第八話 祈りは誰のために
夜が、完全に明けた。
森の奥、静寂の中に立ち尽くしていた私たちは、
オルージが消えた場所を、しばらく見つめていた。
エミリーは、声も出せず、ただ地面に座り込んでいる。
誰も、声をかけられなかった。
花は、風に揺れていた。
ツバキの赤は、朝の光の中でも、はっきりとそこにあった。
マリアが、ゆっくりと前に出る。
マリア「……行きましょう」
静かな声だった。
マリア「魔王を、討たなければならない」
その言葉に、反論する者はいなかった。
理由は、もう十分すぎるほど、見せられていた。
町の門をとおり、中心部へ向かう
マリアは止まらなかった。
町の中心部に大勢の警備隊が、集結している。
警備隊がマリアを見ると、隊列がわずかに揺れる。
マリアが歩み出た。
顔を上げ、背筋を伸ばし、
聖女としての姿で。
警備隊長「……マリア様」
膝をつく音が、連鎖する。
空気が変わる。
武装。
整列。
そして――祈り。
マリア「顔を上げてください」
その声は、柔らかい。
けれど、逆らえない重さがあった。
マリア「西に、魔王がいます」
ざわめきが広がる。
マリア「多くの魔族を使い、人を欺き、祈りを歪めた存在です」
マリアは、嘘をつかなかった。
だが、全ても語らなかった。
オルージの名は、出さない。
マリア「私は、あなたたちに“命を捧げろ”とは言いません」
一瞬の間。
マリア「それでも、守りたいものがあるなら――」
マリア「その祈りを、力にしてください」
誰かが、剣を握り直す。
誰かが、盾を構える。
祈りが、武装に変わっていく。
警備隊長「……我々は、グリーフェスの民です」
警備隊長「マリア様グリーフェス神の導きのもと、魔王討伐に向かいます」
マリアは、深く、頭を下げた。
それは、支配者の仕草ではなかった。
責任を引き受ける者の動きだった。
警備隊の装備から、すこし物資の補給をする。
それが終われば、魔王討伐だ。
西へ進むにつれ、空は濁っていく。
魔力の気配が、肌を刺す。
リグレッド「……来るぞ」
魔族が、現れる。
十体。
五十体。
百体。
大量の魔族が姿をあらわす。
警備隊が前に出る。
剣と盾がぶつかり、叫び声が上がる。
生徒たちも動く。
エミリーの能力で、魔族の動きを鈍らせる。
ルーティルが魔法を飛ばし、
レアンスが防御に入る。
私は、ただ必死に、戦況を見ていた。
警備隊長「……我々は、ここを引き受けます。マリア様、どうか魔王を」
マリア「えぇ、ありがとう」
生徒たちは、協会ともいえる祈りの場所へ入っていった。
歪んだ玉座。
黒く脈打つ、開花の種。
魔人、いや魔王の姿が、見えた。
魔王「予想通りだな、やはりあいつは狸か」
魔王の声は、嘲るようだった。
魔王「貴様らは開花の種で何を求める」
魔王はそばにある槍を手に取る。
マリアは、一歩前に出る。
マリア「祈りは、もう十分。ここからは、神罰の時間です」
魔王「お前が神を語るか」
魔王が槍を構える。
作戦はこうだ。
隙ができたとき、一気に攻撃をして魔王をしとめる。
それ以外は守りに入る。
魔人は魔力がある限り回復し続ける。
なら、その回復を攻撃で上回ればいい。
そして、戦いが今、始まった。
魔王は、槍を握りしめ斬撃のようなものを飛ばす。
私の頬のをかすめる。
どうやら、誘われているようだ。
後ろから、リグレッドが飛び打す。
一番隊は、リグレッドだ。
魔王の胸元に斧を振り上げる。
辺りに血が飛ぶが、魔王の傷は治っていた。
硬くない。
嬉しい誤算だった。
オルージのように硬さと俊敏さを持っていたら作戦に支障が出ていた。
魔王は油断している。
セオン「油断とは、面白い。」
ウェル「隙を狙うしかないですね。」
セオンの刀は魔王の体を貫く。
ウェルの剣ははじかれる。
一定以上の硬さはある。
すぐに作戦を変更させる。
魔王は魔力で作った鎧を備えている。
それは斬撃には強いが、刺突には弱いようだ。
庭師「リグレッド、セオン、エマは魔王に攻撃!!それ以外は、防御に徹しろ!!」
エマがレイピアを持ち、魔王の心臓の位置に突き刺す。
魔王は多少はふらつく。
魔人と言えど、人間と構造は変わらないようだ。
魔王の傷はすぐに治る、魔力を集め、鎧も修復されていく。
その時、魔王の後ろから赤いものが三つほど飛んでくる。
鎖だ。
高速なうえ、先端はとがっており、返しがついている。
当たれば体を貫通されバラバラにされるだろう。
すべて私に飛んでくる。
だが、好都合。
全て飛んでくるとわかれば、対処は可能。
庭師「魔法組!!発射!!」
早さのせいもあるだろう。
一人、いや二人の魔法は外れる。
だが、魔法同士がぶつかり合い消滅する。
二つの鎖は撃ち落とせた。
残り一つ。
レアンス「うおおおおおああああ!!」
レアンスが私の前に立ち、盾を構える。
うまく角度をつけたおかげだろう。
盾で受け流し、鎖は後方へ飛んでいく。
レアンスは腕がしびれたのか、苦悶の表情を浮かべる。
その隙を狙い撃つように、
リグレッド、セオン、エマは魔王に狙いをつける。
それぞれは人間の急所を的確に貫く。
普通の魔族、いや魔人でも倒せただろう。
そんな攻撃をしても、死ななかった。
硬さ、それ以上に耐久性があった。
庭師「...プランBだ。」
プランB
...一撃で倒せないところは許容範囲内だ。
結局のところ、持久戦になってしまうが
魔人の魔力が切れるまで戦い続ける。
これが唯一の勝ち筋だろう。
傷をつけようが、燃やそうが、魔力で回復される。
勝機はないが、ここまで来たんだ。
負けるわけにはいかない。
二時間...いやしっかり数えていたわけではない。
だいたいその程度たったはずだ。
リグレッドの斧、セオンの刀、エマのレイピアは何度も魔王を貫いている。
レアンスの盾は攻撃を防ぎすぎて、ボロボロになっている。
次、攻撃を当たってしまえば砕けるだろう。
だが、魔王の魔力が切れない。
何か間違えているのか?
