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仮想戦闘

■裏世界冒険者ギルド地下室


アニー「で、具体的にどう特訓するんだ?筋力値の特訓方法なら俺に任せてくれても良いんだぜ?」


セフィー「筋力値よりまずは実戦が出来るようにならないと、あと本来のリクの実力も知りたいわ。あなた勇者になる前はどんな特訓をしてたの?」


勇者訓練校時代の特訓。教官に戦闘を叩き込まれていたあの数カ月間は思い出すだけで嫌な気持ちになる。


「教官と1体1で戦う特訓と創造魔法で作られた仮想空間で疑似実戦の繰り返しだったよ。武器は剣か槍か弓を選べて、俺は剣を選んでた」


セフィー「仮想空間の敵は?」


「スクィーバーとデモトロン族、それと・・・や……闇騎士・・・」


※スクィーバー…鼠系の魔物平均体長2メートル鋭い爪と30センチ程の長さの牙を駆使して攻撃してくる。

※デモトロン族…巨人族ので魔王の配下の一角。体長は平均5メートルにもなる。

※闇騎士… 闇に飲み込まれた元騎士。表世界では魔王配下の近衛兵団に属する者達である。


「へぇ、敵に闇騎士までいるんだ。結構育成のレベル高いね」


「闇騎士とは一度戦ったけど俺は片腕を飛ばされたよ。本当に、本気で死にかけたあの時は…」


⬛︎⬛︎遡ること約2年前⬛︎⬛︎


訓練校の体育館に60人の訓練生が教官を前に10人縦列で並んでいる。


教官「これより仮想空間による擬似実戦を始める!まずは仮想空間で上がったレベルは仮想空間から退出するとと失われる何故か!」


「はい!」


最前列から4つ奥の訓練生ハンスが手を挙げた


「ハンス!」


「経験値が仮想空間から退出した瞬間に漏出し仮魔霧(イマジックミスト)へ変化します!」


教官「よし!仮魔霧(イマジックミスト)は仮想魔力源ではあるが、ある方法を取れば経験値として取り込む事ができる!その方法は?」


「はい!」


左6列目の8番目に立つセミスが手を挙げた


教官「セミス!」


魔瓶(マジックポット)で吸い込んだ仮魔霧(イマジックミスト)に現実で魔物を倒して吸い込んだ魔霧(マジックミスト)に混じわり仮想空間で得た経験値の幾分かが魔霧へ加算される………でしょうか?」


「よろしい!仮想空間で得た仮魔霧から魔霧に加算される経験値の割合は上限が決まっている事は知っているな?」


「はい…確か…50%です」


「本校で展開する仮想空間で得られる仮魔霧で加算出来る経験値は固定で30%だ」


「そんなに…!?」

「故郷にあった訓練校での仮装戦闘で加算出来る経験値率の倍だぞ…」

「ここの仮想戦闘を頑張れば一気にレベル50まで上がれるってことか!すげーや!!」

「こら、エド?仮想戦闘以外の訓練もやらなきゃダメよ!」

「ちぇっ、うるせえな〜勇者ってのは強く勇ましければいいんだよ!」


みんな得られる経験値を知って喜んでいるようだけど、そう思えるのは今のうちじゃないかな?だって噂に聞くとこの訓練校の仮装戦闘世界一ハードだって元勇者の近所のおじさんから聞いたぞ・・・?



教官「諸君、魔瓶(マジックポット)はしっかり腰に括り付けたか?仮魔霧(イマジックミスト)は空気中に出て数秒で消失してしまうからな!」


教官「よし、では訓練を始める!本日の仮想空間で生成する敵は闇騎士だ!諸君!気合入れて挑めよ!!」


訓練生一同「はい!!!!」


教官「では、出席番号順で仮想空間に入れ!」


次々と仮想空間に入っては数分後に空間内の生徒が出てきた。


その中の全員と言って良い程の訓練生が重症で傷が浅い訓練生は一人か二人しか居なかった。

教官曰く仮想空間の敵個体は急所を避けるように設定されていて訓練中の事故死のリスクは極めて低く安全は保証されている。


仮想空間の擬似実戦訓練が設けられて約100年事故死者は現在57名らしい・・・いや、結構な人数亡くなってるじゃねえか!?何が「安全は保証されている」だよ!!しかも、そんな死ぬかもしれない訓練を

新入生にやらせるって滅茶苦茶だなぁ…!?この学校・・・!!


