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作戦はうまくいっているものの

 坂を全力で駆ける。足はまだ残っている。残りは九人。後ろを振り向き距離を測る。離れすぎだ、速度を少し落とす。

「おい!追い付いたぞ!囲め!!」

 ワイドの声だった。どうやら、指揮を執っている様子だ。ちょうどいい。こいつにはお返しをしたいと思っていたところだ。予定通りの位置で停止する。

「久しぶり、なんだよ、息が上がってるぞ」

「はぁはぁ、逃げ回りやがって……」

 石造りの建物と建物の間、木製の木箱の山を背に半円に九人は並んだ。でも、俺が追い込まれたのではない。俺が誘い込んだのだ。

 そうとは知らずに、ワイドが叫ぶ。

「袋叩きだ!やっちまえ!」

 それを合図に一斉に襲ってくる。俺は、体を180度転回すると、箱に向かって突進した。

「何!?」

 多分、何人かには俺が消えたように見えただろう。でも、消えたわけでもなんでもない。一見すると箱が重なっているだけのように見えるが、一か所だけ扉のようになっていて奥の裏路地に出られるのだった。建物の所有者の厚意らしい、町の人も良く近道に使う道だ。実に助かる。

 状況を理解した、ワイドが指示を出す。

「隠し扉だ!追え追え!」

 頭に血が上った怒鳴り声。そうだ、そういう風に怒ってくれると助かる。

「待て―ぐぁ!」

 そう、出口のところ、頭に当たるところに木剣を構えておくだけで自滅してくれるし。

 二人目。


 でも、同じ手は何度も使えない。

 次は裏通りの道幅を利用する。二人分もないこの道幅は必然的に一騎打ちの形になる。

「よくもやってくれたなぁ」

 そう言いながら、ノビた男を盾にして二人目が裏通りに登場。盾にするなよ、俺がやったんだけど。

 男は兜で顔が見えないが、それなりにがっしりした体格だった。純粋な力じゃ勝てそうもない。男は盾に使っていた仲間から手を離しながら言った。

「まともに、勝負もできねぇ卑怯者が、でもこれで終わりだぜ」

 そう言いながら両手で木剣を構える。

「いいぜ、やってみろよ」

 俺も構える。

「おりゃぁ!!」

 シンプルな叫び声をあげて、男が突進してくる。俺は、後ろに跳び避ける。

「おりゃぁ!どりゃあ!」

 男の猛攻は止まらない。俺は徐々に追い込まれる。不敵に笑いながら男はさらに木剣を振り回す。

「とどめだぁ!」

 そう言って木剣を大きく横に振ろうする。が、その剣筋は、無様にも石の壁に当たって止まることになった。

「何!?」

 こいつが頑張って木剣振り回してくれている間、俺の呼吸は何とか整った。

「この道さ、徐々に細くなるんだよね」

「ひ、卑怯者がぁ!」

 俺は木剣で顎を打ち上げる。男は気を失いながら倒れる。

「確かに、卑怯かもな、でも2対30も正々堂々ではないだろ?」

 俺は、声をかけると裏路地を一気に駆け抜けた。通りを出ようとしたところに蛇の兜が見えた。あちらも馬鹿ではない、挟み撃ちにしようとしていたらしい。とっさに俺はとび膝蹴りを喰らわせる。

 三人目。

 そして、四人目。


 半分近くが、倒されたことでワイドたちの頭も冷えたようだ。必死に追うという感じではなく適度な距離を維持している。こちらはロイがやられれば負けになる、俺を援護に行かせない作戦に切り替えたのかもしれない。

それはそれで、好都合だ。灰猫の騎士団、ロイを舐めてもらっては困る。こちらは情けない話だが、ロイが20人を倒す計算でやっている。こいつらを俺がひきつけられるのであれば、それはそれで上出来だ。


小さな広場に差し掛かり、そう思いながら後ろを振り向く。

「なっ!?」

 俺を追いかけているのは三人。残りは三人のはずだ。もしかして、スネイルの護衛か、ロイのもとに向かったのか?だったら、大ポカだ。

 しかし、残りの三人の居場所はすぐに分かった。―――俺の目の前だ。

「よく、先回りなんてできたな。そんな頭脳があったとは、俺の話術で自分の馬鹿さ加減をお披露目した男とは思えねぇよ」

 笑みを浮かべるワイドに俺は話しかけた。

「最後まで、うるさい男だ。ここまで来たなら、おとなしくやられておけ。半殺しにしておいてやるからよ」

「最後か……。そうだな、最後だ。ひとこと言わせてくれ」

「ふん、なんだ?言っておくが何を言おうと、状況は変わらねぇよ」

「賭けだったんだがな、この近くには偏屈な爺さんが居てな、人間嫌いで友達は飼い犬だけなんだよ」

「……何の話だ?」

「いつもこの時間に散歩に来るのさ。しかも、その犬は俺にひどくなついている。この状況を見たら、その凶暴な牙で助けてくれるだろうと思ってな。そして!ちょうど時間だ!」

「ワン!!」

 広場に犬の鳴き声が響く。ワイドをはじめ、六人の目は広場の入り口に集中した。そこには、俺の言ったように犬と老人がいた。嘘はついていない。本当に俺に懐いているし、懐く前はその歯でよく噛まれて痛い思いをした。―――ただ、そのサイズと犬種は前の世界のミニチュアダックスフンドによく似ていたというだけである。

「てめぇ!!」

 怒ったワイドが振り向くより、俺の方が早い。

「ぎがぁ!」「ぐがぁ!」「げがぁ!」

 一人を不意打ちで倒し、二人目は腹に強烈な突きをお見舞いした。三人目はロイから教わった体術で地面に叩きつけた。もう一度この動きを、やれって言われてもできないだろうな。

 とりあえず、五人目、六人目、七人目を倒すことができたわけだ。残りはワイドを含めた三人。

「はぁはぁ、俺たちがこうやって向かい合った夜のことを思い出すぜ」

 正直、状況は良くはない。こっちは体力がもう空っぽだし、戦いの中でダメージも受けている。でも、残りは三人、こいつらを倒して、たとえ遅れようとロイの援護に向かう一気に勝負を決めようと体制を低くする。―――と、足音が聞こえた。最初は、ロイがスネイルを倒して、誰かが俺に教えに来たのかと希望的な推測をしたが、そんな雰囲気ではなかった。

 ワイドたちを警戒しつつ、足音の方向を見る。そこには、信じられない光景が広がっていた。足音の主は五人の男たちだった、問題はその服装。全員が緑蛇の騎士団の鎧を身にまとっていた。

 男たちは、ワイドたちと合流し、混乱して足の動かない俺の周囲を先ほどより強固に囲った。ワイドが勝ち誇った表情で言う。

「さぁ、緑蛇の騎士団総勢40名でお相手させてもらうぜ」

 

 40名……。計算が狂って何かが壊れる音がする。


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