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其の二: 自分の思惑からずれていくんだが

「ケンタ、お茶」

「ツルギ、はいどうぞ!」

「肩をもめ」

「お任せあーれ!」


 教室の中で繰り広げられる会話はあまりに一方的である。黒髪ポニーテールの月城ツルギは日向ケンタを次々に呼び出す。そのたびにケンタはそのたびに穏やかな笑顔を浮かべながらツルギのもとへ行っていた。完全にこき使われている…いわゆるパシリ状態である。


 そんな様子を回りの人間は私たちを見つつ、ひそひそと話し始めた。私は無表情という名の仮面を被りながら、内心で小さく笑みをこぼす。


「(よしよし順調だぞォ)」


 かれこれ入学から一か月は経とうとしている。退学する理由を作るためにも、なんとか私は皆から距離を置かれるタイプになろうと努力を始めた。 あまりに傲慢で高圧的な態度で振る舞い、授業では軍事家系故に鍛えられた圧倒的な力を見せたのだ。


 協力者はもちろん相棒バディのケンタである。天高く魔法で吹っ飛んでいただきました。ありがとうございます。


 ケンタをこき使っている上に、こんな態度なのに強いときたら自然と怖い奴だと思われるだろう。そうして彼らは私を腫物扱いするに違いない。「アイツは手におえない恐ろしい奴で、それでいてムカつく野郎」と思われれば万々歳である。完全にやらせだけどな。


 誰かを虐めるにあたってある程度の恐怖心を抱かせる地位が必要だからねえ。でもそろそろケンタにも悪いし、他の子に虐めの対象を移そうと思った。思っていたんです。


 だがしかし。伏兵というものはどこにでもいる。


 私が目星をつけていた別クラスの根暗そうな女の子がすでにこき使われ、虐められていたのだ。そう…ギャルギャルしい恰好をした美少女達に。


「(うおおおおおおお出遅れたァアアアア!!)」


 私は美少女たちの様子をみて本気で出遅れたと思った。悔しさのあまりに崩れ落ちるほどである。


 それと同時に絶望した。ある程度の恐怖を周りに抱かせていると思っていたが、その虐める側の美少女達は私に対して怯えすらもしなかったのだ。


 つまるところ無視である。


 こんなに虐めを遂行したいのにどうしてさせてくれないの?!そうやって寄ってたかって虐めるのは私の仕事だよ!あんたらの仕事じゃない!いじめっ子な私を先生に対して告発することが仕事だよ!そこから退学のコンボをかまさせないとだめでしょーが!!虐める側にとっては私は恐怖の対象ではないんだね…!ちくしょう!


 というかその子はいいカモだと思って私が目付けてたんですが?!その子に失礼なことを言ってる自覚はあります!


「(これは更なる恐怖で支配すべきか…)」

「(お前本当に馬鹿だろ。そろそろ諦めろよ)」

「(ちょ、ケンタってば魔法のフィーリングで私の心読むのやめてくんない?!)」

「(ツルギがアホすぎるから助言してやってるんだよ!というかフィーリングは心読めねーよ!お前がわかりやすすぎるの!)」


 ケンタの得意技である『フィーリング』で、ため息を付きながら直接私の脳内に話しかけてきた。『フィーリング』とは口で話さずとも相手と自分の脳内で会話できる魔法である。『フィーリング』は高等技術を要する魔法の一つなのだが無駄にコントロールがいいケンタはスラスラとやってみせた。


 ああもうケンタに今かまってる暇ないのに…。目星をつけていたはずの虐め対象候補が美少女達に取られてしまって大変なのに…!テンションはダダ下がりである。また新たなプラン考えなくちゃ…。


 うーん、ケンタを再びこき使うか?それか、はたまた美少女たちをこちら側に入れて目星をつけていた子を虐めるか…。後者は流石に駄目だな。誰かを味方につけてしまえばその子まで巻き込んでしまう。仕方がないからケンタを使おう。


 ちなみにケンタは私にをこき使われることに大賛成している。


 もしかしてケンタさんってば実はMだったの?!と思う方がいるかもしれないが、それはない。

 ケンタ的には虐めてくる幼馴染を、慈愛(笑)の心を持って優しく接してあげるという人物像を作りたいらしい。エリートぞろいの剣城高校で優しい心を持つ人として有名になれば、名家の美少女が俺のことを好きになるかもしれない…!というゲスイ考えをお持ちである。


 流石私の幼馴染やでェ…。


 私は再びケンタを呼び出そうと口を開こうとした。その瞬間、目の前にメガネを掛けた真面目そうな少女が目を吊り上げ、足を踏み鳴らしながらこちらにやってきたのだ。典型的な委員長タイプの彼女…というか実際にクラスの委員長が私の前に立つ。そしてバンッと机をたたいて見せた。ヒエッ⁈