うわ、今出てきた奴、片腕亡くしてるんだけど・・・

ほら!また一人ボロボロになって出てきたよ・・・


やば・・・足、震えてきた・・・。


空間から出てきた生徒に治癒役の先生が治癒魔法を施した。壊れた体の部位が治癒により再生してゆく。

腕が欠損していた奴の腕もボコボコと生え治っている。


更に教官によると仮想空間内の負傷は仮想の傷にはならず空間から脱出した後も残る。


その代わり、仮想空間から出て10分間は治癒魔法が200倍の効力で効く状態となり、どんな重傷でも完治出来る。・・・らしい、だから事故死のリスクは極めて低いと・・・。


だから、空間内で重傷を負っても死ぬ心配はないって事か。確かに腕が欠損してた奴も治癒を施されて数分経過した。


今は完全に腕が再生しているから重傷になっても死ぬリスクは低いというのは本当なんだと思う。


でも…死なないとは言え…重傷になるほどハードな戦闘訓練をこれからやらされるんでしょう?


そ・・・そんなの・・・厳しいってレベルじゃねえぞ・・・!


「次!リク!!」


「は、はい!!」


俺の順番が回ってきた。


「入れ!」


教官の合図で俺は創造魔法により生成された仮想空間に入る。


俺の目の前に紫色の魔力に覆われた甲冑の騎士が立っている。俺の姿に気づくと、鞘から剣を抜き構える。

それに応じて俺も構える、その刹那、一瞬にして騎士が俺の間合いを詰めて腹部を突く、俺は咄嗟に避けたが脇腹を一撃が掠った。


「ウグッ!!!」


俺は地面に膝を着いた。だが、もう一撃は絶対に食らいたくない。痛みを堪えて顔を上げると


二撃目を入れようと構えてる騎士の姿が俺は感覚5秒先に防がないと負けると思った俺は体感5秒早く守りの体勢に入った。


キィィイイイン!!!


体感5秒早く読みは当たり二撃目は防げたけど何だこれ…一撃が重すぎる。このままじゃ…!


紫色の力で剣の威力も強化されているのだろうか?俺は一度は剣で受け止めた騎士の剣の重さに圧されて、そのまま片膝立ちで支えていた体勢を崩され後ろに飛ばされた。


続けざまに騎士が三撃目を倒れる俺に食らわそうとしているのに気づいたが、さっきの圧により腕が動かない、考えてたら、殺される。


俺はとにかく避けようと寝返りをうったら胴体への攻撃は回避出来たが左腕を切断された。



「痛い!あ”ーーー!!!!いーー!!痛い!痛い!痛い!!痛い!!!痛い!!!!痛い!!!!痛い…いたっ…痛い……いたっ………」


俺は斬られた腕の傷口を抑えながら絶叫した。痛すぎて意識が遠のきそうだ。この闇騎士との疑似戦闘の前のスクィーバーにも牙で腹を貫かれて気を失い目が冷めたら訓練所のベッドで横になっていた。


だが、それにより痛みに体勢が出来てしまったのか、俺の意識は切れていなかった。



「こ…こんな苦しい思いするくらいならさっさと気絶したい・・・!」



俺は致命打になるであろ、騎士の四撃目を横たわりながら待った。


この一撃も気が飛びそうなくらい痛いんだろうな…。

と、飛びそうなくらい・・・??

いや、待て・・・

この(((気が飛びそうなくらい痛い一撃)))を食らって、もし都合悪く意識飛べなかったら…また更なる激痛を体感するハメになるんじゃ・・・?


いっ…嫌だ!!!!この攻撃…絶対……ッくらいたくない………!!!!!!


