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手打ちはうまくいったものの

 酒場での一件から一週間後、俺とロイは街道を歩いていた。例の手打ちのためだ。

「ちっ、それにしても納得いかねぇよ」

 俺は、イライラを隠さずロイに話しかける。

「言うな。今日ですべてが終わる。手打ちは町長の前でおこなうから、手打ちの後に何かすれば町を追い出されるのは奴らだ」

 酒場「豚のしっぽ」「犬の牙」で起きたことは一切口外しないという約束だったが、次の日にはなぜか俺の噂だけが町に広がっていた。それも、だれが流したのかはっきりとわからないように、情報をうまくコントロールしていたのだから、たちが悪い。

実際にそれを理由に、いくつかの仕事を受けることが出来なかったのだ。幸い、その分豚のしっぽの常連やオヤジさんが仕事を持ってきてくれたわけだが。

「お前には悪いことをしたと思う。しかし、明日からはまた平和な日々だ」

 申し訳なさそうに話すロイ。その姿を町の若い娘さんたちが遠巻きに見ている。ちなみに服装は、上半身を銀の鎧にマント白の手袋。まさしく騎士の服装。こういった場にはこの鎧姿が正装らしい。ちなみに俺も着ている、自分で言うのもなんだが似合っていると思う。そう、鎧姿は……。町のみんなから憧れと熱い視線を受けるロイ。その後ろを歩く俺には、町のガキたちが遠巻きに指さして笑っていやがる。

「……ロイ、あのさ。兜、取っちゃダメ?」

「……駄目だ」

 灰猫の騎士団、団長以外の団員は兜をつけることがマナーらしい。その兜には、なぜだか、どういう訳か、だれの趣味なのか、猫耳のような飾りをつけることになっているのだ。


 なんだかんだ、言いながら町の役所に到着する。こんなことなら、ロイを殴ってでも馬を借りさせればよかった。出迎えた町長は、丸々と太ったおっさんだった。口ひげをたくわえ、歩いてくる姿はどこか可愛げがあった。子豚みたいな感じ?

「やぁ、ロイ君久しぶりだね。話は聞いているよ」

「お久しぶりです。町長」

 町長はロイと握手をしながらにこやかにロイの肩を叩いた。

「ふむ、この姿……。お父様の時代を思い出すよ」

 そう言いながら、懐かしそうに眼を細めた。

「当時町の若者で、灰猫の騎士団のこの銀の正装に憧れなかった者はいない。もちろん、私を含めてね。当時は入団試験があって私は落ちてしまったんだがね。がはは」チラッ。

 おい、なんでこっち見た?なんで笑った?

「しかし、少々残念だね。しょうがないこともあるが、今は移民のどこの誰とも分からぬ男を団員に―――」

「お言葉ですが、町長、彼はすでに立派な騎士です。侮辱するような発言は訂正していただきたい」

「す、すまないね……。つい……。あやまるよ」

 じーん……。ロイ、ありがとう俺を認めてくれたんだな。

「もっとも、当時から団員の兜に耳のような飾りはついていたがここまで奇抜なのは初めてだねぇ。移民のこの男の趣味かい?」

「……それは、まぁそうです」

 いや、そこも否定しろ!つけたのお前だろ!俺はいらないって言ったのに!絶対につけるって言っただろ!それもできた後、渾身のできとか言ってただろ!

「と、とりあえず手打ちの契約を早くおこないたいのですが」

「あぁ、緑蛇の騎士団はすでに来ているよ。こっちだ」

 

