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やさしい不登校  作者: ゆずさくら


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9/14

休む男

 白鳥(しらとり)PTA会長への報告後、数日が経っていた。

 万慈(まんじ)は教室で授業を受けていた。

 教科担任が、一通り板書を終えると、生徒の方に向き直った。

「さあ、順番に当てていくぞ」

 先生は座っている席をぼんやり眺めながら、言う。

「まず最初の問題は…… 綿貫(わたぬき)

「先生、綿貫は長期欠席中なんです」

 真壁(まかべ)が立ち上がってそう言うと、先生はそのまま真壁を指名した。

 残りの二つについては、出席簿を見ながら休んでいない生徒を当てていく。

 万慈は思った。

 綿貫は先生から名前を覚えられていたのだ。

 大抵の教科でいい成績を取っているのだろう。

 そんな生徒が、この時期に長期欠席をしていたら、成績はどうなる?

 ふと、疑問に思った。

 だが、高校の成績は絶対評価だ。

 試験さえ出来れば試験の結果に従った成績がつく。

 受験であれば共通試験や本試験さえしっかり出来れば良いわけだから、学校の成績は別に関係ないのかもしれない。

 だが、欠席して綿貫は何をしている? 受験勉強?

 万慈は疑問が浮かんだ。

 授業が終わると、彼は急いで帰り支度をした。

「どうしたの万慈」

宮藤(くどう)ちゃん、悪い。今日も俺抜きで帰ってくれ」

 そういうと、万慈は教室を出て行ってしまった。

 万慈は、ある人物に狙いをつけていた。

 それは真壁だった。

 プライバシーの問題で、生徒同士でも家の住所は分からない。

 だから彼の家に行くために、跡をつけることにしたのだ。

 一定の距離を保ちながら、真壁の後をつけて歩いていく。

 急坂の先にあるのが彼の家のようで、途中、万慈は酷く息が切れてしまい、尾行がバレるかと焦った。

 真壁が家に入ってしばらく万慈は家を遠巻きに眺めていた。

 すると、真壁が制服のまま家から出てきた。

「予想通りだ」

 万慈はこの彼の行動を予測していた。

 さらに真壁の尾行を続けると、少し坂を下りたあたりの角を曲がった。

 犬が吠える家の隣の家に立つと、彼はスマホで連絡をした。

 玄関から出てきたのは、綿貫(わたぬき)だった。

「元気そうじゃないか」

「まあ、体調が欠席理由じゃないからな」

「色々、提出する用紙があるから、持ってきたぞ」

 真壁がそう言うと、綿貫はドアを開けたまま彼を迎え入れた。

 笑い合いながら家の中に入っていく。

 警戒心はないようだ、と万慈は思った。

 そして彼は綿貫の家に近づいた。

 庭越しに窓から部屋の中を見ると、綿貫が真壁にマグカップを出していた。

 奥にある丸いサーバーから判断して、おそらくコーヒーだろう。

 二人はテーブルに向かい合って座り、参考書を開いて勉強を始めた。

「……」

 外に声は聞こえてこなかったが、大まかな様子から二人が受験のための勉強を進めているとわかった。

 綿貫が学校を休んでいる理由は何なのか。

 万慈の興味はそこに絞られていった。

 やがて周囲が暗くなり、部屋に明かりがついた。

 時計を指差すと、真壁が立ち上がった。

 その時には万慈は、綿貫の家からは距離を取っていた。

「じゃあな」

「暗いから気をつけて」

 真壁は手を振ると、帰っていった。

 真壁の姿を確認すると、万慈はインターホンのボタンを押した。

 当然だが、家からは綿貫が出てくる。

「えっと、鈴木?」

「綿貫、ちょっと聞きたいことがあって」

「あっ、入れよ」

 戸惑いながらも綿貫は万慈を家に招き入れた。

 さっき真壁が座っていた席に万慈は座る。

「コーヒー飲むだろ? 砂糖とかミルクとかは?」

「砂糖だけもらえるかな」

 コーヒーの入ったカップと、角砂糖が入った瓶が出てきた。

「早速だけど聞きたいことって?」

「ズバリ、綿貫(きみ)が休んでいる理由だよ」

「プライバシーに関わることだから」

 万慈は想定通りの回答を聞き、すぐに切り返した。

「はっきり言おう。休んでいる本当の理由を知りたいわけじゃない。いじめに由来するものなのか、そこを調査しているのさ」

「理由ははっきり言えないですが、いじめが理由で学校に行かないわけじゃない」

「本人が言ったから『はいそうですか』という訳にもいかない」

 万慈はコーヒーを口に含んでから、

「中学の時は……」

「言うな」

 強い口調だった。

「それこそ関係ない。今は中学の自分じゃないんだ」

 万慈はやっぱり何かあると考えた。

「だが何十年も昔の話じゃない、そんなに簡単に人は買われないし、高校に入ったからって人間関係がリセットされるわけでもないだろう」

「結局、そこか。君が聞きたいのは、中学の時のことなんだ」

 万慈は頷いた。

 綿貫は一度背もたれに体を預け、しばらく黙っていた。

 だが、体を起こしてくると口を開いた。

「……わかった、話そう」




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