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美少女に出会ったものの

 黒の王国、この国はそう呼ばれている。王族の城を有する城下町、東西南北にそれぞれ町があり五つのブロックで形成されている。城下町には貴族か選ばれた商売人しか入ることを許されず、年に一度税金を納めることがこの国に住む条件になっている。

 城下町は、王国憲兵という奴らがいて治安を守っている。しかし、町に憲兵を派遣することは珍しく、それぞれの町に籍を置く騎士団が町の治安、平和を守っている。

つまり騎士とは。時に、盗賊から人々を守り、火事があれば残された人を助ける。消防と警察を混ぜたような誇りある職業である!



「―――って話だったよな……」

 この世界に転生して二週間目の朝。俺は、目の前で紅茶を飲むロイに話しかける。ちなみに、ここは騎士団の宿舎。という名の西洋風のこじんまりとした町はずれの一軒家、ロイの自宅である。

「あぁ、補足すると、五十年ほど前に戦争が終結した。その時に、無法者があふれかえったんだ。と同時に、仕事の無い男が大量に出てしまった。その両方の解消策として騎士の登録とそれに関するいくつかの法律が作られたんだ。ちなみに、我が灰猫騎士団はその当初から続く誇りある騎士団だ。その初代騎士団長である、僕の祖父はいくつもの貴族の誘いを断って騎士団を創設した戦争の英雄で――――」

「分かった。分かっているからもう黙れ。暗記したよ、偉大なじいちゃんと、父さんのことはな」

 ロイは、事故で死んだ父親の代わりに由緒正しき騎士団を任される。若き騎士団長様というわけだ。しかし、どうしても腑に落ちないことがある。

「それで、お前が騎士団長なんだよな」

「そうだ、確かにまだ、若く経験が足りないのは自覚している。しかし、剣の腕には自信がある。ただの悪漢なら十人は軽く倒せる」

「うん、それはいいんだ。で、俺は?」

「まだ、見習いだな。でも、筋はいいし中々真面目に稽古もしている。近いうちに堂々と騎士を名乗れるようになるさ」

「うん、それもいいよ。最初は見習いからだとは思うよ。で、他は?」

「えっ?何が?」

「キョトンとすんな!いや、他に副団長とか!事務仕事する若い美人事務員とか!頼りになる先輩とか!」

「……いいかい。組織の強さとは人数と比例するものではないんだ。むしろ、他人任せになってしまうその流れこそが組織を腐らせ―――」

「おかしいって!二人で騎士団はおかしいって!なんだよ!二人は仲良しなの?プリキュアなの!?原点にして頂点の初代プリキュアなの!?」

 そう、この騎士団は現在、所属しているのが二名なのだ。騎士団長、ロイ=シュナイド。騎士見習い、ヒルサキ=ハヤト。以上。どうやら、こいつの親父さんが亡くなって仲間はみんな去ってしまったらしい。

「君は時々、訳の分からない単語をしゃべるな。以前いた国の記憶が戻ったのか?取りあえず国から認可されている以上は我が騎士団は永遠に不滅だ」

 そういって、ロイは席から立った。俺はロイの自信満々な表情にあきれながら。不本意な、今日の労働を始めるのだった。



「なぁ、ロイ。質問良いか?」

「いいが、足は止めるなよ。荷物の預かり人は時間に厳しい人なんだ」

 現在、灰猫騎士団は近所のおばさんが頼んだ食料を代わりに町まで取りに来ている。要はお使いだ。ちなみに初めてのお使いじゃない。むしろ、こういった小間使いみたいな仕事が灰猫騎士団の基本業務になっている。

「何回目か忘れたけどさ。これ、おかしくない?」

 俺は、腰に差した剣を指さす。その剣は軽く、ほのかに大地に香りがする。自然素材性の剣。つまりは、木刀だった。

「何回も説明しただろ。この国には剣刀法というのがある。木剣以外は、違反だ」

どうしよう。昔のヤンキーか、修学旅行ではしゃぐ中高生の気分がどうしても無くならない。

「じゃあ、馬は?結構、馬や馬車で移動している人が多いんですが?団長殿?」

「…足腰の鍛錬だ。我慢しろ」

 我が組織は資金難によって、馬は購入できないとのこと。後、動物は以前いた世界とほとんど変わらない。色が違っていたり、角が変わっているものは多いがそれだけだ。ちなみに、ドラゴンはいるのか。と、聞いたら鼻で笑われた。本当に異世界である必要性を感じさせない世界である。

 


どさっ!その日も早くにベッドに倒れこんだ。日が暮れるまで仕事をした後、ロイと剣の稽古、終わると泥のように寝るのが毎日の流れだ。ブラック騎士団に入団したんだが、俺はもうだめかもしれない。

「お疲れ様だな。でも、報告がある。聞いてくれ」

 部屋に入ってくるロイは満面の笑顔だった。ちなみに、こいつは体力が化け物じみている。顔に一切の疲れが出ていない。

「なんだよ。明日もあるから早く寝たいんだが」

「喜べ。明日は、騎士としての仕事をもらっている。今月は収入もいいから午後は休みにしよう」

「本当か!?」

 ちなみに、この騎士団に入って初めての休みになる。半日の休みで喜ぶ俺はある意味洗脳済みかもしれない。

「何の仕事なんだ?」

 本当の護衛だろうか?そして、護衛対象の貴族の令嬢と恋に落ちる俺。

それとも、盗賊退治とか?そして、訳アリの女盗賊と恋に落ちる俺。

いや、城に呼ばれての特別な任務かもしれない。そして、姫と恋に落ちる俺。そう、この転生に意味はあったのだ!