騎士が横たわる俺の胴体に一撃を入れる瞬間俺は力をふり絞って剣で薙ぎ切る攻撃を食らわせた。

あの重さの攻撃を薙ぎでまともに対抗できる筈が無いんだけど、今は考えてる余裕が無く、身体だけが動いていた。


その、もう一撃を喰らいたくない一心で動いた俺の攻撃はギリギリ0.数秒の速度で上回り剣を振り下ろした騎士の首を捉えていた。


「一本!そこまで!!」


教官の一声で俺は仮想空間の外に出された。




⬛︎⬛︎現在に戻る⬛︎⬛︎




「なんだ、倒してるんじゃない。そのまま

通っていれば、GXウェポンに頼らなくても成長出来たんじゃない?」


「セフィー、お前…」



こいつ鬼教官と同じ台詞を吐きやがる。


仮想空感で対闇騎士の擬似実戦を受けて以降、俺はGX(ギャラクシー)ウェポンを手に入れるまで、ずーーーっと疑似戦闘訓練をバックレ続けた。


訓練校で顔を合わせる度に鬼教官からは


「お前は疑似実戦で戦闘の経験を詰めば確実に最優の【勇者】になれる。それだけ、お前には冒険者の素質があるのだ。なんせ、闇騎士を初戦で倒した訓練生はまだこの学校で12人しか現れていないんだぞ?お前で13人目だ」


そう鬼教官に諭された俺は思った。


何が知るかボケ!!!!なーーーにが13人目だ!!!!


・・・と。


確かに、あの時一撃は入れられたけど、あれはどう思い返してもマグレだし、次再戦したら確実に死にそうなくらい痛い目に合うと思う。

いや、何より・・・死なないんだとしても


痛いもんは痛い!!苦しいもんは苦しい!!


「あの…痛くない特訓なんてのは…」


「そんなの、ある筈無いでしょ?舐めてるの?」


ギロリと俺を睨むセフィー。


「一つ提案何だが、痛いのが嫌なら、筋力値を上げて素の肉体の防御効果を上げれば良いんじゃないか?」


「あのね、それが出来るのは特化値が筋力値の筋力人間のアニーだけよ」


「そうなんかなあ?」


「痛いのが嫌なら受けなければ良いのよ」


「というと?」


「全部避けるの」


「そ、そりゃあそうだけど・・・」


それが出来たら既にやってる!!!!!!舐めんな!!俺はまだ非力な勇者見習いだぞ!!!!!


「出来たら既にやってる。とか思ってるんでしょ?」


ギクッ!!!!!!!!!!!


「当たりだね。でも、はっきり言うけど。最初っから痛い思いをしない特訓は戦闘においては存在しないわ」


もう、覚悟を決めるしかないのか…。


「じゃあ、せめて弱い敵からやらしてくれ!スクィーバーの子供でも良いから!」


「スクィーバーの子供?スクィーバーの子供なら特訓受けるの?」


「ああ!」


「言ったな?わかった。スクィーバーの子供を置いた仮想空間作るから」


セフィーは魔法を使う構えを取る。


「そうだ。訓練校で戦った仮想敵のレベルっていくつ?」


「知らないよ。俺が当時のステータスのままだから格上だとして30とかじゃないの?」


「訓練校で10もレベル上の敵と戦わせるコトなんてある?差が開き過ぎだよ。そこまで私が通っていた近衛騎士育成所も鬼じゃなかったわ」


「普通はどれくらいの差なの?」


「私が卒業した近衛騎士訓練所ならレベル差は最高でも5だよ」


「そうなんだ」


でも、レベル5差の威力とは違う力強さだった。あの騎士の剣の重み、明らかに、格上どころか、別格だったんだから。今でも思い出すだけで受けた時の手に残る感触を思い出し、手が震える。

とはいえ、あれより弱いってことは少しは楽できそうだし、言わないでおこう。


「まあ、それくらいだった…かも?」


「特殊強化装備(アイテム)の強化状態で戦闘していたから感覚がおかしくなってるのよ」


と、セフィーは言うと魔詩を唱えた。すると、魔法陣が道場の床に現れて、その上に、スクィーバーの子供が生成された。


「俺は自主特訓してるわ」


アニーは仮想道場にセフィーが生成した重りを担いでスクワットを始めた。さすが筋力人間。


※魔詩…唱えると魔法が成立する効果と成立した魔法の威力、精度を上げる効果がある。


「じゃあ、私の掛け声ではじめるから。リク剣はこれで良い?」


セフィーは俺に道場に置いてあった大剣の一本を投げた。おっとと…と受け取る。ギリギリ振れそうな重さだ。きっと俺の筋力値が足りてる大剣を用意したのだろう。


ギュルルルル…

スクィーバーが俺に威嚇し、俺は大剣を構える。GX(ギャラクシー)で最大値になった状態で旅していたから、本来の努力値で戦うのは久しぶりだ。育成所時代の記憶が蘇る、教官に半殺しにされ、疑似実戦で何度も死にかけた日々が脳裏に過る。


痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。怖いのは嫌だ。そんな感情が俺の心の中を駆け巡り、胸が苦しくなる。


「はじめ!!!」


セフィーが声を上げると、魔法陣の上がスクィーバーが飛び出して鋭い爪で切り裂くと前足を俺の胴体に目掛けて振り下ろす。

…痛いのは嫌だ。俺は本能で咄嗟に、スクィーバーの引き裂く攻撃を躱した。


スクィーバーの一撃は俺に命中せず空を斬った。スクィーバーは地面に着地し二撃目を中てる構えを取っている。


二撃目、次は逆の前足で切り裂く攻撃を仕掛ける。俺はスクィーバーが行動すると気付いた瞬間、後ろに一本引き、俺の胴体目掛けて向かってくる前足に目掛け大剣で一撃をくれてやった。斬られたスクィーバーの前足から血が吹き出す。だが、スクィーバーの攻撃はそのままでは終らず、噛みつき攻撃を仕掛ける、俺は大剣を持ち替えてスクィーバーの胴に一撃を入れた。


「(あれ・・・?意外とやれる?)」


俺の二撃目が致命打になったのか、仮想のスクィーバーは消滅した。


アニー「へー意外とやるじゃねえか」


セフィー「スクィーバーの子供は余裕そうね。

次はレベル26の成体と戦いましょうか」


「もう!?」


「当たり前でしょ?全然余裕そうだったじゃない」


「でも、あんな爪で斬られたら絶対痛いって!」


「それが、当たらなかったじゃない」


「躱せたけど、次は強くなるんでしょ?速度も上がってるだろうし今みたいに二撃で倒れてくれないかも…。ほら、まずは同じレベルで訓練するのも…訓練としてはありなんじゃないか?」


アニーはムッとしていたが少し考えて


「それもそうね、初日で仮想敵のレベルを上げるより同じレベルの敵を何度も反復で戦って経験を詰んだ方が良いわね。うん」


「少し、私が早まっていたわ」


まぁ、でも思ってたよりスクィーバーの動き遅くて捉えやすかったし、訓練校の時と比べれば楽ではあったけど、それを口にしたら地獄が待ってる気がしたから黙っておく。


「次、行くわよ」


「ああ!もう、何でも来い!!!!」


またvsスクィーバーの疑似実戦が開始された。


セフィーが召喚したスクィーバーを俺は無我夢中で倒し続けた。GX(ギャラクシー)モードがない素のままの特訓は久しぶりだから小休憩を挟みながらであったけど徐々に疲れが溜まって来ていて今はもうヘトヘトだ。


「ハアハア・・・ぜェ・・・ハァ・・・い、一回長い休憩させて貰えないっすか?セフィー先生…」


「根性なし」


そうですよー!!!だ!!!!!俺は痛いのも疲れるのも怖いのも嫌な根性なしですよー!だ!!!!!!!


