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第一話 咲かない芽

街はずれに、庭がある。


宗教施設の尖塔も、企業の本部も見えない場所。

舗道は途中で途切れ、代わりに湿った土の匂いが強くなる。


そこで土に触れている人物がいる。


深い灰緑の髪が、風に揺れる。

手袋はしていないようだ。

その代わり、顔を覆い隠すほどの仮面をしていた。

この庭では、それを咎める者はいなかった。


...花の名前は覚えていない。


咲くと信じて待つ。

それだけでいい。


この庭の花は、ほとんど咲いていない。


それでも庭師は、水をやる。

土をならし、枯れた葉を取り除く。


日記をつける。

何が咲かなかったか。

何が枯れずに残ったか。

それだけを書くための、薄い紙の束。


——今日も、また何も変わらない。


そう思った、そのときだった。


足音が、重なって聞こえた。


一人ではない。

複数。

ばらばらなリズム。


振り返ると、庭の端に人影があった。


驚きはしたが、慌てるほどではなかった。


十人ほど。

年齢も、背丈も、雰囲気も違う。

共通しているのは、同じ制服を着ていることだけ。


誰だろう。


そう思うより先に、背後から声がした。


???「……ここが、集合場所だ」


声には温度がない。

怒っても、優しくもない。

スーツ姿の学校職員だった。

あまり覚えていないが、彼らの服を見たことがある。

確か、同じような服を着た人物からここを管理するよう言われて...


いやでも、たまに様子を見にくるくらいだったはずだ。

そんなことを考える。


学校職員「庭師さん、到着を確認しました。開花の種探索遠征。あなたには管理役として同行していただきます」


開花の種。

遠征。

管理役。

何のことか、よくわからない。


私は、ゆっくり頷いた。

今は従ったほうがいい、そんな圧を彼から感じた。


生徒たちは、私を見ようとしなかった。


視線を合わそうとすると、逸らされる。

最初から、いないもののように扱われる。


その中で、一人だけ。

まっすぐこちらへ歩いてくる影があった。


赤みの強いレッドブラウンの髪。

制服の着こなしは完璧。

年齢は18歳くらいだろうか。


???A「あなたが……庭師?ですか?」


張りのある声で、急に顔を近づけられる。

私は、驚きのあまり小さく頷くことしかできなかった。


少女は、ほっとしたように、でも少しだけ困ったように息を吐く。


???A「……よかった、危ない人かと思ったよー」


???B「……ぷふっ」


背後から、吹き出す声。


???B「やばいヤツかと思ってたのに、仮面をつけてるだけで普通じゃん」


酒瓶を飲んでいる少女だ。

こちらを値踏みするように見て、興味を失ったように背を向けて言う。


???B「じゃ、行こ。立ってるのもだるいし」


それを合図にしたかのように、生徒たちが動き出す。


おびえる者。

無言で歩く者。

苛立ったように地面を蹴る者。


???A「ね、ね!みんな待ってるからさ、早く来よ!」


私は、返事ができなかった。


学校職員「詳しくは、バス内で説明します」


職員が言う。


学校職員「移動中、体調に問題があればすぐ申告してください」


その言葉に、生徒の誰かが小さく笑った。


私は、庭を振り返る。


咲かない花。

踏み荒らされていない土。


——まだ、戻れるだろうか。


答えが出る前に、硬い金属音がする。

扉が閉まったようだ。


エンジン音が響き、

乗り物は、静かに走り出す。


私は、日記を胸に抱いたまま、前を向く。


そして、遠征の中身を知らされる。

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