【終幕の物語】ロイとヒルサキ その3
スネイルが勝ち誇る。
「先にお仲間が、やられた様子ですね。ご安心を、あなたも同じ姿にしてあげますよ」
そう言いながら、再び剣を構える。広場に入ってきた男の声が聞こえる。鎧はマントで見えないものの、兜は間違いなく蛇を模したものだった。
「ほかの仲間は全滅だぁ!畜生!こいつをボコボコにしなきゃ!辛抱できねぇ!おい、団長に顔を見せてやるんだ!どいてくれ!!」
その声はワイドという男の声のようだった。
「うるさくてすみません。おや?どうしましたか?戦意を失ってしまいましたか?」
スネイルが話しかけてくる。
「……」
逆だった。確かに、姿を見てショックを受けた。しかし、ヒルサキは最後まで戦ったのだろう。15人を相手にしたのだから、おそらく正攻法では無いに違いない。
本人が言っていたように、様々な作戦をたて、石にかじりつくように戦ったに違いない。それで14人を倒したのだから素晴らしい戦果だろう。
団員がそこまでの成果を出したのだから、団長の私が勝たなくてどうする。
「……はぁ」
私は肩を落とす。一見すると、ショックを受けて勝負をあきらめたように、戦意を喪失したように、負けを認めたように。
横目でスネイルを見る。こちらに注意を向けているのが分かる。だが、問題は無い。
「……」
木剣を片手に掴む。と、目の前にいた緑蛇の騎士たちに緊張が走るのが分かる。それを私は鼻で笑う。
「……終わりだ」
私は、木剣を緑蛇の騎士団の前に放り投げた。
カツンッ!
緑蛇の騎士たちの驚く顔が見えた。スネイルの顔が笑みに歪む。木剣が跳ねる。
私は、突進した。跳ねた木剣を空中でつかむ。虚を突かれた緑蛇の騎士団たちの中心を押しのけて進む。
数発はもらうが、止まらず進む。限界なんて超えている。幸いにスネイルとの距離は近い。
あと一歩。
敵の団長を、スネイルのみを見て進む。今度こそはと、木剣を思いっきり振り下ろす。
カン!
それは、乾いた音だった。スネイルの頭部の当たる直前、こちらの剣は横からのびた木剣で受け止められていた。
「おいおい。おっせーな!ハエがとまりそうだぜ」
グログが笑みを浮かべる。そして、乱雑に私の木剣をはじいた。と、グログの木剣で私の頭に向かって下ろされた。
避けようとするが足が動かない。
防御しようとするが腕が上がらない。
最後まで、足掻くと決めたはずなのに、条件反射で目は閉じてしまう。
カーーン!!
私の頭を打った音は、随分乾いたものだった。しかし、痛みが無い。ゆっくりと眼を開く。木剣は目の前で止まっていた。
否、止められていた。
「おいおい。随分、ボロボロじゃねーか」
そこには、趣味の悪い緑蛇騎士団の兜をかぶった、ヒルサキがいた。
「な!?」
その顔は、それこそボロボロで、顔も体も傷だらけだった。
「あ“ぁ!それにしてもこの兜!重くてだせぇ」
そう言いながら、兜を投げ捨てる。
広場にスネイルの怒号が響き渡る。
「陣形を立て直しなさい!!急げぇ!!」
陣形もなにも、スネイルは目と鼻の先だった。ヒルサキと目が合う。同時に走り出していた。
スネイルに襲い掛かろうと飛び掛かる。グログが横から襲い掛かってくる。迎撃をしなければ、攻撃を受けてしまう。が、防御はしない。
今は、一人では無いから。
「おいおい!無粋ってやつだぜ!ボス同士の一騎打ち。邪魔すんなよ。カエルやろう」
ヒルサキが横からグログを押さえる。
スネイルが焦りながら、木剣を構える。それを片手で押さえながら、体重をかける。
「や、やめろぉぉ!」
スネイルを押し倒すと、叫ぶ首に木剣を突きつける。
「勝負……あったな」
「馬鹿な!こんな馬鹿なことがぁぁぁ!!」
シュパッ!!口を開いたスネイルの口に木剣を差し入れた。……五月蠅い。
「ぐッぐぐぅ……」
広場に、町長の声が響き渡った。
「勝負あり!!勝者は!!灰猫の騎士団!!!」
次の瞬間。広場の観客からも歓声が上がる。
私は夢うつつで、しばらく放心していた。
「おい!何ぼけっ、としているんだよ!ほら、町の皆さんに手でも振ってやろうぜ」
私はヒルサキのボロボロの笑顔を見て、初めて勝利を確信したのだった。




