正義の黒魔法使いは暗黒の光に呑まれて
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ふぁー…。
今日もいい天気だカァ。
こんな日は、ひなたぼっこするのが一番だカァ。
…ただ。
さすがに石造りの城の上は暑すぎるんだカァ…。
別のひなたぼっこスポットを探しに行こうカァ。
…ん?
そろそろ飛んでいこうかと思っていた矢先、お城のテラスにリユ姫が出てきたんだカァ。
「…はぁ…」
何不自由無いはずのお姫様がため息をつくなんて、よっぽどのことなんだカァ。
「もうすぐで、結婚式…」
幸せの絶頂期なんだカァ。
「男の人なんて…嫌です」
…?
「どこか…どこかに、私を幸せにしてくれる女の人はいないのでしょうか…?」
…。
…なんだ、そういうことだったんだカァ。
王族の一人娘も、大変だカァね。
…やれやれ、一肌脱ぐことにしようカァね。
そうして、オイラは大きく羽を広げて飛び立つんだカァ。
◆◆◆
ここは、魔法が人々の生活に根付いた世界。
魔力は生命エネルギーと同価値と捉えられていて、通貨としても扱われている。つまり、「商品を売買すること」はつまりそのまま「命のやりとり」に繋がる。この世界では、魔力が全てなのだ。
そんな世界には当然、人々から魔力を奪って支配しようとする「悪しき者」も存在する。魔王、魔女、呪術師、一部例外を除いたモンスターなどがそれにあたる。
オイラが仕える黒魔法使い、オダマ・キ・マキもその中の一人。マキはいつもオイラを振り回しては、人を動物に変えるだとか、動物を人間に変えて従わせるだとか言って、泣いたり笑ったりしながら、よく大壺とにらめっこしている。なんでも、「禁忌の魔術」に手を出しているらしい。まあ、オイラにとっては、どうでもいいことだ。
でも、その「どうでもいい」って言葉を口にしちゃいけないっていうのを、今日改めて知った。
カラスであるオイラは、マキの魔法のおかげでマキとだけなら言葉を交わすことができる。だけど、それがアダとなった。オイラがそう言った途端、マキは眉間にシワをよせて激怒した。なんか「分からず屋」とか言われて魔法のステッキでポカポカ殴られたけど、言ってる意味が分からなかった。カチンときたオイラは、マキが持ってたステッキを奪って、家出した。そしてオイラは今、こうして新たな安住の地を探して飛び回っているのだ。
おっと、そんなことを考えているうちに、ちょっとした農村に辿り着いたんだカァ。
ふと、とある農家の庭で一人の村娘が洗濯物を干しているのを見つけたんだカァ。オイラは自身の魔力とステッキを使って、心の中で呪文を唱えた。
ルパッチ・マジック・バッチコイ! アンダースタンド!
すると、村娘の頭上にオイラだけが見えるモヤモヤが現れて、彼女の心の中のビジョンを映し出した。
映ったのは、さっきのお城とリユ姫、そしてそれらを覆う桃色の霞。
どうやら、一発でアタリを引き当てたみたいだカァ。
オイラはさっそく「手助け」を実行すべく、彼女が握っていたハンガーを奪って、彼女がギリギリ追いかけられるスピードでお城へと向かったんだカァ。
◆◆◆
後ろから、「待って!」と叫ぶ村娘の声が聞こえる。彼女は「ルパッチ・マジック・フレキシブル・アーム」と唱えて腕を伸ばしてくるが、そんな下級魔法じゃオイラには届かないんだカァ。
そんなこんなで、お城の門まで到着したカァ。オイラはお城の中に先回りして、睡眠魔法で門番達を眠らせながら、村娘を誘導していく。
そしてとうとう、リユ姫の部屋へ突入。
「あっ、お姫様…」
「あなたは…?」
予想通り、二人はひと目で恋に落ちた。
「私を自由にしてください!」とリユ姫。
「はい、一緒に行きましょう!」と村娘。
これは、駆け落ち待ったなしだカァ。
◆◆◆
二人が着の身着のままでお城を飛び出したあと、目覚めた門番達が側近やら王様やらリユ姫の許嫁やらを引き連れて追いかけてきた。
ガッチリミテホシーヨ・マジン! コッチニキテホシーヨ・マジン! シャバドゥビ・バッチリ・ヒューマン・ヘンシン・プリーズ!