「馬小屋の掃除だ」

 笑顔で、言い切る。ロイの笑顔に俺は、それは騎士の仕事じゃねぇよ。とは、つっこめなかった。

 


「ぜー、はぁ、ぜーっ、はぁ」

 馬小屋の掃除は朝から、昼前の時間で俺の体力と精神力を根こそぎ奪った。馬糞を片付け、藁を用意。馬は言うことを聞かない上に俺を舐めているのか襲われそうになって何度か命を落としそうになった。別に人の恋路を邪魔したわけじゃないのに、理不尽である。

 とりあえず、仕事は無事に終わった。ロイが雇い主と書類などのやり取りをしている間、川で体の汚れを落とす。

「なんか、筋肉付いたよなぁ……」

 毎日の重労働に効果があったのか、体に筋肉がついていた。俺の視線は、自然に足に向かう。足も随分太くなった。生前はあんなに―――。

「おーい!」

 ロイの声がしたので思考は中断する。

「待たせたな。本日の仕事はこれで終了。今日は稽古も無しだ」

「お、おう……」

 こんなにテンションの高いロイは初めてだった。よほど馬小屋の掃除が楽しかったのだろうか。

「じゃあ、俺は家に帰って寝るよ。昼寝というのを、長年していないのでね」

 そういって、家に戻ろうとする。俺をロイは止める。

「待てよ、昼を食べたら。町に繰り出そうじゃないか。いくらか、自由に使える金も渡すよ」

 これも初めてのことだった。いつもは、節約節約で俺の給料も生活必需品を購入したからしばらくは出さないと言っていたのに。

「いや、悪いけど馬の世話は初めてだからさ。本当に疲れてるんだよ。町に行くなら土産でも買ってきてくれればいいから」

「そうか……」

 本当に残念そうな顔をされると、こっちが悪い気になってくる。

「夕方に行こうと思っていた酒場は、看板娘が有名でぜひ一緒にと思ったが―――」

「良し!行こう!今すぐ行こう!急いで行こう!」

 魔法も無い。魔物も無い。でも、美少女はいる。と、聞いていたのに若い娘とは一度も出会っていなかったのを思い出した。

 


「確認するぞ」

「しつこいなぁ…」

 夕方、俺達は豚のしっぽという酒場に向かって歩いていた。

「まず、その看板娘はあれだよな。五才とか六才の女の子が手伝って有名になっているとか、四十年前は美人だったおばあさんがいるとかじゃないんだな?」

「あぁ。正確な年は分からないが十八才前後だったと思うぞ」

「それは良かった。はっ!実は結婚している人妻って落ちじゃ……」

「いや、独身だな。いや、それにしてもこんなに喜ぶんだったらもっと早くに連れてくれば良かったな。それにしても、喜びすぎじゃないか?」

「まぁな、でも喜んでるのはお前もだろ。そんなに楽しかったか?馬小屋の掃除」

 ロイは少し恥ずかしそうに俺から目をそらした。

「……馬は好きだ。それの世話もな。昔は家で飼っていたが売ってしまってね」

「そうか……」

「でもそれ以上に。うれしいことがあった。今回に仕事は二人以上でないと受けられないものだったからだ」

 そういうと、ロイは俺を追い抜かして先に行った。これは、予想だが赤くなった顔を見られたくないからだろう。不愛想だが可愛いところもあるじゃないか。


 

 酒場、“豚のしっぽ”はとても賑わっていた。男性店員の案内で、奥のテーブルに座る。注文はロイに任せて、俺は看板娘を探したがそれっぽい女の子はどこにもいなかった。

「おい、看板娘はどこに――。どうした?」

 ロイは少し離れた位置にあるテーブルの集団を見ていた。六人の男がゲラゲラと、笑いながら酒を飲んでいた。周囲のテーブルは迷惑そうな顔をしている。

「迷惑な酔っぱらいはどこの世界にもいるんだなぁ。なんだ、注意すんのか?」

 騎士は町の治安維持が目的、よって迷惑な酔っぱらいがいるのなら、注意するのも仕事といえば仕事になる。ちなみに、金銭は発生しないのでサービス残業みたいなものだ。

「いや、もし暴れたりすれば別だが、まだ店の人の対応に任せよう」

 ロイが言った直後に、店主と思われるごついおっさんがそのテーブルに向かう。男たちは少し静かになったようだった。

「それより、彼らの左肩。見えるか?」

「ん?鉄の肩当か?なんか模様があるな。……緑の蛇?」

「北の町の騎士団の連中だ。緑蛇騎士団、いい噂を聞かない連中だが。もしかしたら、拠点をこの西の町に移すつもりかもしれない。だとしたら、面倒になる」

「ふーん」

 騎士団は基本的に色と動物の名前を騎士団名にするらしい。そして、町には複数の騎士団が時には仲良く、時には険悪な状態で所属している。新しい騎士団が来るのであればその関係には変化が起きるというわけだ。