 案内されたのは二階の町長室だった。応接室の奥に扉を挟んで町長のデスクと椅子が見える。スネイルと俺を襲った男が応接室に座って待っていた。

 俺たちが入ると、スネイルと男は立ち上がり、礼儀正しく頭を下げた。

「いやはや、町長、そして灰猫のお二人。このたびは、ありがとうございます」

 スネイルも緑を基調とした鎧姿だった。

「しっかり、確認を取っております。確かに、決闘後この者が自分の身代わりを用意してあなた方を襲ったようです。申し訳がありません。ただ……」

「こちらも、後ろから襲ったことは事実。客観的な証拠も無い」

 ロイの言葉にスネイルは満足そうにうなずく。

「えぇ、よって手打ち。お互いにこちらの報復もあなた方の報復も無かったことにする。よろしいですか?」

「あぁ、異論はない」

 二人の会話を聞いていた町長は、満足そうにうなずく。

「では、当事者の二名は奥の町長室で書類の作成と私の前で宣誓をしてもらおう」

 俺と、男はうなずいて歩き出す。と、忘れたことがあった。

「おい、スネイル」

「何か?」

 スネイルは俺に微笑みかけた。やめろ、気持ち悪い。

「口外禁止の話が尾ひれつけて町に流れてた。どういうことだ?」

 ある意味、予想通り。スネイルはとぼけた。

「さぁ?人の口に戸はできないと言いますし」

「……てめぇ」

「止めろ」

 ロイが俺を止めた。どうやってもスネイルが痛い思いをせずに終わることに納得ができない。町長が、俺に声をかける。

「君、早く来なさい。私も忙しいのでね」

「……すみません」

 俺が町長室に入ろうとすると、思い出したように町長がスネイルに話しかけた。

「あぁ、スネイル団長。君が希望していた騎士団の在留希望だがね。残り期間は二週間だ。それまでにこの町からは出ていただきたいね」

 本日はずっと作り笑顔だったスネイルの顔が強張った。

「……延長を申し出たはずですが」

「あぁ、却下したよ。君たちは、この町の騎士団とトラブルを起こしたんだ。当然だと思うがね」

「騎士団と言っても二名。問題にするほどでもないと思われます。それよりも、騎士団を受け入れることで王国から入る援助金の額を計算された方がよいのでは?」

「うむ、悪いが計算は苦手なんだよ。それに、灰猫の騎士団は歴史がある騎士団だ。子供の時、命を救われた者もいる。……私とかね。君は情報通だと聞いていたが、調べが足りなかったかね?」

 そう言うと、町長は町長室の奥に進む。俺を襲った男は悔しそうな顔でそれに続く。俺は部屋に入る前に、同じような表情をしているだろうスネイルを見た。

 スネイルは笑っていた。あいつの言葉の端が聞こえた。

「……いいえ、情報はそろっています」

 扉が閉まった。


 町長室から応接室は見えるものの声は聞こえにくいようだった。もっとも、応接室のスネイルとロイは向き合ってブスッとしていて話す気配もなかったが。

書類の作成には時間がかかった。状況を町長に説明して何枚かの書類に署名。最後に宣誓。

「灰猫の騎士団。ヒルサキ・ハヤト。今回の件、他言することなく。わが胸に秘め、騎士として生き抜くことをここに誓う」

 よし、噛まずにいえた。ロイの指導の下、毎日練習したかいがあった。

「緑蛇の騎士団。ワイド・マイド。右に同じく」

 ワイドというのか、この男は。まぁ、もうどうでもいいが。

「よし、この書面は町の役所で管理する。また、町に灰猫の騎士団と緑蛇の騎士団の手打ちの知らせを回す。これで、君らを称えることはあってもこの件で、悪く言う者はいないだろう。これで、契約は終了とする。今後も、互いに騎士の誇りと共に生きて行ってくれたまえ」

 町長の言葉にうなずいて、俺は町長室を出ようとする。

「ま、待ってくれ」

 その声はワイドだったあまり顔色が良くない。そう言えば書類を書いている間も応接室の方をチロチロ見ていた。トイレにでも、行きたいのだろうか。

「こ、この場で改めて、し謝罪をしたい」

 と、言うが本当だろうか。顔には申し訳なさというより、恐怖が張り付いている気がする。

「いや、いいよ。もうこれで終わりだろ。お前らも二週間で出ていくなら、荷物まとめておけよ」

 そう言って、扉の前に立つ。その前にワイドが通せんぼするように立ちふさがる。

「待ってくれ。ちゃ、ちゃんと謝罪しないと団長に、こ……。お、怒られるんだ」

「……君、こんなに必死なのだから。受けてあげたらどうだね?」

 町長の言うことも最もだ。謝罪を受けたからこちらになにか悪いことが、起きるわけでもないだろう。

「わかった。まぁ、俺も悪かった。これであいこにしよう」

「あぁ、えーと。えーと。今回のことは……本当にすまないと思っていて……。俺はなんとお詫びすればいいのか……」

 ちんたらした奴だ。町長も少しイライラしたのか声をかける。

「君早くしなさい。一言の謝罪で十分だ」

「は、はい……」 


 その音は、ワイドの謝罪と同時に聞こえた


「すみませんでした!」「パン!!」

謝罪をして顔を上げたワイドはこれまでの不安の顔ではなく勝ち誇ったような顔だった。嫌な予感がする。

俺は、ワイドを押しのけ扉を開けた。その先には応接室のロイとスネイル。

「ロイ!」

 ロイは立ち上がり、スネイルを見下ろしている。しかし、その表情は青ざめている。そして、スネイルは頬を抑えながらも嬉しいのが我慢できないといった様子だ。

 ロイの様子でおかしいところは、表情だけではなかった。左手の手袋が外れている。

「こ、これは……」

 町長の声が聞こえた。でも、その先は言わなくてもいい。決闘の申し込み方はあちらの世界と一緒のようだ。

 ロイは、決闘をスネイルに申し込んだのだ。


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