魔人の性質が関係してるのか?
私だけ狙う理由は?
まるで、魔力が無限にあることが分かっているような...
結論を高速で出す。
庭師「...開花の種だ、」
レアンス「庭師様?どうされましたか?」
庭師「魔王は、開花の種から魔力を補給している。」
レアンス「...この状況から、開花の種を取ると」
...無謀に近かった。
もし、これが本当なら開花の種に近づいた瞬間
攻撃対象は変わるだろう。
エミリー「私が、やります」
庭師「え?」
エミリー「私は、このために今日を生きてきたのかもしれません。」
エミリー「おかしくなったのではありません。今、なぜか力が湧いてくるのです。」
エミリーの目は、私を見る。
エミリーの背中には、オルージが見えた。
瞬きをすると、消えている。
庭師「オルージが、君の翼となっているなら...」
庭師「隙はつくる、たのんだ」
エミリー「任せてください」
庭師「生徒たち、一瞬だけでいい、一瞬だけ隙を作るんだ!!」
私は、レアンスのそばを離れ、全速力で教会の外に向かう。
魔王「何を考えているのか知らんが、乗ってやろう」
魔王の赤い鎖は、六本に増え、私の方に向かってくる。
レアンス「まったく、無茶をする。」
レアンスの盾が宙を舞う。
一つ、盾は粉々になるが、鎖は壁へ向かう。
ルーティル「私の魔法をとくと見よ!!」
ルーティルの炎は、鎖に当たり、二つ目の鎖ともども爆散する。
カイ「合わせますよ!!」
マリア「ええ、分かってるわ」
カイとマリアは、魔法を使い、三つ目の鎖に当てようとするが
カイの魔法は三つ目の鎖と僅差ですれ違う。
メロディア「当たる気しないよぉ」
ルナ「ここで終わったら、悲しいからね」
メロディアとルナも、魔法を使い、四つ目の鎖に当てる。
軌道がずれ、壁に激突し、また一つ減る。
私に向かってきたのは、三つの鎖。
想定より多いが、よけきれるか?
一つ目の鎖、私は体をねじり、避けきる。
二つ目の鎖が体をねじったほうに飛んでくる。
これでは避けれない。
覚悟をきめる、
次の瞬間、鎖同士がぶつかり、はじける。
カイが鎖を撃ち落とせなかったことで、軌道がずれ、互いにぶつかった。
運が良かった、ほんとに運がいい。
腰が抜けそうになる。
魔王は死んでいない。
ここで倒れてはいけない。
その意識で持ちこたえる。
魔王の魔法の発動を狙って、三人が動き出す。
三人が力を合わせて、攻撃をする。
いや、リグレッドに合わせているのだが、これは大きな成長だろう。
だが、タイミングが合っていない。
互いに攻撃を躊躇し、弱い攻撃となる。
それでも、魔王をよろめかすくらいにはなったようだ。
エミリー「いまだああああ!!」
魔王「まてええええ!!」
魔王が止めようとするが動かない
エミリーの能力で遅くなっている
エミリーが開花の種に触ると、魔王の魔力は急激に衰えていった
魔王「まだだぁ、最後の力で、貴様らをぉぉ」
言い終わる前にリグレッドは魔王にとどめを刺していた
日が協会の窓から差し込む
魔王は、塵となった。
耳を澄ませると、戦場からの音が少ない
魔族も残り少ないようだ。
長い長い祈りも終わりを告げた、
はずだった
私は、協会にいない
それどころか、地面に足がつかない
空中に飛ばされていた




