赤いバラ
サン・ジョルデイの日に素敵な小説を書いてくれたナツさんへ赤いバラのお返しです。
「バラの花ことば知ってる?」
学校の帰り、並んで歩いていたナツが聞いてきた。
「そんなの常識だよ。“純愛”でしょう!」
良介は得意気にそう答えた。
「まあ、半分正解かな」
「半分?」
「そう!半分。一言にバラといっても色や種類によって花言葉も違うんだよ」
「へー、そうなんだ…。じゃあ、これは?」
そう言って良介が差し出したのは黒赤色のバラ。それにしても、このタイミングでバラの花を出されるとは思っていなかったナツはビックリした。良介が手品の練習をしていたなんて話は聞いていないし、まさか、あのことを知っているとも思えなかったから。そして、ナツ自信はあのことのためにあるものを良介に渡すつもりでいたから。取り敢えず、おあつらえ向きに良介がいいきっかけを作ってくれた。これなら渡すものも渡しやすくなったというものだ。
「ちょっと黒っぽい赤ね。それだと、多分、“永遠の愛”とか“決して滅びることのない愛”かしらね」
「ふーん…。じゃあ、これナツにあげる」
「えっ?」
「今日はサン・ジョルディだろう?で、ついでに愛の告白」
良介は照れる素振りも見せず、当たり前のようにそのバラを差し出した。
「知ってたんだ…」
「もちろん!本が好きなナツのことだから、きっと、今日は意識してると思った」
「意外…。良介って、本なんかあんまり読まないよね?サン・ジョルディなんてどうして知ってるの?」
「ん?そりゃあ、好きな女の子が本が好きなんだから、俺だって少しは同じ趣味を見つけたいと思ってさ。サン・ジョルディのことを知ったのは偶然だったんだけどね」
今度は少し照れくさそうに良介が言った。そして、にっこり笑ってナツに向かって手を出した。
「ほら!早く出せよ。用意してあるんだろう?」
驚いて立ち止まってしまったナツをよそに、良介は催促するようにもう一度手を出した。
「ほら!早く」
ナツはいそいそとカバンの中から一冊の本を取り出した。それはナツが自分で書いたオリジナルの小説を自分の手で製本したものだった。
「これ、ナツが書いたのか?」
「う、うん」
「凄えな!これ、どんな立派な本よりもうれしいかも」
そう言って良介はその本をしみじみと眺めている。
「これからもよろしくな。俺の気持ちはずっと前からそいつの花言葉の通りだから」
ナツは更に驚いた。けれど、偶然だと思っていた黒赤バラの花ことば。良介はそれさえ承知の上で、あんな小芝居をしていたのかと思うとちょっとむかついた。嫌味の一つでも言ってやろうと思った瞬間、ナツの口は良介の唇で塞がれた。ほんの一瞬だった。良介はすぐに唇を離すと、二、三歩走って振り向いた。
「早く行こうぜ!甘いパフェでも食べにさ」
ナツは微笑して良介の後を追った。そして、良介の腕にしがみついた。
「今のキスは高くつくわよ」
勝手に恋人気取りで、おまけにキスまでしちゃって申し訳ない!