「とりあえず、今は休み中だろ。気にすんなよ」

「……それもそうだな」

 ちょうど、料理が届いたので、乾杯して食事を始める。確かに、料理もワインも絶品だった。しかし、肝心の看板娘はまだ見ていない。

「本当にいるのか?看板娘。お前の妄想なんじゃないの?」

「違う、本当に最近有名な女性店員がいるんだ。ん、来たみたいだ」

 ロイの目線の先には確かに若い店員がいた。綺麗な茶色の髪をポニーテールにして、整った顔は美少女と言っても過言ではないだろう。スレンダー、悪く言えば胸が小さい気がするが、着やせしているのかもしれないし成長に期待だ。

「うん、信じてたぞ。団長は嘘つかないって」

「そいつはどうも」

 その店員を目で追っていると、鉄製のお盆を片手に明るく周囲の客(おそらく常連だろう)と話しながらテキパキと仕事をしている。そんな彼女を、呼ぶ声があった。あの緑蛇騎士団の連中だ。

 彼女は、少し表情を強張らせてテーブルに向かう。テーブルで緑蛇の連中と話をしているようだが、どうも普通に注文をしている様子ではない。おそらく、口説いているのだと思うが、彼女は適当にあしらっているようだった。すると、緑蛇の奴らは席を立ちあがり彼女の手を掴む。

 俺は、立ち上がりあのテーブルに向かおうとする。その俺をロイが制止する。

「お、おい!待て」

「止めてくれるな!相棒!……お前は助けなくていいからな、ほら団長が動くと問題だから、俺より目立たなくていいから」

 そう、これはチャンスなのだ。第一印象でその人の評価は90%近くが決まってしまうという。多少酒も入っているが、日々稽古と厳しい重労働をしている俺はあいつらよりは強いと思う。負けたとしても助けに来たのだから第一印象が悪くなるはずはない。それにいざとなったら、ロイやさっき現れた親父さんが助けてくれる。

 といった計算をする思考と、助けようとしない常連やほかの店員に対するわずかな怒りを持って、俺は彼女を助けるために歩いていく。距離が近くなったことで彼らの話し声がはっきり聞こえてきた。

「いいじゃねぇか。ちょっと店を抜けて町を案内してくれってだけだろ」

「困ります……。離してください」

「アリカちゃんは、俺たちよそ者の相手はできねぇってのか?!」

「いや、ですから……。やめて……」

 うむ、アリカ。という名前なのか。良い名だ。もう少しで、彼女の手を掴む男の手に届く。そうだこの一歩は、小さな一歩だが俺の異世界生活においては大きな一歩だ。

 俺は男の手を掴み言い放った。

「おいっ!嫌がっているじゃないか!やめたまえ!」

 そして、安心させようと彼女に笑顔を向けた瞬間。大きな声と同時に、銀色の何かが目の前に現れた。

「だぁかぁらぁ!!!離せって言ってるだろうがぁ!!!」

 ボーンッ!と俺の頭は吹っ飛ばされた。いい音がするんだな、お盆でぶん殴られると……お盆だけに。俺は薄れゆく意識の中で、アリカちゃんがお盆と伝票用の板を持って緑蛇騎士団を蹂躙していくのを見ているのであった。



「グスッ、グスッ」

「元気を出せよ。誤解は解けたし、彼女も無事でよかったじゃないか」

 俺は、ロイに肩を貸してもらいながら帰り道を歩いていた。脳が揺らされたせいでまだフラフラする。

「う、噓つきやがって……。どこが看板娘だ。な、なんだったんだよ。あの女……」

「あはは、僕も最初助けようとして余計なお世話と言われたよ。彼女の活躍を見たくて、毎日来るお客もいるそうだ。まさに名物の看板娘だろ。酔っぱらいのあしらい方がうまくないと酒場の店員は務まらないということだな」

「あしらってないよね!?全員倒してたよ?完勝だったよ?無双だったよ?」

「そんなに怒るなよ、刃物を持ち出しているわけじゃない。武器はお盆だろ」

「いや!あの技見た?殴ってきた拳をお盆で受け流し。お盆の反射で相手の視界をふさぎ。そして、伝票で攻撃する。なんだよ!お盆と伝票の基本戦術かよ!」

「まぁまぁ。緑蛇の連中も、懲りたようだしな。また、行こうじゃないか」

「えっ!?純粋に嫌だ」

「あはは、そう言うな。あそこは昼にやっている定食も旨いんだ。また行くぞ」

 

そういいながら、笑うロイを横目に、まぁこういうのもたまには良いか。と、思った。まぁ、美少女は他にもいるし、何とかなる。




その時はそう思っていた……。


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