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やさしい不登校  作者: ゆずさくら


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3/11

調査開始

 翌日。

 鈴木(すずき)万慈(まんじ)は、教室につくなり、キョロキョロと周りを見回していた。

 まるで落ち着きがない。挙動不審という状態だった。

 彼はクラス内で変人と呼ばれていたが、こんな落ち着きがない人間ではなかった。

 宮藤(くどう)は考えた。

 これは昨日の出来事に関係しているに違いない。

 白鳥(しらとり)(れい)の母、元キー局のアナウンサーでPTA会長。

 突然やってきた彼女が、万慈に言ったのだ。

『探偵として依頼したいことがあるのだけど』

 万慈は動き回っているが、全て無駄な動きに見えた。

 宮藤は声をかける。

「万慈、何を嗅ぎ回っているのか知らないけど落ち着きなさいよ」

「しゅ、守秘義務があるから、依頼内容は話せない」

「誰もそんなこと聞いてないわよ」

 宮藤は万慈を落ち着かせようと、腕を取って動きを止めた。

 万慈の動きがピッタリと止まって、宮藤の顔を見つめた。

 宮藤の頬は、自然と熱くなる。

「……な、何よ」

「誰か欠席していないか?」

「なんでそんなこと聞いてくるの」

 万慈の視線が泳いだ。

 宮藤は彼が何か隠していると感じた。

「イヤ、違うぞ。依頼とは関係ない」

「ウソ」

 万慈は黙り込んだ。

 宮藤は流石にやりすぎたか、と考えた。

「欠席かどうかは、皆んなが着席して出欠をとった時に確認すれば? 今誰がきているかどうか確かめるのは大変だよ」

「そ、そうだよな。そんな簡単なことに気づかないとは……」

 万慈の様子から、彼が相当なプレッシャーを感じていると宮藤は思った。

 今までのようにただ趣味で首を突っ込んだようなレベルのものとは違う、大人の事情が絡んだような何か。

「守秘義務で内容は言えないだろうけど、どんな案件なの? 焦りすぎだよ」

「……らしくないって?」

「どう見てもそうだよ」

 万慈は目を閉じて、深く息を吸って、吐いた。

「そうだよな。さすが宮藤ちゃん」

 担任が入ってくると、全員が席に戻り出席をとった。

 欠席は一名。

 綿貫(わたぬき) 澄海(すかい)という男子生徒だった。

 ショートHRが終わると、授業の前に少し時間が空いた。

 万慈は横に座っている宮藤に訊ねる。

「綿貫って、どんなやつだっけ?」

「万慈だって同じクラスでしょ? クラスでは成績トップで例のすんごい大学を目指してるって話だよ。それはクラスのみんなの共通認識だと思ってた」

「そんな大学を目指している奴が同じクラスにいるとは」

 宮藤はため息をつく。

 宮藤の前に座っている花村(はなむら)が二人の会話に入りたそうに後ろを向いてきた。

「そもそも、こんな学校にそんな優秀な生徒が存在するわけないってのは、万慈くんと同じ意見ね。どうやら、中学ん時に心を病んじゃってやっぱり学校に来れなくなったっぽいよ」

「心を病んだ?」

「うーん、そこはどんな感じだったのかまではわからないけど。同じ中学の出身者が言ってたの。成績はもっといいはずなのに、無名崎(ここ)を受けるしかなかったって」

 万慈は頷いた。

 宮藤が言う。

「彼、今日で三日連続休んでることになるわね」

「それくらいだね」

「もしかして彼のこと、なのか……」

 万慈は指を顎に当てて首を傾げた。

 依頼は昨日だから、綿貫が休み始めたのはその前日となる。

 流石に一日休んだことに対して調査を依頼すると言うのは変だ。

「あれは綿貫のことじゃないのか」

「ねぇ、何それ」

「だから守秘義務がだな」

 その時ちょうど一限目の担当教師が入ってきて、彼らの会話は止まった。

 授業が終わり、休憩時間に入ると三人はまた綿貫のことを話し始めた。

「ところで、なんで休んでるんだっけ?

「はっきりしてないわ。病欠って訳じゃないみたい」

「理由がなく休んでいるって訳?」

 宮藤だけでなく、花村も答えに困ったような顔をした。

 そこに一人の男子生徒がやってきた。

「もしかして、綿貫のこと話してるの?」

「えっと……」

 万慈は彼の名前を覚えていなかった。

 言葉に詰まっている万慈の代わりに、花村が言った。

「そうなの、真壁(まかべ)くん。確か綿貫くんと仲良かったよね? なんで休んでるか知らない?」

「ダメだよ、そういう個人情報的なところを探っちゃ」

 万慈は返す。

「心配だからさ。何か病気なのかなとか、今、どうしてるのかな? とか。それくらいなら知ってもいいだろう?」

「……」

 真壁は拳を作って、咳払いするかのように、その拳を口の前に動かした。

「やっぱり個人の問題なんだから、変な詮索をしちゃダメだ」

「真壁は知ってるよね?」

 一瞬、間が空いた。

「知らない」

 そう言った瞬間、二限目の担当教員が入ってきて、その会話は終わってしまった。




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