*走馬灯
ファンタジーは初の試みです。また練習中ですので、温かい目で見てやってください。
『なぁなぁ六兎。もしも、未知の能力を手に入れたら、何する?』
『はぁ?薮から棒になんだよ』
『例えば、の話』
『んなことわかっちょーわ。』
『じゃあ、何する?何する?』
『んな急かすなって…。てか、未知の能力っていっても幅広すぎやろ。もうちょい絞ってくれんと答えようがないっつーの』
『え〜…じゃあ……手から“気”がでたり』
『そりゃまたベタやのー』
『ベタでもいいんだよ!ほら、何するか答えてーな?』
『何でそんな楽しそうにしちょるん…。…しやな……』
『ん?ん?』
『…世界の平和を守る。なーんちって』
『…………きも』
『ああ?何か言ったか』
『う、嘘だって〜!』
『じゃ、巳陰は何すると?』
『ん〜そうやなぁ〜…』
『ん?ん?』
『…世界を滅亡させる、なーんちって』
『………さいってーやな』
『た、唯の冗談やろ!?』
『お前が言うと冗談に聞こえんったい』
『な、なんでよ!』
『何となく』
『ひっど!』
中学生の下校時、アハハハと笑い声が響き渡る。
六兎と巳陰の、たわいもない会話が、響き渡る。
たわいもない、笑いと、会話が。
『俺、六兎のこと大好き!』
『黙れゲイが』
『そ、そういう好きやないわ!』
『はいはい、言い訳は結構』
『事実だよバーカ!』
なんで…なんでだろう。なぜ信じきっていたのだろう。
『冗談。俺も巳陰のこと好きだよ』
『…うんっ!俺もだぁ!』
『ちょっ…!抱き着くな重いっつの…!』
この日常が当たり前だなんて、なんで、何を根拠に信じていたのか。
『やっば、もうこんな時間!はよ帰ろうぜ六兎!』
『ちょっ、速いっての!待てって巳陰!』
懐かしい記憶が、声が、少しずつ遠ざかる。今となっては、高が思い出だ。今更何を吐露しようと、何も変わりはしない。
「ばいばい……巳陰…」
薄れゆく意識の中で、呟いた。息と共に吐き出した。
「もう……笑えねぇよ、俺。疲れたわ、本当に」
目から零れる滴は、視界を暈かす。故か、目の前の世界は綺麗だった。目の前の巳陰も、まだ小さくて。幼少期の彼に見えて、思わず呼び掛ける。
「…み、巳陰…」
ニッと、力の無い笑顔で彼を見た。それに同じく、彼もまた俺に微笑んで―――――――
「ああ゛?勝手に呼び捨てになんかすんなよクソガキが」
変わり果てた彼が、目の前に。あれから10年経った今、彼の全ては彼では無くなった。
「…悪いな巳陰。走馬灯を見てた」
「ハッ、そのまま死んじまえばよかったのに」
クックックッ、と彼は気色の悪い笑い声を上げる。昔の彼からは考えられないものだ。
「巳陰ー、さすがにその笑い方やめてくれよ」
「あぁ悪い悪い。昔みたいにアハハハ、がよかったか?」
彼はプッと吹き出した後、態とらしくアハハハと笑った。あの頃の声より少し低くはなったが、それ以外は全て再現したと言っていいだろう。
彼は一頻り笑った後、意味ありげな笑みを浮かべる。心底楽しみにしている、そんな表情だ。
「さーて、そろそろ始めるか?六兎くん」
「君付けをやめろ、気色悪い」
「ああ?どっちでも変わんねぇだろ」
「大違いだよ」
たわいもない、この会話が懐かしい。いつまでもしておきたい気分だ。――が。
「んーじゃ、やろうぜ六兎くん」
彼は待ってなんかくれない。
「…わかったよ。やればいいんだろ。や、れ、ば」
俺は面倒臭そうに右手を前に突き出すと、一瞬手元が輝き、刹那、右手に剣が現れる。黒く、紅い血で汚れたその剣は、黒い色をしていた。
「うお〜…相変わらず六兎くんの剣はかっこいいねぇ〜」
「うっせ」
彼から目を逸らし、舌打ちをすると、彼もまた俺と同様に右手を突き出した。俺と全く同じ形をした剣が、彼の右手へと置かれる。
「やっぱ、俺も黒がよかったなぁ〜」
しかし、彼の剣は白に染まっていた。
「どっちも同じだろうが。ぐちぐち文句を言うな」
漆黒の剣、という名が相応しい剣の先端を、俺は彼へと向ける。
「交換しようよ、六兎くん」
そう言いながら、彼は俺と同じ行動を取った。正反対の色が、対象になる。
「…やだ。っつーか真似すんな」
「え〜、こういうのって漫画みたいで楽しいじゃん?クックック」
右手は固定のまま、彼は左手で口を塞ぎ、笑う。クックック、と。
「だからその笑いやめろ、斬りたくなる」
「はいはい、わーったよ」
彼は必死に笑いを堪えながら、剣を構えた。腰を下げ、両手で剣を持ち、地面ぎりぎりの場で固定する。それに対し、俺は剣を前へと向け、姿勢を正す。
「…じゃ、行くぞ…!」
巳陰のこの言葉を合図に、俺達二人は同じ地面を蹴った。