プロローグ
「ねぇ!ねぇってば!起きてよ!はやく起きないと、いたずらしちゃうぞ??」
可愛らしい声が耳をくすぐり、まだ重い瞼をしぶしぶ開ける。寝起きがいいとは決して言えないが、こんなに可愛い声で起こされるとなると不機嫌にはなれないな。
「まだ眠いのぉ?」
投げかけられた言葉に照れ隠しの混じったそっけない返事をしつつカーテンを開ける。時刻は5時。加えてまだ四月のせいか、外はまだ暗い。まだ寝ていたいという欲求を振り切って動き出す。未だに可愛らしい声は途切れる事を知らないが、ぼくは構わずに着替えはじめる。
恥ずかしくないのか?って?
僕にとってはこれは日常だし、今更どうという事はない。ほぼどんな時も一緒にいる奴に羞らいなんて感じないさ。
まだブツブツと話し続ける彼女に
「いつも起こしてくれてありがとう。」
と労いの言葉をかけ、スマートフォンの画面に表示されている【スヌーズ機能停止】を押す。画面から彼女が消え、可愛らしい声が消える。
スポーツ用のスウェットとパーカーを身につけ、有名バスケット選手の名前をそのままブランドにした、いかにもスポーツマンっぽい大きめのリュックを背負う。側面に付けているお気に入りのアニメキャラのキーホルダーがジャラジャラと音を立てる。ボロボロになったバスケットボールを手に取り、流行りのアニソンが漏れ出すヘッドホンをかけた。壁に貼り付けてある尊敬する選手のポスターと、女性にはあまり見られたくはない抱き枕カバーを横目に部屋を飛び出る。
「今日も1日頑張るか。明日はゲームのアプデの日、週末は試合。ウカウカはしてられないな。」
短髪でサイドを刈り上げたツーブロックの髪型で流行りのアニソンのリズムに乗る少年 "色々 透" こと僕の一日が始まる。