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魔法

「ご、ごめんなさい」

 少女が慌てて、涙滴型の石を容器に入れた。

 石が容器の底に当たり、カランと音を立てる。

 橘川は呆然となった。

 もしかしたら別の何かと見間違えたのかと思い、容器の中身をのぞき込んだ。

 やはり間違いない。

 なら、なぜ?

 WAPではその石を「魔族石(まぞくせき)」と呼んでいた。

 色も形も様々で、そのどれもが宝石のような質感をしていることから、「石」という名が付けられているが、実際には歴とした生命体である。

 表面には肉眼では見えない極細の触手が無数に生えており、植物の生長ほどのゆっくりとした速度ではあるが移動もできる。

 ひとたび触手が生物に触れると、そこに寄生し、根のように体の奥深くまで触手を張り巡らせ、魔力を吸い上げる。

 触手は生物の細胞と同化してしまうため、除去するにはその周囲の細胞ごと取り除かなければならないが、たいていの場合は重要な器官にまで達してしまうそれを取り除くことは不可能である。

 仮に魔族石のみを取り除いた場合、体内に残された触手は制御を失い無制限に増殖をはじめ、魔力のみならず細胞さえも食い散らかし、宿主を絶命させる。

 ゆえに寄生されたが最後、安全に取り除くことはできないとされている。

 寄生した魔族石は、魔力をすべて吸い尽くすと脳へと浸食を始め、宿主の命令系統を乗っ取っる。その際に、触手と同化していた細胞を都合の良い形へと変化させる。

 世間を騒がせている異形の魔族とは、実はこの石に寄生された生物のなれの果ての姿なのだ。

 人を含めた生物が魔族になり得る上に、倒した魔族が元は人間だった可能性がある──などと世間に知られたら大混乱となるため、WAPはその事実を公表してはいない。

 ゆえにそれは、決して触れてはいけない危険物なのだ。

 ましてやこの少女には、吸収する魔力すらないので、触れた瞬間に魔族化するものとばかり思っていた。

 それなのに──

 魔力が元々ないため、生物と認識されなかったのだろうか?

 それとも他に何か理由が?

 いずれにせよ、魔族石に直接触って寄生されないというのは前例がなかった。

 魔力の強さだけを求めているWAPでは、見つけることができないであろう逸材。

 橘川は俄然、この少女に興味がわいてきた。

「WAPでウィッチアイドルになるのは無理だろうね」

 突然、話を戻した橘川に、少女はショックより先に戸惑いの色をみせた。

 そんな彼女の心情などお構いなしに、橘川は決して他人にはしたことのない魔力の話をしてみせる。

 WAPが求めるウィッチアイドルの条件を満たしていないと聞かされた瞬間には、さすがの少女もその場にへたり込み、肩と視線を落とすと、

「あたしじゃ……ウィッチアイドルには、なれない……」

 うわごとのように呟いた。

「WAPではね」

 橘川はそこを強調するようにもう一度言った。

「あの、それって、WAPでなければ、『なれる』って聞こえるんですけど」

 それまで黙っていた少年が口を挟んだ。

「そういう意味で言ったつもりだけど?」

「え?」

 ハッと顔を上げる少女。

「本当ですか?!」

「いいかい、今の魔力の話もそうだけど、それ以上に、これから見たり聞いたりすることは誰にも言ってはいけない。約束できるかい?」

 橘川は目を細めると、声を低くして、そう念を押した。

 少年と少女がほぼ同時にうなずく。

 それを見て橘川も満足げにうなずくと、

「魔法については、どの程度知っている?」

「WAPが作った歌とか踊り」

 まず少女が答えた。

「Cランク以上の魔族が使う攻撃」

 負けじと少年も答える。

 魔族が出現すると、その付近の住民には警戒警報が発令される。その際、魔族の警戒度はランクによって示される。

 移動速度が遅く魔法も使わない魔族はEランク、魔法は使わないが移動速度が速い場合はD、魔弾などの単体魔法攻撃を使うとC、大量同時攻撃魔法はB,広範囲攻撃魔法でAと、被害範囲や規模が大きくなるにつれランクが上がる。

 また、ランクとは別に、何らかの理由で討伐ができないでいる魔族は、その驚異度に応じた順位が付けられており、WAPのホームページで「魔族ランキング」として、個体名と画像が公開され、警戒が促されている。

「他には?」

「男には使うことができない」

 少年からその定説が出た途端、橘川は口元に笑みを浮かべた。

 人差し指を立てテーブルに向ける橘川。

 その先を視線で追う少年と少女。

 そこには空になって転がる透明のペットボトルがあった。

 橘川はさらに親指を立てると、

「ばん」

 冗談でするように、口で言ってみせる。

 その瞬間──

 ぱこんっ!

 軽快な音を立て、ペットボトルは吹き飛び、壁やら天井やらに跳ね返ると、少し離れた床に落ちた。

 言葉を失う少年少女。

 そのペットボトルは、まるで道路に転がり車に押しつぶされたかのように、胴体部分が大きくひしゃげ、ぱっくり口を開けていた。

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