第六話 聖女
マリアの姿が、ない。
胸の奥が、ひくりと嫌な動きをした。
庭師「……マリア?」
返事はない。
外に出る。
日の光が当たりを照らす。
耳を澄ますと、水の音が聞こえる。
目を凝らすと、足跡が見える。
建物の裏手、小さな水路。
そこに、マリアはいた。
膝をつき、何度も、吐いている。
庭師「だ、大丈夫!?」
庭師は駆け寄る。
マリアは、肩で息をしながら、手で制した。
マリア「...大丈夫、二日酔いだから」
顔は笑っているが、声が震えている。
庭師「こんな時に冗談はよせ、」
マリアはここに来てからお酒を飲んでいない。
マリア「だいじょうぶ。慣れてるの」
慣れている、という言葉が、胸に刺さる。
マリア「私はね、この町では聖女なの。何もかも完璧で清純で美しくないといけない。それが祈るものたちを安心させるから」
私は何も言えなかった。
マリア「鳥かごの中の鳥は、飼い主を楽しませる。いや、鳥はかごに気づかない、かな。そのほうが幸せかもね。」
私は何も言えなかった。
マリア「私の幸せは神が決める。」
私は何も言えなかった。
マリアの目に光はなかった。
マリアは、私を見る。
マリア「ここに、長くいちゃだめ。今日の夜にでも出よう。」
私は頷くことしかできなかった。
ひんやりとした空気が、私に絡みついてた。
戻ると、生徒たちが、こちらを見た。
セオンは、腕を組んでいる。
セオン「今日の夜にでも脱出するべきだろう。夜は監視が緩む」
リグレッド「俺の腕も回復したしな。こんなところ、おさらばだ。」
ウェルは、不安そうに笑う。
カイ「でも……危なくないか?」
ルーティル「危なくない場所なんて、最初からないよ」
ルーティルが、軽く言う。
そのとき、後ろから声がした
エミリー「私もつれて行ってくれませんか?」
一瞬の沈黙が流れる
リグレッド「足手まといはいらねぇ」
リグレッドは睨みつけながら言う。
お前がいうな、そんなことは言えなかった。
エミリー「戦力としてなら、十分なはずです。戦闘のお手伝いくらいやらせてください!!」
セオン「戦力が大いに越したことはない、私は賛成だ。」
ルーティル「私もさんせーい。エミリーかわいいもん」
レアンス「秘匿情報が漏れる可能性がある。反対だ」
エミリー「お願いします!!庭師さん!!」
私は、悩んだ
生徒たちを管理できていないのに、これ以上増やしても混乱するだけ。
そう思う。
置いていく。
それが普通なのだ。
マリア「連れて行きましょう」
マリアは笑顔で、話を続ける
マリア「尽くしたい少女を連れて行かないのは、神罰が当たります」
リグレッド「またそれかよ」
庭師「分かった、つれていく」
リグレッド「...勝手にしろ」
これ以上マリアに聖女をさせるのは見てられなかった。
すっかり暗くなり、祭司も眠りについたころ、私たちは動き出した。
レアンスの地図を頼りに、西の森へ向かっていった。
魔王の戦力がどれくらいかわからないため、今日は偵察の予定だ。
時々、巡回中の警備隊に当たるも
エミリーの遅くする能力によって、攻撃をすることも、守ることも容易だった。
それに加えて、剣の技法もある。
祭司が心配するのがおかしいくらいには、強かった。
ルーティル「さっすがエミリーちゃん!!もう生徒になろうよー」
エミリー「あっありがとうございます」
生徒たちはエミリーを徐々に迎え入れつつあった。
これが開花済みの才能。
恐ろしくもあり、期待してしまう。
レアンス「部外者を入れたときはどうなることかと思いましたが、さすが庭師様ですね」
庭師「私は何もしてないけどね」
カイ「みなさん、気を付けてください!!」
その声で全員が動きを止める。
カイ「この町に入って最大の危機察知です」
リグレッド「あぁん?魔王の近くに来てるからじゃねぇの?」
遠くから枝の折れる音がする。
それはどんどん近づいてくる、
最終的には茂みから音が鳴り、全員が戦闘態勢に入る。
祭司「すいません、私です」
なぜここに?
一番最初に考えたのはそれだ。
寝ていた祭司がここにこれた理由、
考えている間も、祭司は話し続ける
祭司「これを」
祭司は、じゃらじゃらと音が鳴る袋をもって地面に置く
祭司「このお金があれば、他の町でも数か月は生活できます。このお金とエミリーを交換してほしいのです」
エミリーを...条件に
ルーティル「いやだよ、エミリーはもう私たちの物だから」
ルーティルは鋭く言う
エミリー「お、お父さん、」
祭司「エミリー、戻ってきなさい。迷惑はかけてはいけません」
セオン「ふむ、迷惑どころか感謝したいところだ。」
エミリー「わ、私、この人たちについていきたい!!」
その声が森に響く
祭司「...そうか、ならしかたない」
あたりは冷たくなり、しびれるような悪寒が体を駆け巡る
気づいたときには、祭司は剣を持っていた。
話し合いの雰囲気ではなくなっていた。
夜は、完全に——戦いの色を帯びた。




