プロローグ
ここは無名崎高等学校という名前の学校だった。無名崎という地名がついたものだが、そういう岬があるわけではなく、海が近いわけでもなかった。
梅雨ということになっていたが、近づく夏を感じさせる暑苦しい日々が続いていた。
二人の学生が、先生を呼びに行くため並んで歩いていた。
いくつかの教室の横を通り過ぎた時、一人が立ち止まった。
「惟月どうした?」
呼ばれた男は、通りかかった教室に入っていく。
「おい、君ら掃除当番なんだろ? 一人だけに掃除をさせておくなよ」
「……」
彼の言葉に従い、掃除をしていなかった三人が動き出す。
惟月が教室を出てくると、廊下を少し進んだ先で立ち止まった。
「えっ? まだなんかあるのか」
彼は、さっき入った教室を覗き込む。
一緒に中を見てみると、やっぱり一人に掃除を押し付け、他の三人は窓の方に体を預けているのが見えた。
惟月は教室の戸口に立つと、言った。
「これから職員室にいくところだったんだ。この教室の担任に『いじめ』ってことで報告しておこうか?」
窓際にいる三人は何も答えずに、惟月を睨んでいるだけだった。
惟月は、俺に向かって言った。
「先生を呼んできて」
教室の三人が声を揃える。
『ごめんなさい』
一人がいう。
「先生に言うのはやめてください」
惟月が言った。
「これは何がきっかけなんだ」
三人が話し始める。
かったるいから、適当に時間だけ待ってやったことにしよう、とした時に、掃除をしている子だけが反対したのだそうだ。だから、彼だけに掃除を押し付けて、残りの三人はサボっていたということだ。
「手伝うから掃除をしてしまおう。これはコツがあるんだ」
そう言うと惟月と俺を含めた六人で、教室の掃除を始めた。
手際よくやるコツなどを説明しながら、効率よく掃除を進めると思ったより早く掃除は終わってしまった。
「もともと彼をいじめていた訳じゃなくてよかったよ。掃除は、ウダウダしているよやったほうが早いから覚えておいてね。じゃ」
惟月と俺は教室を離れ、再び職員室に向かった。
「ありがとう」
「おい、それは逆だろ? 勝手にあの教室掃除を始めたのはこっちなんだから、付き合ってくれたお前に『ありがとう』を言うべき……」
違うんだ。
「お前、泣いてるのか? 変なやつだな」




