先々週の月曜日
放課後、鈴木万慈と宮藤静香が教室で帰り支度をしていた。
そこに花村美子がやってきた。
「二人とも、まだ教室にいたのね。じゃあ、そこまで一緒に帰らない?」
三人は話しながら教室を出て、校舎に沿ってしばらく歩いていた。
校庭では様々なスポーツの部活が練習をしている。
突然、万慈が足を止めて、校庭を見渡す。
「なんか犯罪の匂いでも?」
「イヤ、そうじゃない」
「あっ、テニス部の園部さん? そのスタイルと美貌で男子垂涎必至とか言われてるのよね」
宮藤が言う。
「いやらしい気持ちでスポーツをみちゃダメよ!」
「違う違う。うちのクリケット部ってどこで練習してるの? すごい強いって聞いたんだよね?」
宮藤は首を捻る。
「クリケット部は……」
万慈と宮藤は、花村に顔を向ける。
「うんと…… 確か、別のグランドだよ。うちの高校のクリケット部で国の競技人口の3%を占めてるって計算した人がいた」
「よっちゃん、真面目に言ってる?」
「見に行こうか」
万慈は、そう言うと、花村は慌てて誰かにLINKアプリでメッセージを入れた。
花村がマップを見ながら指示するまま、二人は後からついて行く。
一気に視界が開けたと思うと、大きな芝のグランドがあった。
運動着をきた生徒が大勢グランドで動き回っている。
花村がスマホを見ながら言った。
「今、ちょうど試合してるらしいよ」
「このスポーツは、あの卒塔婆のようなもので殴り合うのか?」
「そんなわけないじゃない。野球みたいな感じよ」
万慈たちはしばらく、クリケットの試合を見ていた。
宮藤が万慈に言った。
「誰かに解説してもらわないと、何がなんだかわからないね」
「そうだな。うん。帰ろうか」
花村が少しキレ気味に言う。
「何よそれ、万慈くんのために連れてきたのに。何か調査に関わることじゃないの?」
「守秘義務」
「まあ、けど、クリケット部が関係していると言うことよね」
三人は元の道に戻るまで、一緒に歩いた。
花村の家は方向が違うので分かれた。
二人になってさらにしばらく歩いた後、万慈が言った。
「先々週の月曜日って、何か思い出さない?」
「それってさっきのクリケットと関係ある?」
「ごめん。クリケットは置いといて。月曜日、うちのクラスの生徒が職員室に行く必要があるような出来事があった?」
宮藤は顎に指を当てて、首を右へ、左へと傾げた。
それぞれの家が見えてくると、宮藤は思い出した。
「放課後の出来事なら、進路指導の初日じゃない?」
「……それだ」
宮藤はさらに訊ねようとして、『守秘義務』と返されるのがオチだ、と気づいた。
黙っていると、万慈が笑った。
「宮藤ちゃん『何を調べているの?』って聞かないのか?」
宮藤は、万慈の顔を覗き込んだ。
しばらく考えた後、口を開いた。
「何調べてるの?」
「守秘義務があるから言えない」
「何よ、最初からそう答えるつもりだったんじゃない!」
万慈は笑った。
「ごめんごめん、からかいたくなっちゃって」
「もう!」
「ところで、初日に面接を受けたのって」
宮藤は何かカバンから紙を取り出した。
「ここに日程表があるでしょ」
万慈はそのリストに載っている名前を見た。
昼休み、一年生のクラスに聞き込みして確認した人物の名前がそこにあった。
「なるほどね。ちょっとこの紙、預かってもいい?」
「万慈も持っているはずなんだよ? けど、もう面接期間終わっちゃったから、あげるよ」
「ありがとう」
紙を受け取ると、万慈は自分の家へと歩いて行った。