「月城さん、流石にもう我慢の限界よ。これ以上日向君をこき使うのはやめて頂戴。見ていて痛ましすぎるの…!」

「ほ、ほう?」


 あまりの委員長の気迫に無表情の仮面が崩れてしまうくらいにはビビった。委員長が怖すぎてガクガクと足が震え始める。


 え、なんなの委員長ってばマジでケンタの策略にはまってんの?こき使っている自覚はありまくりだが、委員長フィルターからは私のことが二割増ぐらいで悪役にみえるらしい。まじか…ケンタをチラリとみるとドヤ顔をかましていた。輝かんばかりのドヤ顔である。超ウゼェ…。


 そう私が思っている間に周りの生徒たちがにこちらを見始めた。委員長がただならぬ雰囲気をだしているからだろう。視線を集めてしまうのは当たり前である。こんなに注目の集めるやり方を委員長はしているのだから。


 委員長の怒りにに青ざめつつ、私はふと「これは使えるんじゃないのか」と思った。


 今の委員長はいわゆる正義の味方である。優しすぎる心(笑)を持つがゆえに、我儘な幼馴染に対して強く言えないケンタ。その心に漬け込む悪役たる私からケンタを救うヒーロー。もしも私がここで引けば委員長は勇気をもった強き人として評価されるだろう。


 だがしかし、そんな委員長が群衆の目の前で打ち負かされてしまったら?


 きっと私は鎖のとれた猛獣扱いを受けるのではないだろうか…?!そして周りから怖がられて倦厭されるはずだ!いじめっ子としては最高のシチュではないか!さらには委員長は私の態度にもっと嫌悪を増すことになり、私の退学への足掛かりになってくれるかも…?うおおおおおおおおおおおおおお!!!


 退学し、平凡な高校に編入!かーらーのー跡継ぎという役目もなくなった穏やかで輝かしい一生を瞬時に妄想した。なにこれ素敵。これこそが私の理想郷だ!


 内心で高らかに笑いつつ、私は目の前にいる委員長へと目を向ける。委員長が「なんですか」と不機嫌そうに言ったのを聞いた後、口を開く。


「こき使う、ねえ?私たちにとっては当然のことであるし、あなたが口出す権利はないはずだが?私たちは幼馴染であり、長年のよき相棒だからな」

「それはそうかもしれないけれど、限度ってものがあるでしょう?!あなたのそれは異常よ!普通じゃないわ…治したほうがいい」

「普通じゃない…普通じゃない、ね。普通とは一体どこの誰が決めたというのだ?人と人の尺度は違うのに!お前のそれは価値観の押しつけだ。過度の親切心と自尊心は煙たがれられるものだぞ」

「…だからねェ…!!」


 腕と足を組みながらドヤ顔で委員長に向けて話しだす。委員長は神経が逆なでされたというように顔を赤くした。自分でも態度でかい自覚と、問題発言している自覚あります。当然のように怒りますよね分かります。


 委員長の言うことは正論なんだよなあ。ケンタのあれは演技だったからいいが、普通に素でやっていたらヤバい人である。もちろん慈愛の心(笑)的な意味で。人懐っこい愛嬌のあるケンタが我儘を言う愛想の悪い私に献身的に尽くす…。ケンタの内面を知る私からしてみれば鳥肌ものだが、普通の人から見ると異常に映ってしまうのも当たり前である。


 だが私は委員長の意見を打ち砕くッ!


 理不尽な内容で言い負かしてしまえッ!私は無駄に口だけは回るからな。月城家の詐欺師とは私のことだ。嘘だ。


 周りから視線を集めながら更なる嫌悪と恐怖を抱かせる為に鞘に入ったままの日本刀を持つ。魔剣学科に入学した適合者たちは、剣になれるためにも学校での帯刀を義務づけられている。おい日ノ本、銃刀法違反はどうした。正直小心者の私としては帯刀したくないと言いたいところだが……どうやらそれが今回は役に立つようだ。


 私は周りを威嚇するかのように鞘に入った日本刀を床に叩きつけるッ!!


