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やさしい不登校  作者: ゆずさくら


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13/14

仕組み

 鈴木(すずき)万慈(まんじ)が教室に入っていくと、一人の視線が彼に向けられた。

 万慈はその視線を見つけた。

 そしてすれ違いざまに声をかけてきた。

「答えを見つけたんだね」

 声の主は、綿貫(わたぬき)だった。

 万慈は返す。

「ああ、そうだよ。だから悪いけど、答え合わせに付き合ってもらう」

「まあ、それは俺の義務になるのかな」

 小さい声で、二人はそんな会話していた。

 教室の中で交わされる声に埋もれて、その会話を聞き取ったものは他にいなかった。

 午後の授業が終わると、クラスの仲間は帰宅したり、部活に出たりして教室からいなくなっていった。

 宮藤(くどう)花村(はなむら)は、万慈とずっと話していたが、彼が事情を説明すると、二人で教室を出ていった。

 教室には、綿貫と鈴木の二人だけになった。

「一応、閉めておこうか」

 扉を閉めて、二人は閉めた扉から一番遠い席に座った。

「じゃあ、聞こうか」

「君がなぜ長期にわたって学校を休んだか。やっとその理由がわかった。あるいみいじめがそうささせたとも言えるが『いじめ』が、この高校で起こったものではないので、クリケット部が出場停止になることはなさそうだ」

 万慈は息継ぎした。

「そもそも俺は、PTA会長から学校内で『いじめ』がないかの調査を任された。その調査の過程で、綿貫と真壁(まかべ)、君たちが事前に『いじめ』の目をつぶしてくれたことを知った」

「君も真壁の優しさを知ったんだね」

「ああ、そうだ。以前聞いたように君は中学の時に真壁に助けられたんだったね。君に話を聞く前、自分で『便所飯』をしてみたけど、実際にいじめられていないと、辛さの実感は湧かなかったよ」

 その話に対して、綿貫は返事をせず、黙って鈴木を見ていた。

「すまない。いじめられていたことなんか、思い出したくもないだろう。君が真壁にどれだけ恩を感じているか、という点を理解するのには重要な事柄だから、少ししつこい感じだけど確認したまでさ」

 万慈は自らがとったメモを見返した。

「そうだ。先に聞いておこう。綿貫と真壁で『白鳥(しらとり)(れい)』を取り合ってる、なんてことはないだろう?」

 綿貫は笑った。

 笑い終わると、言った。

「ないね。彼女は良く勉強を聞きに来るけど、ありえない」

「俺の見立てが違っていなくて安心した」

 万慈は続けて言った。

「君が長期欠席をするきっかけとなった日、君たちは職員室に先生を呼びに行くところだった。そして途中にある一年生の教室で、いじめのような状況を見た。真壁はそれをす早く感じ取って、一年生に話かかけていった」

 綿貫は頷いた。

「良くそんなことを調べたな」

「いじめ、を調べる過程があったからたどり着いたんだ」

 綿貫は視線を逸らした。

「もういいよ」

「自己満かもしれないが、言わせてくれ。二人は、そのクラスの『いじめ』の目を摘んだ。とても良いことだ。そのあと、職員室に先生を呼びにいった。これはその日から始まる進路面接のためだった」

 万慈は誰もいない教室の真ん中を向いて喋っていた。

「面接は真壁(まかべ)から始まった。待機するための教室があって、終わったら真壁が綿貫(きみ)を呼びに来ることになっていた。だが、君は真壁の面接内容を聞いてしまった」

 綿貫も、万慈と同じように誰もいない教室の中心に体を向けていた。

「君の推測だろ」

「推測だよ。だから答え合わせをしているんだ。君と真壁は親しかったから、面接の以前から真壁が『推薦で』希望する大学に進学したいと考えてたことを知っていた。だが、教室から聞こえてきた話で、知ってしまったんだ。真壁の成績が推薦に少し足りないことと、その理由を」

 綿貫は横目で万慈を見た。

 万慈は説明を続けた。

「本来、成績は絶対評価だ。だから、テストの点数などを考えれば真壁の成績は、推薦に足りるものが得られるはずだった。推薦用の成績はこの一学期までだからね。ここが勝負なわけだ。申し訳ないが俺はあるルートを使って先生が面接で話したことを聞いているから、ここを反論しても無駄だよ。真壁の成績が今一歩足りないのは、試験の点数ではなく、授業中の積極性など、どうしても相対評価になってしまう部分だった」

 綿貫は唇をぎゅっと噛み締めた。

「さらに言えば、その授業中の積極性について、真壁の邪魔いているのは綿貫。君であることに気づいてしまったんだ」

「……」

「君はそもそも推薦を利用しようなどとは思っていない。行きたい学校がハイレベルすぎるから、成績が多少下がっても問題ない。君の行きたい大学は、本番の試験が超難しい。成績が影響する度合いが低い訳だ」

 万慈は、黒板の方を見ていった。

「君が欠席している間、いくつか、注目すべきことがあった。先生は『出席簿』を見ずに君の名を呼んだ。先生の問いに答えさせるためだ。判る者はいるか? という問いすらない。こんな調子だから、もし綿貫(きみ)が教室にいたら、真壁はどれだけ努力しても授業で得られるはずの加点を得られない」

 万慈は綿貫の方に視線を向けた。

「君もそのことは十分知っていた。面接の内容を聞いた君は、それら全てを考え、授業から逃げる選択をした。それが、昨日までの『長期欠席』の理由さ」

「……」

「別に、君を非難する訳でも、PTA会長に報告する訳でもない。PTA会長からは『クリケット部のためにいじめの実態を調査しろ』としか言われていないからね。君の長期欠席はクリケット部に何の影響も与えない」

 綿貫は黙ったままだった。

 そして、少しの間、目を閉じた。

 何かを思い出しているように見えた。

 目を開くと言った。

「そう。その通りだ。なんとなく、俺もスッキリした」

 綿貫が出してくる右手に、万慈は応えた。

「こちらこそ」




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