エピローグ
すっと前。
お前は今も同じ気持ちだったのかもしれない。
だが、当時の俺にとっては違った。
ある言葉の聞き間違えで、俺はクラスの一部の連中から無視されていたからだ。
一部とはいえ、連中がクラスの中で影響力を持っていれば、クラス全体から 無視されているのと同じだ。
だからいつも昼休みになると教室を抜け、一人で弁当を食っていた。
その日もそうしようとして、弁当を抱えて席を立とうとした。
「綿貫」
振り返ると、惟月が立っていた。
「弁当一緒に食おうぜ」
俺は答えずに、惟月の後ろでこっちを睨んで圧力をかけている連中を見た。
俺の視線に気づいて、惟月は言った。
「教室の外で食うんだな? じゃあ、俺もいくよ」
連中が、教室の中で動いた。
俺が教室を出ると、ついて来ようとした惟月を掴んで止めた。
「おい、わかってるだろ?」
「何が?」
「綿貫と一緒に飯を食うな」
俺はいつものように、非常階段に座って弁当を食べていた。
強い雨の日以外、それなりに雨も陽も避けられてちょうどよかった。
半分ほど食べた頃、呼びかけられた。
「ここだったのか。探したよ」
「真壁、どうして来ちゃったんだ」
「一緒に弁当食おうって言っただろ」
当時、俺は惟月を苗字で呼んでいた。
まだ親しくなる前だった。
「一緒にいたら、お前も無視されるぞ」
「大丈夫だよ、綿貫。教室でだって、普通に話せばいい。向こうが勝手に無視してるんだから」
きっかけはこんな事だった。
俺はいじめに慣れていなかったから、あのまま続いたら、どうなるか不安だった。
だが、惟月と一緒にいると、不思議と平気になっていた。
まるで何もないかのように、普通に話し続けていると、やがて一人、また一人、と会話してくれるようになった。
最後は、連中もまるで『いじめ』をしていなかったかのように、普通に接するようになった。
全ては惟月の力だと俺は思った。
本当に俺は、惟月に救われたのだ。
だから、恩返しがしたかった。
ずっとそのことを考えていたのだ。
試験は絶対評価。だから試験が始まる頃に学校に戻ればいい。
全ては、あの面接の後、計画した通りだ。
鈴木、確かに君の言ったことは正しい。
君に見つけてもらったおかげで、認められた気がする。
俺も少し真壁のような人間に近づけたんじゃないか、って。
おしまい
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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