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元気にごあいさつ

作者: tiny hip

 7月のある日曜日。

 お庭でボールで遊んでいると、パパとママが玄関から出てきました。

「さとみちゃん、ちょっとママと出かけてくるからね」とパパ。

「お昼頃には帰るから、お留守番お願いね」今度はママが言い、二人で車で出かけていきました。

 お庭の周りはブロック塀で囲われています。わたしはボールを塀にぶつけては跳ね返ってくるのを受け止める。それをしばらく続けていました。

 だんだん飽きてきたので、ボールを置くと、ブロック塀の方へ歩いていきました。塀は高さがわたしの頭の上まであるので、塀の向こう側の道路は見えません。物置から踏み台をもってきて、塀の側に置いて上に乗ってみました。すると頭がやっと塀の上に出て、外の道路が見渡せるようになります。

 ボール遊びにも飽きちゃったし、今度は違う遊びをしよう。それにはちょっと準備が…



 踏み台の上に立って、塀の外側の道路の様子をうかがいます。住宅街の中の道路で、そんなに広くはありません。

 少しすると、向こうの方から40代くらいの女の人が歩いてきます。買物の帰りらしく、片手に日傘をさして、片手にスーパーのビニール袋をさげて。だんだんこっちに近づいてきます。

 わたしは思い切って大きな声で挨拶しました。

「こんにちは」

 女の人はわたしの方を向いて微笑むと、「こんにちは」と挨拶を返してくれて、わたしの前を通り過ぎて行きました。

 わたしが通っている学校では、だれにでも大きな声で挨拶することに、とっても力を入れているんです。先生からも、パパやママからも元気に挨拶するように言われます。だから、学校でだけじゃなくて、お家の近所でも挨拶することをいつも心がけています。知らない人に挨拶するのって、最初はちょっと勇気がいるけど、相手から挨拶が返ってくるととってもいい気持ち!


 また向こうから人が歩いてきます。今度は犬を連れたおじさんです。わたしが塀のこちら側から「こんにちは」と声を掛けると、やっぱり笑顔で「こんにちは」と言って、通り過ぎていきました。

 

 さっきの買物帰りの女の人も、今度のおじさんも、わたしの方を向いて挨拶してくれたけど、二人とも気づかないで行っちゃった。わたしがお洋服も下着もみぃんな脱いでハダカになってること…

 踏み台のの上に乗っても、ブロック塀はわたしのあごのところまであるから、道路から塀の中のお庭にいるわたしを見ても、まさかわたしがスッポンポンで立ってるなんて、夢にも思わないはず。

 気づかれないとは思っていても、そして、塀にさえぎられているとはいえ、ハダカで目の前にいる人にあいさつするのって、すっごくドキドキしちゃうの…


 30分くらい、塀の側で踏み台の上に立ってる間に、いろんな人が通りました。こどもからおとな、お年寄り、男の人、女の人。わたしが思い切って大きな声で「こんにちは」と声を掛けると、ほとんどの人は笑顔で挨拶を返してくれます。立ち止ってちょっとの間会話をかわすことさえ…。でも、だれもわたしがハダカだとは気づきません。

 歩いている人だけじゃなく、自転車、バイク、車もたくさん。でもやっぱり、何事もなく通り過ぎていきました。


 そうこうしているうちに、向こうから3人の男の子が道をこっちに歩いてきます。近づいてくると、なんと同じ学校で、学年もいっしょのよしお君、りょうた君、あつし君です。今までとはぜんぜんちがうドキドキ感。だって、塀にさえぎられているとはいえ、同じ学校の男の子の目の前でハダカで立ってるんですもの…。

 でも勇気を出して話しかけました。

「みんなでどこ行くの?」

「そこの公園だよ」とよしお君が答えました。

「この暑いのに!?熱中症になっちゃうよ」

「大丈夫だよ。さとみちゃんこそ暑くないの?お庭にいて」りょうた君が聞いてきます。

「平気よ。ここ塀があって日陰だし」(そのうえスッポンポンだもの…)

「さとみちゃん、なんだか急に背が伸びたね」あつし君がわたしを見上げて言いました。

「うふふ。クラスで一番ノッポになっちゃった。なぁんて、こっちに来ればわかるけど、ね…」

 わたしは3人がほっぺをふくらませて口をもごもごさせてるのに気づきました。

「ところでみんな何食べてるの?」わたしが聞くとよしお君が、

「キャンディだよ。さとみちゃんにもひとつあげる」と言って、ズボンのポケットからキャンディの小袋をひとつ取り出すと、さらに塀に近づいてきて、わたしに差し出しました。

「あ、ありがと…」わたしは塀の上から右手を伸ばしてキャンディを受け取りました。あぁ…こんなによしお君と接近しちゃって、ハダカだってばれたらどうしよう…

 でも塀の上から出ているのは、わたしの頭と右手だけだから、よしお君は気づきません。真夏のこの季節だから、腕が全部出ていても不自然ではありません。

「じゃあね」3人は公園に行くために歩き出しました。

「バイバイ」わたしは両手を上に高く挙げて左右に振りながら、3人を見送りました。

 さて、そろそろパパとママも帰る頃だから、お洋服着ようかしら。でもその前に、かゆみ止め塗らなくちゃ。スッポンポンでお庭にいたから、おしり蚊にさされて、かゆくって…



 お昼頃パパとママが帰ってきました。ママが機嫌良さそうに、

「さっき、そこで田中さんのおばあちゃんに会ったらね、『さとみちゃんはいつも元気に挨拶してくれていい子だね』って、さとみのことほめてたわよ」

「うん、あいさつするの、最初はドキドキするけど、みんながあいさつ返してくれると、とっても気持ち良いんだよ」わたしはにっこり笑って答えました。














 

 





 



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