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2年A組は浮き足立っている

続きました。

 羞恥にほてる頬を冷ましつつ、薫子さんと連れ立って教室へと向かう。


 今日は朝からトラブル続きでなかなかメンタルにきているけれど、ここからが本番である。

 さっきは妙なオリキャラにイベントを潰されたけれど、2年A組の教室に入れば、今度こそ主人公との出逢いが待ち受けているはず。

 だから気合いを入れて、気持ちを切り替えて、さっきのパンチラは忘れて……

 ……やっぱり無理。まだ恥ずかしい。


 そんな風に落ち着かないあたしを見かねてか、薫子さんが話しかけてくれた。気配りのできる実に良い子である。


「そう言えば、私たち、また同じクラスですね」


「そうね、中等部から3年連続で同じクラスね。」


 あたしが笑顔で答えると、薫子さんは小さな身体を更に小さくしながら、小声で、


「……嬉しいです……」


 なんて漏らすもんだから、もーかわいい。

 思わず、


「あたしも嬉しいわ~っ!!」


 なんて叫んで撫で回しちゃう。あわあわされても止められない。あーかわいい。


 ……そうしてひとしきり撫で回すと、あたしのメンタルも大分回復した感じがする。ありがとう薫子さん。

 そして代わりに薫子さんが真っ赤になっている。ごめんね薫子さん。


 再び歩き出すと、また薫子さんが話を振ってくれる。今度は照れ隠しかな? かわいい。


「あの、ところで、私たちってA組ですよね?」


「ええ、そうね」


「……アルファベットって何だか新鮮じゃありませんか?」


「ん? ……ああ、確かにね」


 一瞬『アルファベット?』と思ったけど、すぐ納得した。

 そう、私たちの通っていた――まあ今も校舎は同じなのだけれど――聖カタリナ女子のクラス名はアルファベットでも、数字でもなかった。


 ――雪組、月組、花組といったまるでヅカみたいなネーミングだったのだ……何故かは知らないけれど。


「2年A組……何だか学園ドラマに出てきそうな響きですよね……!」


「うふふ、そうね。」


 前世の記憶があるあたしからすると1年月組の方が断然インパクトが強かったんだけどね。


 ――てか普通のクラス名で楽しくなっちゃう薫子さん萌ゆるわー!


 * * *


 始業5分前。


 2年A組の教室は浮かれた雰囲気、ではなく、どこか浮き足立っているような雰囲気だった。


 進級に加えて男子校と女子校が合併したのだ。生徒たち――男子と女子が距離感を測りかねて落ち着かない、というのは仕方のないことだろう。


 しかし、それは同時に生徒達にとって今まで出会いの少なかった異性と交流できるチャンスでもあり、多くの生徒達にとって現状は期待に胸を膨らませるような、そんな状況であるはずだった。


 それなのに、何故生徒達は怯えているのか。


 それは、二人の男子生徒が原因だった。


 一人は、身長190cmに届こうかという坊主頭の巨漢。

 もう一人は、巨漢ほどはないものの、180cmはあると思われる長身の男子。……黒髪オールバック。


 二人は共に――人相が悪かった。


 巨漢が「よう兄弟」とでも言わんばかりに肩を組む。……凶悪な笑みを浮かべて。


 オールバックは巨漢の腕を乱暴に振り払って睨みつける。……泣く子も黙りそうな眼光だ。


 そんな見るからに近寄りたくない男たちが同じ空間に居るのだ。

 それだけでも多くの生徒が萎縮することだろう。


 しかし、話はそれだけではない。

 なんと彼ら、合併初日の朝だというのに、既にトラブルを起こしたというのだ。


 なんでも、廊下で女子生徒を突き飛ばした挙げ句、睨みつけて脅したとか。

 ……どうやら彼らは見た目だけでなく中身も悪辣らしい。


 彼らを知らない生徒は、「女子にも手をあげる恐ろしい男子」に震え上がり、彼らを知る生徒も、「今朝のヤツの機嫌は最悪らしいぞ」と警戒を強める。


 そして、更に都合の悪いことに、トラブルに巻き込まれた女子は、なんとこのクラスの女子だというではないか。


 ……この教室に彼女が現れたとき、きっと彼らは何かをしでかすに違いない……。


 そんな予感に、教室中が浮き足立っていたのだ。


 ……そして今。


 ――ガラガラガラ……


 教室の戸を開く音に、空気がピシリと張り詰めた。


 * * *


 ――ガラガラガラ……


 あたしは先ほどの反省を踏まえて、躊躇せずかつ丁寧に教室へと入った。こういうのは勢いが大事よね……ん?


 途端に静まり返る教室。

 ……明らかにあたしに注目が集まっている。


 男子の一部はポカンとした表情――多分あたしに見惚れてる。

 その他の生徒は何か気遣うような視線――これはさっきの騒動見られてたかな?


 そして後方の席から立ち上がって近づいてくるのは、例の不良くん。あちゃー、同じクラスかい。

 ……てか何する気なの? にらめっこの再戦?


 しかも隣にホモゴリラまで引き連れて……


 ……ホモゴリラ?


 ――えっ、ちょっと待って? えっ?


 ――なんて思ったところで待ってもらえるはずもなく。


 目の前まで来た不良くんが唐突に頭をさげた。


「さっきはすまなかった」


「えっ、あー、良いわよ別に、ていうか何、えっ」


 何か不良くんが打って変わって殊勝な態度とってるんだけど正直そんなのどうでも良くて。


「うわっ! ハウト全然相手にされてねえじゃん、ウケる」


 そう、横でウケてるホモゴリラ!


「あなた、名前は!?」


「……俺は、くろう――」

「――あなたじゃない! そっちの坊主の方!」


「えっ、俺?」


「そう! 名前は!?」


 へらへらしてないで! ほら!


「えーっと。俺の名前は、


 津郷つごう良友よしともだけど……?」


 津郷、良友。


 都合の良い友。


「やっぱり……」


「えっ? どうしたの?」


 いや、ゴリラな見た目ですぐ分かったけどさ。


 津郷良友。


 彼はゲーム『俺千』の登場人物で――


 ――ギャルゲの定番、「都合の良い男友達」枠のキャラクターである。まさにTHE()安直ネーム。


 しかし何故主人公にベッタリホモの筈の彼が……


 …………はっ!


「……もしかして……」


「……こっちが下手に出てみりゃこれか……!」


 ……主人公の親友と仲良さげで。


 ……主人公と同じクラスに在籍していて。


 ……そして主人公が出てくるはずのイベントに代わりに登場していた。


 つまり、


「……ふざけやがって……このクソアマ……!」


 モブ感のなさからあり得ないと否定していた、

 この黒髪オールバック時代錯誤不良くんが……?


「……あなたが……“主人公”なの……!?」


「ハァあああん!?」


 …………そんな、馬鹿なっ!!!!

薫子さん(((;Д;)))コウコサン…!ガクブル

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