凍る世界
その日は薄暗く気味の悪い日だった。
窓を開けると8月の風とは思えないほど風が部屋に流れ込んでくる。
遠く離れた丘を見つめていると何かが動いているのに気がついた。
その何がが近づいていていることに気づくまでにはさほど時間はかからなかった。
携帯電話の音が鳴り出すと同時に街の危険を知らせるサイレンが鳴り響く。急いで携帯電話を取るとそこには母さんと表示されていた。電話に出るとすぐに母さんの声が荒々しく耳に響いた。
「六月今どこにいるの?」
いつも温和な母さんがこれ程焦っている事なんで今まで無かったと思う。
「今、家にいるけど」
そう答えるとすぐに
「今からそっちに向かうから待ってなさい、すぐに逃げれる準備をしておいて!」
あまりにも急な展開に状況を読み込むことができなかった。
「逃げるって?何から?どこに?」
そういうと母さんは早口で答えた
「氷が迫ってきているのよ、はやくしたくしなさい!」
なにわけのわからないことをいっているのかと、呆れて外を見ると、さっきまで丘の上を蠢いていたものの姿が明らかになりつつあった。
それは紛れもない氷の波、白く凍てつくような煙をあげながら迫ってきていた。
電話に耳を立てると、ブチッと電話を切る音がなった
もう一度外を見ると、波は既に街の家々を飲み込み始めていた。
ドアノブを回す音がして、ドタバタと足音が階段を上がってきた。
「六月!何してるの早く逃げるよ」
母さんに手を引かれ車に乗り込むと、氷の波はもうすぐ後ろにまで迫っていた。
すぐに車を走らせるも波はものすごい速さで追いかけてくる。街の南にある地下避難シェルターに向かおうとするが氷の壁が道を塞ぐ
迂回しながら進むも遂に囲まれてしまい、車を捨てて走る。おびただしい人々がシェルターに流れ込んでいく
シェルターまであと少しというところで母さんが倒れ込んだ。氷が母さんの脚を覆っていく
「母さん!」
心意を解き放ち、炎で溶かそうと試みるがなかなか溶けない
六月の脚元にも氷が迫ってきていた
「六月!いって!」
周りが氷に包まれていき、道も塞がろうとしていた。
「いやだよ!母さん」
逃げ惑う人の中にも既に全身を氷で覆われてしまった人がいた。
ちょうどその時人混みの中に友達の直人が通りかかった