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おもいで  作者: 雨の音
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【1】私の育った町

みいちゃんばあちゃんは、家の近くに住んでた。

もうおばあさんなのに、背が高くて、声が大きくて、顔が恐かった。


みいちゃんばあちゃんが有名だったのは、その男勝りのルックスのせいだけではない。

彼女の一番の特徴は、とにかく誰にでも話しかける、そのフレンドリーな性格ゆえだったかもしれない。


私が生まれ育ったのは、福岡県の筑豊地方で、昔は石炭産業で栄えたところだ。

私の家は、いわゆる炭鉱住宅の中にある、駐在所だった。


炭鉱住宅といっても、すでにその頃には、炭鉱は閉山となっていて、そこに住んでる人たちは失業者ばかりだった。


長屋作りの炭鉱住宅街は、小さな子供にとってはそこを通るのも恐ろしいような、空気が漂っていた。


一升瓶を振り回す酔っ払いや、すててこ一枚で通りすがりの人にたんを吐きかけるようなじいさん、喧嘩っ早くすぐに日本刀を持ち出すと評判のじいさんなど、会いたくもないような人が、一日中仕事もせずにぶらぶらとしてるのだ。


その町には、八百屋と魚屋が並んで建っていた。

八百屋は竹野商店と言って、入り口は狭いが中は洞窟のように広く暗い、そして店の一番奥にはちょっとした飲食スペースがあり、タコヤキなんかが食べれたりする時期もあった。

その飲食スペースの方が裏口になっており、広い道路に面していた。

野菜はもちろんパンやお菓子、ソーセージにチーズ、ちょっとした文房具などなんでもおいてある、雑貨屋のようなお店で、時にはくさりかけのシュークリームなんかも並んでいた。


町の人たちは、買い物の全てをその八百屋と魚屋で済ませるより他に方法がなかった。


私は小さい頃、母の買い物によくくっついていったものだ。

母は、農家の出身だったので、竹野商店の野菜がいつだって気に入らない様子だった。

あれこれ見ては、なんだかぐちぐち言って、さっさと買い物するようなことはなかった。

ちょっと負けろとか、なんかをつけろとか、そんな事ばかり言ってた。


竹野商店には、背中の曲がった意地悪そうな魔女のようなおばあさんか、その孫でやたらとあいその悪いかっちゃんという青年しかいなかった。

おばあさんがいても、かっちゃんがいても、お店の空気は何も変わらず、いつもよどんでいた。


十何年も後になって、かっちゃんが実は中学高校と野球部で活躍した名選手だったと聞いても、あの人のどこにそんな覇気があったのかととても信じられないような気がしたものだ。


そのさらに十数年後、かっちゃんは自分より15も年上の人妻と駆け落ちしてしまい、竹野商店もなくなってしまうのだが、いずれにしても、私が子供の頃のかっちゃんには恋人などいなかったと思う。


かっちゃんはいつも退屈そうに、ただ店の片隅に座っていただけだ。




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