【終幕の物語】ロイとヒルサキ その2
「二発目!放て!!」
男の号令で、二発目が放たれる。それに合わせて、私も動き出す。
「おりゃあ!!」
先ほどと同じような軌道で襲う木剣、しかし今回は頭を守る兜は無い。先ほどの攻撃で吹き飛ばされていたし、何より回収して私が前方に投げつけていたからだ。
「何ぃ!?」
男のおどろく声を聞きつつ、私は突進する。兜で木剣が一つはじかれ、残り二本を叩き落す。さらに、前進。
「この野郎!」
男は木剣を構えて、迎撃の体制。それを、私はとび越える。わずかなところで男の攻撃を避け、その肩に足をかける。
「こいつ!?俺を踏み台に!?ぐがぁ!」
背後で倒れる音が聞こえるが気にせず前進する。目指すのは広場、大将首だ。
と、背後から再び声が聞こえた。
「追え!鎧を着ているんだ。そこまで早くは走れない!広場で団長の近衛隊と挟み撃ちだ!!」
確かにその通りだ。実際に、先ほども相手は隊列を乱さないスピードを保っていたし、全力で走れば何人かは追い付いてくるだろう。適度な距離を取ることも可能だろう。
そう、このままでは……。走りながら、胸と腰の金具に手をのばす。この鎧は、このような使い方を想定されて作られている。
両手両足の防具を除いて、鎧が地面に落ちる。乾いた音とともに空気が肌に入って心地いい。
男たちの驚きの声を背中に受け、私は一気に加速した。
追っ手を十分に振り切り、広場までの一本道に差し掛かる。予定とは違うが、やることは一つだった。奇襲をかけて団長を抑える。それで、勝利は手にできる。心臓が、強く鼓動を刻む、足も疲れてきている。しかし、足は止まらない、止めない。
広場にいる人々の声が上がる。私はさらに加速する。
広場の中央にスネイルが見える。私に気が付き、周囲の騎士たちに号令をかけたようだ。
坂を一気に駆け下りる。目の前にはスネイルを含めて10名の騎士。
目の前に立ちふさがる二人をほとんど同時に倒す。
さらに加速する。咄嗟のことで、あたふたしている騎士がさらに二名。一人は剣戟、一人を体術で圧倒する。
スネイルが何やら声を出している。目の前にはさらに三人組が立ちふさがった。左右の騎士が振り下ろした剣を手甲ではじく。中央の一人は足蹴りで倒す。
追撃をしようとする。左右の騎士を無視してさらに進む、スネイルの姿が良く見えるところまで近づいた。
目の前にさらに騎士が一名。倒そうと剣を構える。しかし、その背後から木剣の横薙ぎが放たれた。仲間の騎士ごと、背後にいたグログが私を倒そうと放ったものだ。それを、倒れながら回避する。
倒れこみながら、グログの足の間を滑る。目の前に、スネイルの顔が見える。
「おりゃああ!!!」
スネイルの頭部に向かって、一撃を放つ。
「ぐっ…はっ…」
しかし、その一撃はスネイルに当たる前に何者かに止められた。さらに、腹部に強い衝撃が走る。とっさに距離を置き、顔を上げる。そこには、薄ら笑いを浮かべた緑蛇の騎士団が並んでいた。中央にいたスネイルが、横の部下に話しかける。
「ね、言ったでしょう。彼らを舐めてはいけないのですよ。保険をかけて、正解でした」
そこには、15人の騎士が並んでいた。
「は、はぁ……。ど、どういう……」
スネイルが勝ち誇り口を開く。
「良い機会です。解説しましょう。いや、解説というほどでもないですよ。我々の総勢は40名だった。それだけです」
「し、しかし……」
「えぇ、最初に町に入ったのは30名です。その翌日に、残りの10名と合流しただけですよ。……届け出を出したのは昨日ですがね」
「ば、馬鹿な……。そんなことが」
「えぇ、できますとも。規律の穴を突いたので、例の町長には少々小言も言われましたがね。騎士団の情報は機密ですので、漏らさなかった町長の高潔さには感謝です」
「はぁ…はぁ…。なるほど、残りの10名は広場の観客として紛れていたというわけか」
「情報収集、奇襲。すべてにおいて、仲間を潜ませると効果的なのでね。今日のように……。ちなみに、あなたのお仲間のところにも増援を送っています。まぁ、貴方を倒すだけでいいんですが。それなりに計画を邪魔されて、不愉快な思いをしたのでね、少々、痛い目を見てもらおうと思いまして」
「はぁ……。逆に尊敬するな、どうすればそこまで誇りを捨てられる?」
「別に?特に理由はありません。最適化しただけです。誇りやルールなんてものはね、守るだけ無駄で馬鹿を見るんですよ」
「なるほど……。でも、そのセリフは物語では負ける悪役のセリフだな」
「そう言われてみれば、そうですね。あはは」
スネイルは、笑いながら言葉を重ねる。
「でも、我が緑蛇の騎士団はこの方法で勝ってきたのですよ。さぁ、おしゃべりは終了です。後でお仲間とも会わせてあげますよ。互いに自分たちの選んだ選択の馬鹿さ加減を良く嚙み締められるようにね。では!構え!」
スネイルの号令で、その場にいた全員が構える。先ほどの大通りで、追い詰められた時とは状況が違っていた。こちらは満身創痍、対して敵は人数が多いうえに、それぞれの力量も上のようだ。
さらに、複数の足音が聞こえる。私を追いかけていた騎士たちが追い付いた音だと知る。スネイルの指示で彼らはスネイルを守る様に展開した。
「はぁ…はぁ…」
必死に勝利に向けての策を考える。彼に叱責された時を思い出し、必死に頭を働かせる。
しかし、体力が限界だからなのか頭が働かない。
「一人でいることには、慣れたと思ったんだがな……」
もし、この場にヒルサキがいてくれたら、どうしようもない彼の軽口で、良い策がひらめく気もするのだが。……情けない話だ。
と、広場の端にいる観客からざわざわと声が聞こえた。声がする方向に視線がいく。緑蛇の騎士団の視線も向かう。
男の声が聞こえた。
「おい!やった!しとめたぞ!!見てくれ!!」
緑蛇の兜をつけた男が、猫の兜をつけた男を引きずりながら広場に入ってきている姿が見えた。