「いや、そろそろ飯時じゃないか?。仮想空間に閉じこもってからもうすぐ3時間だぞ」


ナイス!アニー!!俺は心の中でグッジョブポーズを取る。


「もう3時間?そんなに経つんだ。じゃあ、休憩にしましょうか」


セフィーが片手を上げると俺の身体が急に火照り出した。この感覚あっちの世界でも味わったことがある。レベルが上がる感覚だ。


だが、これはおかしい…。


少なくとも感覚的に2と3ぐらいのレベルアップの感覚では無い10以上レベルが一気に上がったような感じがした…。


もちろんGX(ギャラクシー)モードの感覚とは比べ物にならない火照りだ。


というか、あの時は脳内で数字が現れて999まで一気に上がり体内が燃えるように熱くなったが苦しくなく寧ろ心地良い不思議な感覚だったのを覚えている。


「レベルが上がったのね」


「ああ、だと思う。なあ、スクィーバー相手だとレベルはいくつ上がるんだ?」


「レベル25のスクィーバーなら5体討伐で3レベルは上がるよ。」


明らかに、それ以上上がってる感覚がするけど

セフィーに伝えたら特訓メニューが更にハードになりそうで嫌だから言わないでおこう・・・


「あ、あぁ!うん!多分それくらい上がってる気がする」


セフィーが仮想空間魔法を解除すると、俺の身体からレベルアップ分の仮魔霧(イマジックミスト)が抜け出し蓋を開けていた魔瓶(マジックポット)に吸い込まれた。取り込んだことにより起こっていた火照りが消えて行く。



「早く、飯行こうぜー!」


腹を空かせたアニーがドアを開けながら俺とセフィーに呼び掛ける。


「そうね」


俺も腹減ったし疲れた…。でも戦闘の前は怖かったけど意外と思ってた程の強さの敵じゃなくて割と楽に戦えたのが良かったな。


そんな感想を抱きながら、俺は地下の空き部屋を後にした。


※レベルアップ 攻撃力値 魔力値 筋力値 防御力値、俊敏値、この内の2つの値が系1000になるとレベル1の感覚。


「さあ!リク!特訓後半戦はじめるわよ!!」


「あのー、もうすこし休憩を…」


俺らはセフィーが展開した仮想道場の中に再び集まっている。空間に入った瞬間魔瓶(マジックポット)内の仮魔霧(イマジックミスト)が放出させると俺の身体に吸い込まれて再びレベルが上昇した。



「もう1時間取ったでしょう?ほら、武器持って構える!」


ちぇ…次は仮想スクィーバーのレベルが27まで上がってるのだろう。しかも、25以上は成体だから、俺はこれから成体のスクィーバーと戦わせられるんだろうな…嫌だな…訓練生の頃に牙で。腹部を貫かれた痛みを思い出し俺は大剣を持ちながら自分の裂けた腹を擦る。


「ふぅーーー…」


“当たらなければ良い。“そうだ。当たらなければ良いのだ。覚悟が決まった。腹を擦っていた手を話して大剣の持ち手に添えて構える。


「よし」


「食べ過ぎた??」


「覚悟決まってる内に早くしてくれ〜ぃ!」


仮想スクィーバーが生成された。やはり成体の姿をしている。


「この仮想スクィーバーのレベルは26だよ。」


意外と低く設定されていて俺は安堵した。


「おい、レベル低くて今安心したでしょ?

