第二話 走り出した理由
車内は、静かだった。
私は、一番後ろの席に座らされた。
両隣は空いている。
——管理役。
先ほどの子供たちのことを指しているのだろうか。
考えをまとめている最中、
前方で、学校職員が立ち上がった。
学校職員「では、移動中に目的を説明します」
淡々とした声。
この人にとって、これは“業務”なのだろう。
そんな感じがする。
学校職員「今回の遠征の目的は、《開花の種》の回収です」
"生徒"と呼ばれる人物たちの空気が、わずかに動いた。
学校職員「開花の種は、多大なるエネルギーをもつ物質です、それに加えーー」
一拍、間が置かれる。
学校職員「願いを一つ、かなえる力を持ちます」
車内が、完全に静まった。
私は、その単語を反芻する。
——願い。
私は、何を願うのだろう。
考えようとして、やめた。
それ以上に今は処理したい情報が多すぎる。
学校職員「今回の遠征では、十個の開花の種を目標とします。危険区域に入ることもあるため、各自、協力行動を義務とします」
義務。
その言葉に、誰かが小さく舌打ちした。
学校職員「庭師さん」
職員が、こちらを見る。
学校職員「あなたの役割は、生徒の状態管理と、種の保全です。戦闘行為は想定していません」
——戦えない、と言われている気がした。
私は、小さく頷く。
このかた戦闘訓練なんてしたこともなかったし、ちょうどよいのかもしれない。
???「おい、教師」
目つきの悪い少年が、声を荒げた。
学校職員「なんだ」
???「こんな無能をわざわざ連れていかなくてもいいだろ、俺一人で十分だ」
無能、その言葉が心に突き刺さる。
そこまでいわなくてもいいのではないか。
学校職員「理由はいずれ分かる、そう急ぐな」
私に何かあるのだろうか、そんな疑問が浮かぶ。
その一言で、何人かの生徒は横目で私を見ていた。
学校職員「では、予定通り番号順で自己紹介をしろ」
職員から、生徒の情報が書かれた用紙を渡された。
最初に声を出したのは、おどおどしている少女だった
メロディア「私、メロディア。えっと……お願い、します。」
メロディア・ノロジー
身長は152cm
淡い銀がかった金髪を肩下まで伸ばし
そして、魔法を使うらしい
魔法、普段の町で使われているくらいには普及されている術。
魔力というものを使って発動する。
そんなことを思い出す。
それより気になったのはぎこちなく笑う彼女の態度だ。
私を怖がっているのだろうか。
声も、少しだけ震えていた。
考えがまとまる前に、すぐ前の席の少年が続く。
レアンス「レアンスです。教師の命令ですから従いますが、論理的な指示をお願いします」
レアンス・クアレブル
身長は170cm
髪は茶髪(橙に近いだろうか)で七三分け
大きな盾を持っている
大事になったら、守ってくれるだろう。
マリア「硬すぎでしょ、」
白い髪の少女が、だるそうに手を振る。
マリア「マリアでーす。好きなものはお酒でーす。」
マリア
...?
マリアしか書かれていない。
普通はなにかしらの姓をもっているはずだが、
今はそんなことを考えていては脳がパンクする。
置いておこう...
身長は165cm
腰までの長い白髪が目立つ
この子も魔法を使うようだ。
私を見ると、にやりと笑う。
酒の匂いが強い。
だが、好意的に接してくれた人の一人だ。
仲良くするしか道はないだろう。
ウェル「僕はウェルです。」
明るい声。
ウェル「庭師さん、よろしくお願いしますね。」
ウェル・エドモンド
身長188cm
黒色の短めな髪
酒気もない。
やっと話せそうな生徒が出てきた。
胸の奥が、ほんの少しだけ軽くなる。
だが、刃が潰れた剣をもっている。
あの筋肉質な体から放たれる一撃は、刃が潰れていても意味はないだろう。
すこし体が強張る。
基本情報の下にもう一つ枠がある。
「能力」と書いてあるようだ。
能力:コピーする能力
能力というのは私の知らない単語だ。
ただ文面から察するに、特異性のある力のことだろう。
この子は、相手の姿以外を全てコピーできるらしい
日記帳にメモをしようとする。
だが、「生徒」と呼ばれる人たちはそれを許してくれないようだった。
自己紹介は続く。
ルーティル「ルーティルでーす。庭師だからー、にわっちって呼ぶね!!にわっち、よろしく!」
ルーティル・コミメット
身長160cm
レッドブラウンの赤に近い髪色をしていた。
髪型はポニーテールだろうか。
先ほどの少女だ。
元気があふりきれんばかりか、ずっとしゃべっている。
彼女も魔法を使うらしい。
リグレッド「……リグレッド、仲良くはしねぇ。」
こちらを見ずに言う。
リグレッド...
こちらも姓はない。
身長は178cm
くすんだ灰色で切りそろえていない乱雑な髪だ。
斧を持っている。
私に対しての敵意は、隠していない。
正直、一番怖い。
エマ「……エマ。」
エマ・フォース
身長155cm
淡い灰青色のボブだ。
右手にはレイピアだろうか。
そんなものをもっている。
それ以降は何もしゃべらなかった。
セオン「セオンです。これからよろしくお願いいたす、庭師殿」
真面目枠二人目。
セオン・ホルテニア
身長は172cm
紺色のポニーテールをしている少年。
腰には刀の鞘が見える。
絶賛されるほど、頭がいいらしい。
頼もしい人物だ。
ルナ「ルナです。できることはきちんとします。」
ルナ・アフラ
身長は158cm
暗めの銀髪で肩までウェーブさせている。
魔法を使うようだ。
だが、気になったのは、
笑っているが、目の中に光がない。
これも直感になってしまう。
貼り付けたような笑顔になんと返せばいいかわからなかった。
最後に、少し離れた席から。
カイ「……カイです」
視線は合わない。
というか合わせる気はないようだ。
前をずっと見ている。
カイ・カワクラ
身長は158cm
黒色でラフな髪型だった。
魔法も使うが、この少年も能力がある。
能力:危機察知
危険が迫るほど、頭痛がすると書いてある。
能力のせいで頭痛がするなんてかわいそうだ。
カイ「よろしく、庭師さん」
どんな時でもこっちを向くことはなかった。
全員が名乗り終え、
車内には静かになる者も、しゃべる者も、お酒を飲むものもいた。
覚えきれない十人の生徒。
十通りの距離。
私は、日記帳に手を伸ばす。
花のための日記帳に、初めて人の名が刻まれた。
驚いたのは、バスが止まるまであと数分だったことだ。




