「うん。もちろん。でも……」
と言いかけてエルは目を逸らした。
「どうした?」
「ううん、やっぱりなんでもない」
──俺は知っていた、"なんでもない"は反語である──と。
なんでもないって本来の意味で使ってる人っているのだろうか。(いや、いないだろう。)
尋問したら余計答えてくれなさそうだし俺の優しみ振り絞って聞いてみる。
「エルたん?大丈夫?お兄さんになんでも話してくれていいんだよ?怖くないよ?」
お、エルが震えてる!
俺の優しさに感動してしまったか。優しみ感じちゃったか。そうだよなぁうんうん。それなのに俺と目を合わせてくれないのはどうしてだろうか……
「レ、レウム……なんかこわい……」
逆効果だったぁー!!
怖がってるエルが可愛いと思ってしまった俺は将来ロリコン説が…っていうか今の俺の優しいセリフ、あからさまに不審者っぽくないか?もう既に危ないのか……?
ちょっと不安になってくるからやめよう。
俺は断じてロリコンではない。
至って健全であって、女の子のか弱さに可愛いと感じただけなのだ。いやぁ~、健全健全!
「ごめん……悪かった。優しくしようと思ったけど度が過ぎたみたいだ。で、なんでもないって何のことがなんでもないんだ?」
「あ……えっと…それは……ごめんね。いつかちゃんと話すから、待っててほしい」
おお。このパターンはなかなか珍しい。
大体の人間は「何のことがなんでもない?」って聞くと狼狽えて内容を話し始める。
この聞き出し方めっちゃ使えるから。俺も結構使ってた。ってことを思い出した。でもこの記憶そんな重要でもない……。この記憶と別の記憶交換する機能とかないのかな。
「まぁ、後から俺が元の世界に戻るために協力する代償に何か取るとか言われても俺は受け入れないからな」
「あ、ううん。そういうのじゃないから。大丈夫」
「じゃあ、改めてよろしくな。エル」
「こちらこそ、レウム」
そして俺達は青い空間の、純白の地面を歩き始めたのだった。
はじめまして。庵壱葉です
初投稿で拙い文章ですが少しでも読んでいただけたら嬉しいです
男の人と少女の組み合わせが好きで、書いてみたいと思ってこうなりました。
全体的にはシリアスだけど、ちょこちょこ笑えるようなところも作りたいなぁって感じです
とりあえず2人の結末まで書き切ることを目標に頑張ります!