第四話:背中を追い越されて
第四話:背中を追い越されて
春から中二になる弟、耕介。私とは二歳違いの、かわいい弟だ。
ついこの間まで、私と耕介の目線は同じくらいだった。中学校に入学した頃の私が、耕介の成長に気づいたのは本当に些細な瞬間だった。
「えっちゃん」
いつの間にか、彼は私のことをそう呼ぶようになった。昔はあんなに無邪気に「お姉ちゃん」と纏わりついていたのに、お父さんの真似をしているのか、あるいは彼なりの「背伸び」なのか。両親の呼び方も、いつの間にか「パパ・ママ」から「お父さん・お母さん」に変わった。
久しぶりに並んで歩いたとき、私は思わず足をとめた。
いつの間に、こんなに大きくなったんだろう。今の私は、耕介の顔を見るために、はっきりと首を上に向けなければならない。お父さんと二人で並んでいるのを見ても、もう私がかつて見ていた「小さな弟」の面影は薄く、一人の男としての輪郭がそこに現れていた。
客観的に見れば、もう彼は立派な少年だ。
それなのに、私の目には相変わらず「かわいい」としか映らない。なぜだろう。
多分、それは長い年月をかけて積み上げてきた、私たちだけの記憶のせいだと思う。古語で「愛し」は、胸が締め付けられるような愛おしさを意味するらしい。
愛すべき弟。
どれだけ背が伸びても、呼び方が変わっても、彼の中に残っている幼い頃の面影を私は知っている。その「かつての彼」と「今の彼」が重なるとき、私の胸の奥が少しだけ熱くなる。
高校生になっても、私はきっとこの弟の成長を、少しだけ切ない気持ちで見守り続けるんだろう。