 ガンッと周りのざわめきを打ち消すような鈍い音が鳴り響いた。その音の発信源たる私にザッと視線があつまる。あ、なにこれ怖い帰りたい。あまりの視線に手が震えそうになりながらも私は高らかに口を開く。


 あくまで堂々と、まるでそれが正論のように。


 それ以外の意見などあり得ないといったように。



「…--だから、だからどうしたというのだ‼︎ たとえどこの誰が言おうとケンタと私は相棒なのだ‼︎」



「っ!」

「なにも知らないお前が私達なりの信頼関係に口を出すな‼︎」


 いや、意味わかんねーよ私。

 全力で腹から自分本位すぎる言葉を吐き出す。内心、自分でツッコミを入れた。


 言い換えれば「ケンタを虐めるのは私の勝手だよJK」というジャイアン思考である。うわー我ながら最低だわーこれはないわ〜。私の発言を聞いて更に顔を歪ませる委員長を見てそう思った。委員長の反応は正しいと思います。


「(だがこれでいい)」


 私は無表情の仮面を少し外して静かに笑みを深める。つり目がちの瞳をさらに釣り上げて笑う様はまさに外道。漫画の悪役顔負けのゲスい笑みに違いない。内心で私は満足げにフフンと笑った。練習しまくったからな!


 さあて、これでどうだ?

 私ってば人をコケにする最低なやつだよ退学させちゃっていいのよ!


 退学して、自分の身の丈にあった生活を送る未来の自分を思い浮かべる。やっべぇ思わずにやけるわ。周りが私達の様子を見て騒めく。それを気にせずに薔薇色生活の妄想に私が酔いしれていた時。


 …--水色の髪の青年が私達の間に割って入ったのだ。


「み、水無っ⁈」


 委員長が驚いたように声をあげる。その声色には水色の髪の青年に対して親しみが篭っていた。


 確か委員長の相棒バディだったはず。水無くん、だっけか?水色の髪だから名前を覚えやすかった記憶がある。おお?委員長への助太刀か?いいのよもっとやってくれて!問題を起こせば起こすほど退学に近づくからな!


 と喜びながら思ってた時期が私にもありました。委員長の相棒バディの水無くんの驚くべき発言を聞くまでは。



「やめろよ、土成!今回に関してはお前が悪い」



 え?


 ちょ、ちょ、っえ?なんで水無くんは委員長を責めてるわけ?なんで君ってば委員長こと土成さんの右腕を握ってるわけ?…え?なんでこいつ委員長が悪いみたいな言い方してんだ。おかしいだろ⁈ 完全に悪いの私じゃん?問題発言してたじゃん⁈


 目を白黒させながら唖然と水無くんを見つめる。委員長も驚いた顔をしながら水無くんに掴まれた右腕を見ていた。あたりまえである。水無くんお前おかしいから。お前委員長の相棒バディじゃなかったけ⁈


 委員長は何度か口をパクパクさせた後、視線を彷徨わせた。そして唇を悔しそうに噛み締め、絞り出すように声を出す。その声はわずかに震えていた。


「分かってる…月城さんが悪くないことくらい…」

「(いやいやいやいや!わかってねーよ!)」

「私が月城さんに当たってることぐらい…!」


 クッと言うように目を瞑り、拳を握る委員長。それを痛ましそうにみる水無くん。傍からみたら美しい青春の一ページだ。だが私は声に出して言いたい。頼むからツッコませてくれ。



 …いやいやいやいやいや‼︎なんでだよ⁈



 明らかにおかしい展開なんだけど⁈待ってよ委員長!お前なんで水無くんに同意してんの。なんで私のこと肯定してんの。おかしいだろ‼︎微塵粉たりとも私のことわかってねーよ!


 この展開なんかまずい気がする!私に望む方向に転がってない気がする!

 私は慌てて何か言おうするが何も言えず、委員長を睨みつけることしかできない。不測の事態に対しての柔軟性がない自分が憎い!


 そうこうしているうちに委員長はハッとしたように眼を瞬かせた。まるで決意したかのように顔を険しくさせる。今度は何⁈


「月城さん…そう、そうね。どうか私、いえ、私たちと戦ってくれないかしら」


 …--なんでだよ⁈ どうして突然戦い申し込んできてるのこの人⁈


「もちろんだよ〜。俺とツルギはいつでも受け付けてるからさ」


 そしてケンタ、何故お前が答えるんだよ⁈


 事の中心の筈なのに一切介入してこなかったケンタが人懐っこい笑みを浮かべてこちらに来たのだ。更には私の肩に手を置きやがった。ちなみにこの時の効果音はポンッ、じゃない。ガッ、である。


 いたたたたたたたた⁈ ケンタ何しやがんの⁈


 怒りを込めて睨むが、逆にケンタに笑い返された。目は笑ってないけどな。アッこれ「黙ってろやァ」って言ってる目ですわ。すみません黙ります。ケンタさん怖い。


「じゃあ今から行こうか」


 目を細めて笑うケンタ。険しそうな顔をして頷く水無くんと委員長。戦いということで沸き立つ外野勢。



 なんでこうなった。



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