【別幕の物語】転生前の小話
「おい、団長!面白い話をしてやるよ!馬鹿な男の話だ!よく聞けよ」
強く力を入れすぎたのか、少ししびれた手でロイを押さえつけながら話を始める。自分で思い返すことはあっても、二度と忘れることは無いだろう話を。
「昔、ほんの数年前。あるガキが高校生になった。第一志望でさ、必死に勉強していたから合格した時はうれしかったさ。同じ中学の奴も何人かいた、その中に小学校からの親友もいた。小中はずっと一緒に登下校してた気は弱いけど優しい奴だった。結局同じ中学の奴とは別のクラスになったけどよ。学校は楽しかったぜ!走るのが好きだったから陸上部に入った。勉強もそこそこで自由な時間が増えた。だから、部活と遊びに使った。でもな、二年生になった時、同じ中学の奴から嫌な噂を聞いた。親友が……。いや、その時はほとんど交流も無くなっていたから親友なんて呼ぶ資格は無いんだけどよ。そいつが、いじめられてるってさ」
気が付けば、俺は涙を流していた。
「なぁ、俺がどうしたと思う?友人がいじめられているって知って、どうしたと思う?」
ロイは無言で俺を見ていた。部活動とか、高校とか、意味わかんないだろうけど、黙って聞いていた。
「俺はこう言った「あんまり詮索すると悪いからな……」その後、話を変えてその話題を終わらせたんだよ。自分に必死に言い訳して、「ちゃんと相談を受けた訳じゃないから」とか「関係ないのが間に入ると余計いじめられるから」とか、それっぽい理由を自分の頭の中でして、結局無視を決め込んだよ。
それでな、その二か月後そいつから相談を受けた。クラスの不良にいじめられてる。って、助けてほしいって言われたよ。俺はどうしたか?そいつの話を聞いてやった後、先生に相談しろとか、電話の相談口があるとか、遠回しにさ、俺に関係ないところで解決しろって言ったんだよ!
帰り際にさ、あいつ「ありがとう」って言った。その後、「悪かったな」って言ったんだよ。
その時だって、必死に頭の中では賢い言い訳のオンパレードだ!進学校だからそこまでひどいことはされてないだろうとか、自分が出て喧嘩でもしたら部活動が活動停止になっちまうとかな!」
自分ではちゃんと喋っているはずだった。でも、声はかすれてガラガラになっている。
「それで!それで……。それから、数か月後あいつは死んじまったんだよ。自殺したんだ。その時になって、自分が大馬鹿野郎だって気が付いた。自分が手を差し伸べてやったら、何も考えずに味方になってやったら、死んでからそいつと歩いた登下校、学校の行事、先生に怒られたことまで思い出された。それが、そいつがどれだけ大事なのか思い出した。いや、覚えてたはずだ!でも、恐かったから、面倒だったから!それから目を背けただけだ。とりあえず現状維持でなんとかなる!時間が解決してくれる!そんな言い訳に逃げたんだ!
いいか、その大馬鹿野郎は腑抜けになって学校で座って飯食うだけのゴミになった。でさ、ある日学校の屋上に向かう階段から話し声が聞こえた。いじめの主犯達だった。そいつらは、退学もされずにのうのうと学校に来ていた。それも、あの時楽しそうに自分たちがいじめた男の話を始めた。気が付けば、俺は階段を駆け上がってそいつらに殴りかかっていた。何をやってももう遅いのに!何も考えずに暴走したんだ。そして、そいつらともみ合っている内に、階段から落ちてさ足が動かなくなっちまったんだよ!」
俺は、自分で自分の足を掴んでいた。リハビリしても、まともに歩くことが出来ないだろうと言われた足、自殺するときでさえ、情けなく踏み外してしまった足。
「もうね、死んでやろうと思ったよ!賠償金と国の保証で一生生活できても、生活が保障されていても。俺には何もなかったんだからな!でも、死ねなかった。ただ臆病だった!死ぬのが怖かった!でもな、ある日アパートからさ」
あの日、両親から逃げるために借りてもらったアパート。二階の部屋で寝ていると、下校時間なのか子供たちがはしゃぎながら歩いていた。
「将来の夢って、わかんねぇよな。どんなこと書く?」
作文の宿題でも出たのだろうか。一人の少年の質問に公務員とかゲームデザイナーとか夢を語っていく。その中で、一人が言った声が聞こえた。
「将来は分かんないけど、おっさんになっても俺たちは友達で、一緒に酒とか飲みたいよな」
その少年の声に全員が同意した。その声を聞いて、自分もそういう関係になれる奴がいたのに自分で殺して、それがきっかけで全部が無くなって、それをどこかでそいつのせいにしている自分に気が付いて、死ぬことにしたのだ。
俺は、再び腕に力を入れロイに詰め寄る。
「ロイ!!俺は全部無くなった!自分は地獄があるのなら地獄に行くのだと思った。それが、俺の罪でそれでしか償えないと思っていた。足はもう、まともに動かないと思った。でも、違った!まだ命がある!足だって動く!いや、足が無くなっても、生きなおせるなら。生をやり直せるなら、もう後悔しないと決めた!存分に、我がままに生きる。強欲に生きてやる。あんなことがあっても自分に言い訳はしない。親友も、部活も、何もかも全部守るためにがむしゃらになってやる!どんな方法だって見つける!何か大切なものがあったら何も捨てずに守ってやる!そう決めてるんだよ!」
そう、今回こそはやっと居心地の良くなった職場も、お堅い仕事仲間の騎士道も、ついで暴力店員のいる酒場も、全部守りたいと思っているのだ。
「だから!お前がお利口になって、大切なものを捨てるっていうなら俺が止めてやる!」
ロイにすべてが伝わったとは思えない。こちらの言葉に変換されない言葉もあるし、何よりちゃんと声になっていない。でも、ロイはさっきとは違った強い声で言った。
「ヒルサキ。方法はある。うまくいけばすべてが解決する。失敗すれば全部が無くなる」
「ふん、望むところだ。絶対成功させればいいんだろ。どうすればいい?」
「決闘に勝利する。俺たちが緑蛇騎士団を倒せばいい」
そう言って俺を見たロイの目は先ほどとは違って強い意志があふれているようだった。
戦力の差は
灰猫騎士団(団員数二名):緑蛇騎士団(団員数約三〇名)
俺とロイは腹をくくったのだった。