オイラはマキが編み出した、動物が一時的に人間になる魔法を自分にかけた。羽は腕に、クチバシが唇になっていくのを感じる。
そして、オイラは「人間の女」に変身した。
その瞬間、全身から汗が噴き出した。カラスの頃は平気だったのに、変身したら急に全裸でいることに羞恥心を覚えたのだ。私は慌ててその辺に落ちていた黒い布切れを羽織い、奪ったハンガーを使って布が脱げないように首元で結った。最後にステッキを両手で構え、その身を晒した。
「君、そこをどきなさい!」
「さもなくば撃つぞ!」
ひるむことなく、私は詰め寄る。
「撃て!」
「「「「ルパッチ・マジック・ビカット・ライトビーム!」」」」
一斉に放射されたビームが、私を呑み込もうとする。
「ルパッチ・マジック・バッチコイ! アブゾーブ!」
私は暗黒のバリアで、それらを吸収、消滅させた。
「ルパッチ・マジック・チョー・カナリ・バッチコイ! マガマガシクモ・タノシク・ワルツ・ストライク!」
私は、覚えている中で最強の黒魔法を放つ呪文を唱えた。真っ昼間だというのに、暗闇が、周囲一帯を支配した。
うっかり体内の魔力を全て使い切ってしまったオイラは、カラスの姿に戻り、その場に倒れ伏した。
◇◇◇
ああ…。
どうして。
どうして死んでしまったの…?
私は跪き、一羽のカラスの死骸…いいえ、たった一人の愛する人の死体を抱き上げた。
この人、アルツ・ノワール・ミオリーレに初めて出会ったのは、二年前。オスポル・ミアルンジェの教会で私が「ぼうけんのしょ」を無くして旅の記録ができなくなったとき。当時自立したばかりで駆け出しの白魔法使いだった私は慌てふためき、神父を困らせていた。
そんなとき、彼女は私を自身のパーティーに迎え入れてくれた。一つのパーティーにつき、「ぼうけんのしょ」は一つで十分だったから。
彼女もまた、新米の勇者だった。愛称はミオ。毛先を少し巻いた銀髪や、綺麗な蒼い瞳を持った、私よりもちょっとだけ背の高い女の子。
私達はすぐに意気投合し、一緒に行動するようになった。数々のダンジョンを攻略して、成果を上げてきた。
そして…一年前。この大陸を絶望の底に突き落とそうと企んでいたアヴィデルという魔王を討伐しに行く前夜、私達は互いの気持ちを伝え合い、結ばれた。
いよいよ、決着の時が来た。
私の補助魔法と彼女の剣が見事に重なり、魔王アヴィデルはその身を灰化させ始めた。
ようやく終わった。これからは地に足を着けて、二人で新しい家庭を築こうと決めていた。
その油断が、命取りになった。
魔王アヴィデルは最後の力を振り絞り、私に「醜悪変貌の呪い」をかけようとした。私は突然のことに反応出来ず、ただ立ち尽くしていた。
ミオは私を庇って、代わりに呪われた。それ以来、彼女はカラスの姿になり、それまでの記憶を全て失った。
私は、この呪いを解くために、黒魔法使いになった。封印された「禁忌の魔術」を使えば、彼女を元に戻せると考えたから。
でも、その彼女は死んでしまった。
ケンカして私達の住処の洞窟をミオが飛び出したあと、心配になって探しにきた時には、もう息をしていなかった。
なぜミオがお城の前にいたのかは、もう知り得ない。
◇◇◇
余談だけど。
私達が討伐したはずの魔王アヴィデルは、魔力をほとんど失って弱ったため、今は少女に化けて息を潜めながら、王族の女性だけが持つ「聖なる魔力」を取り込んで復活しようと目論んでいるという噂を聞いたことがある。
本当かどうかは、分からないけれど。
どうも、壊れ始めたラジオです。
私にしては珍しい異世界物語、いかがだったでしょうか?
私個人としては、結構楽しく書かせていただきました。
同著者の別作品も、ぜひご覧下さい。
それでは。




