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【別幕の物語】アリカと酔っぱらいの夜

 私の名前はアリカ=スレンダー。酒場、豚のしっぽの看板娘である。好きなものは、賑やかな店内、人の楽しい笑い声。嫌いなものは、品の無い酔っぱらいと悪口である。特に、本人の努力ではどうにもならない身体的な欠点を、馬鹿にする人間には即刻死刑が執行されるべきだと思う。

 さて、私はその死刑になるべき人間と帰ることになった。灰猫騎士団、新人騎士のヒルサキとかいうこの男。この町に生まれ育ったものにとっては灰猫の騎士団の歴史はそれなりに英雄的だというのに、人手不足とはいえ灰猫も落ちぶれたものだ。こんなやつを雇っていればいつか問題をおこすに決まっている。

 まぁ、話をしてみるとそれなりに面白いことを言ったり波長が合う気もするが、第一印象が最悪というのはどうやっても拭えないだろう。

 騎士として強いから、その分性格が傲慢になってしまう人は何人もいたが、先ほどの酒場での動きをみると実力もないようだ。強くもない。品がない。教養もない。なんかやらしい。それが、私のヒルサキという男の評価だった。


だから、今私は目を丸くしているのだろう。彼が、たった一人で暴漢を倒す姿を見てしまったのだから。




 その三人組の雰囲気は、私の感じたことの無いものだった。酔っ払いとは違った。はっきりとした意識の敵意、あるいは殺意。いつもの明るい店内とは違った、狭くて暗い路地裏。ここには、お父さんも店員仲間も顔見知りの常連さんもいない。正直、怖かった。一瞬、ロイさんの姿が浮かんだが、彼がフラフラだったことを思い出して、すぐに他人に頼ろうとした自分を叱責する。

さすがに、ヒルサキも一人で逃げようとはしないようだ。だったら、なんとか逃げる方法を考えよう。知らず知らずに手は強く握られていた。

 でも、その私の緊張の糸はあっさり切られてしまう。

「こいつ、頼む」

 さっきまでの、会話と変わらない調子で彼は言って。ロイさんの体を私に預けた。私は止めようとしたけど、あいつの背中がとても大きく見えて、止める声がでなかった。

 暴漢の攻撃をあっさり避けたあいつの反撃は、相手が防具を着ていたためか、あんまり効いていないようだった。でも、月光でみえる彼の表情には余裕が見て取れる。

「いったい……」

 と、その時ロイさんの意識がはっきりした。今まで酔いで朦朧としていた意識が木剣の音ではっきりした様だ。

「どうしたんだ?これ」

「ロイさん。あの、訳わかんない奴らに襲われてて。それで、あいつ一人で……」

「なるほど……。うえっ」

 ロイさんは本調子ではないようだ。しかし、今はそんなこと言ってられない。

「なんとか、加勢してあげてください!あいつ一人じゃ」

「う~ん……。それは無駄だな」

「何言って―――」

 次の瞬間、ヒルサキは三人組に襲い掛かった。そして、迎え撃った彼らの攻撃をすべて避けるとその隙をつき、あっさりと倒してしまった。

「嘘……」

 おどろく私。そして、さらに驚くことが起きた。ヒルサキはゴホンゴホンと咳ばらいをすると、剣を胸の中央に構えると何やら言い始めた。勝利の宣言だろうが、その隙に倒れた三人組が体制を整え、逃げようとしていることに気が付いていない。ちなみに、ロイさんもまだ酒が残っているのか気が付いていない。

「馬鹿―!」

 私が叫び、ヒルサキがこっちを向いた瞬間に男たちは逃げ去った。ヒルサキもそれを追う。ロイさんが気づき。声を上げる。

「やめろ!罠かもしれん!」

 しかし、聞こえなかったのかヒルサキは走って行ってしまった。ロイさんもそれを追おうとするが、ふらついてしまう。

「な、情けない」

「大丈夫ですか?……でも、あいつどうやって」

「ん?ヒルサキか?あいつも、僕と同じ稽古をしているんだ。弱いわけがないだろ。特に回避の反射神経は天性のものを感じるよ」

 どこか、ロイさんは自慢気だった。でも、それはおかしい、疑問が残る。

「で、でも……。じゃあ、なんであの時避けなかったんですか?」

「あの時?」

「ほら、酒場でロイさんが避けたコップ。あいつ、直撃してたじゃないですか」

「あぁ、確かにな」

「避けられなかったんですよね」

「いや、避けられなかったんじゃない。避けられたが、避けなかったんだ」

「それってどういう……」

「避けたら。後ろにいた人に当たるかもしれないだろ?」

「!?」

 あの時のことを思い出す。あいつの後ろには、確かに人がいた。……私がいた。ちょうどあいつがいなければ顔に当たっていたかもしれない。

「と、とりあえず。探さなければ。もしも、待ち伏せされていたら大変だ」

 呼吸を整え。ロイさんは走り出した。酔いもさめたのだろう。

 

 私も走り出した。ヒルサキ・ハヤトの印象は、悪いものでは無くなっていた。


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