スクィーバーの成体を侮ってはダメ。成体は素早い上に攻撃一つ一つが子スクィーバーの何倍も殺傷能力が高いし・・・。アンタの耐久じゃ…一発かも。」


「やめてやめて!覚悟が削がれるから!」


「動きに充分注意して行動すること。いいわね?」


「了解!」


「よし!はじめ!!!」


セフィーが合図すると瞬間、一瞬にして俺の目の前までスクィーバーが飛び掛かって来た。


…と思ったが。これは、俺の想像の中で現実では飛び上がる寸前の後ろ足の動き地面を蹴る瞬間をしっかりと視認出来るくらいにゆっくりと動いてる様に見えた。


目で捉えられるのなら躱すだけだ。俺に20センチぐらいの長さの牙で刺し殺そうと俺に目掛けて飛んでくるスクィーバーを屈んで躱した。


だが、その行動は良くなかった。俺の背中に鈍い感覚が走る。息をする間もないまま、背中の衝撃により前方にふっ飛ばされた。


俺は今地面をゴロゴロ転がっているのだろうか?視界が二転三転している。何とか転がる途中で片腕と片膝で回転の勢いを止めた。


体勢を整え鈍い感覚のあった背中を触ってから手を見ると血が付着していた。多分、スクィーバーに後ろ足で背中を蹴られたのだろう。


「ゲホッゴホッ…」


そう…覚えている。あれは育成所の仮想戦闘訓練の時。


大人のスクィーバーと初戦闘した俺はスクィーバーの攻撃を何とかギリギリで躱した。

「行けるのか?」と思った俺は剣で反撃の構えを取る


だが、その束の間、前足の攻撃が肩に当たり横にふっ飛ばされた。


仮想空間内の建物にぶつかる。意識が朦朧になりながら起き上がると既に至近距離にスクィーバーの姿があった。

俺は避けようと身体を動かした。間に合わなかった。腹部に強烈な痛みが走った思うとスクィーバーの牙が俺の腹を貫通し斬り裂いていた。



「(あ、俺はこのまま殺されるんだ…いやだ、怖い!痛い!死にたくない!! )」



俺は恐怖しながら死にたくない一心で届かないであろう剣を四撃目を出そうとしてる目の前の獣に振り上げた。


その直後に俺の意識は飛んだ…。


その後、俺はベッドで寝ていた事しか覚えてないが、今の俺の脳内に3撃目の牙で腹を刺し抜かれた感覚が鮮明に思い起こされる。


俺は殺されるんだ!あの時と同じ様に…嫌だ!殺されるのは怖い!痛いのは苦しい!!


もう、あの激痛な攻撃を食らってたまるか…ー!!!!


その刹那噛み殺そうと飛びかかっているであろうスクィーバーの動きが再び遅くなったように見えた。勝機を感じた俺はスクィーバーの口に目掛けて大剣を突き刺した…!


「…!!!」


ギュルアァア!!!


断末魔を上げスクィーバーは消滅した。


「おい!!調整ミスってない??」


「だから、侮ってはダメと言ったでしょう?」


「痛い痛い!早く治癒して先生!!」


「はいはい…」


背中にセフィーが治癒魔法を掛ける。


「意外と避けれるじゃない」


「いや、ギリギリだったよ!本当死ぬかと思った…あと一歩遅ければ殺されてたって!」


「私が治癒するから死なないって」


「また、それ言う…」


死ぬのは嫌だし、痛いのも、すごく嫌なんだ。

もうやだ早く逃げたぃ・・・。


「あのスピードを避けるとは、やるじゃねえか。リク!」


アニーがセフィーの治癒を受けている俺に歩み寄る。


「最初の一撃あのスピードはレベル50の戦士でギリギリ避けれるスピードだ」


「えぇ、ぶっちゃけアレは上振れ個体ね」


「レベル設定してるのに強さに上振れ下振れがあるのってどうなんですかね…?」


「種力値の個体差があるから。今の個体は敏捷値が高かったのでしょうね。代わりに体力値が低かったのでしょう。だから、一回突き刺しただけで消滅した。」


「そうゆうことなら、まあ。。。」


正直、総種力値の関係について俺は詳しいことがよくわかっていない。そうゆうもんかと深く考えず納得することにした。


背中の傷の治癒が終わるとセフィーは立ち上がると手を叩き。


「次、はじめるわよ!」


「つ、続けて!?勘弁してください!死ななくても心が幾つあっても足りないですぅぅ!!」


「泣き言を言わないの!勇者になるんでしょ!」


「やだやだやだやだ!今日はもうおわり!今日はもうおわりー!!」


これ以上続けられるくらいなら何でもしてやる!という思いで俺は床に倒れて暴れ出した。


「やだやだ言わない!」


「やだやだやだやだ!!」


「ダメだ。イヤイヤ期になってしまった…」


「こりゃ、話を聞く気すらなさそうだなあ」


「アニー、その鉄の重りちょっと持ってみて?」


「ん?これか?」


セフィーが刺したのは仮想道場内でアニーが使っている筋力特訓用の重りだ。


瞬間セフィーの魔剣から発生された魔力光線がアニーの持つ重り貫いた。


「この重り特別な鉄で出来てるからターメレックスの甲羅と同等の硬さよ」


ターメレックス…表世界で一番強固とされている亀族の甲羅。ターメレックスの甲羅を割れるのは魔王の魔剣の一撃のみという言い伝えがある程に…


「これを受けるか、特訓を続けるか・・・選びなさい?」


「は、はい…やりまーす…」


俺は涙目になりながらコクコクと頷いた。


「お…俺の重り………」


可哀想に…もう一人涙目の人が居た。

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