勇者リク、逃げる
GXモードが無くなり意気消沈としていた俺だが今更2人に実はGXウェポンでズルしてたなんて言えねえだろ…!散々法螺吹いてきちゃったし…!な、なんとか誤摩化すんだ!…と思い直した。
「あっ…、ご、ごめん!連戦で疲れが…」
セフィー「詰んだって?」
「ん?あー、いや。サンド…サンドウィッチ食いてえなあって…」
アニー「ああ、そういや…俺ら何も食ってねえしなー」
セフィー「とりあえず、街に行ってみる?」
セフィーはここから見える街を指差して提案した。
セフィーの提案通り俺達は街に向かった。この街には平地から少し歩いたら辿り着き入口を抜けて街の中に入れば真っ先に木彫りでギルドと書かれた看板が扉の上に付けられた3階建ての建物が見えた。他の建物は2階建てが多く、より3階建ての一番大きなこの建物が中央にあるだけあって目立って見えた。
扉を開いて中に入ると、そこには表世界と変わらない冒険者ギルドの空間、受付があって依頼が壁中に張り出されていて冒険者数人が張り紙を見ながらあれやこれやと話合っている。
セフィー「受付はだれもいないのかしら?」
???「目の前にいるノコー!」
3人「え?」
「今の声アンタ?」
受け付けの近くに立っていた女子の冒険者に聞いたら違うと首を横にふった。
「ちょっと待つノコ!」
すると、受付からガタッガタガタッゴトトッ!という音が聞こえたかと思うと、ヒョコッと動物の耳が受付カウンターの下から顔を出した。
???「うんしょっと!」
するとバスタードソードの半分ぐらいの大きさの小動物が姿を現した。
セフィー「か・・・かわいいいいい!!!」
かわいい物には目がないセフィーは初対面の小動物にいきなり抱き着いた。
「うわわわあ!ちょっとお!いきなり何するノコー!!」
「んー!!!よしよしよし!!お毛々ふわふわだあ〜」
小動物の抵抗もお構い無しでセフィーは小動物の顔に頬を擦りつかせている。
アニー「またはじまった…」
「だな…」
セフィー「えへへへ…いい匂〜い」
???「匂い嗅ぐなノコ!変態か!」
アニー「その程度にしとけ、周りの奴等引いてるぞ。」
セフィー「あっ・・・こ、コホン!失礼しました・・・遂・・・」
???「あなた達“あっちのエグドラド“から転移したパーティーノコね?」
アニー「あぁ、確かに俺等が居た世界の名前はエグドラドって言うが」
???「女神様から聞いてないノコか?ここは裏のエグドラルドだって」
セフィー「女神様にはあってないけど神様を名乗る誰かに裏世界?みたいなことは言われたよ」
???「神様?女神様じゃないノコ?まあ、いいや!とにかくボクは女神様から新たに3人の転移冒険者が来たと教えて貰ったノコ!」
セフィー「ボク?君って男の子なの?」
???「失礼な!こんなかわいい顔をしてるのに!女の子に決まってるノコでしょ!」
確かに顔をよーーくまじまじと見ると女の子のように長い睫毛があるし、頭には花髪飾りを着けている。
???「僕の名前はルド!改めまして、ようこそ冒険者ギルドにお客様!登録の手続きノコか?」
ルドはちっこいからだで丁寧に俺らにお辞儀をする。
セフィー「かわいい~~~」
お辞儀をする小さい生き物を目の前にセフィーは再び目を輝かせる。
ルド「うーーん…な、何か子供扱いされてる感があるけど一…応誉め言葉として受け取っておきますノコ!」
アニー「俺ら宿に行きたいんだけど。近くに宿ある?」
ルド「そうノコか!それは丁度良かった! ここ冒険者ギルドは宿が一緒になってる特別施設ノコ!ギルドに名前を登録すれば100コインで一泊出来ますノコ!」
3人「やっっっす!!!!」
あまりの安さに暗い気持ちだった俺もさすがにでかい声が出た。一泊で100コインは破格過ぎる。
ルド「ちなみに登録しないと宿は取れないノコ。どうします?お客様?」
セフィー「そんなの、するに決まってるよね?」
アニー「ああ、だけど、手続きって時間どれくらい掛かるんだ?」
ルド「手続きはそんなに時間掛からないノコ!名簿に名前書いて貰ってからレベルチェックをしたら、もう登録完了ノコ!登録費に3000コインかかるノコが。コインは大丈夫ノコか?」
レベルチェック?
セフィー「3000コインくらいなら3人とも余裕で出せる筈だから大丈夫だよ」
アニー「レベルチェックってのは?」
ルド「レベル80以下の冒険者さんは登録出来ないからレベルの確認ノコ!ここの魔物は雑魚でも強いノコからねぇ。御三方たんは、別世界で魔王を倒した強者達ノコでしょ?」
ま、まずい.........。
俺「そ、そうだけど。それがわかってるんなら。レベルチェックの必要は無くないか?」
ルド「それもそうノコね。でも、そうは行かないノコ...たまに間違ってレベル30くらいで転移しちゃって登録していざ冒険に出たらレベル90のスライムに食われて命を落とした事故があったノコ!それから安全面を重視してレベルチェックは必ずやる決まりになったノコ!」
「そ、そうなんだ...」
やばい、まずい、早く逃げたい。
アニー「そんじゃあ、さっさと済ませちまおうぜ。レベルチェックって奴」
セフィー「そうだね。私、手続きが終わったら一番にお風呂に入るよ!だって連戦で汗べとべとなんだもの。」
ルド「ここの温泉はとっっっても癒されるノコよ!」
セフィー「本当?じゃあ速く手続きを済ませて温泉に入らせて貰おうかな!」
アニー「しっかし久々の風呂だな。セフィーの魔法で簡易な風呂には入ったりしたが」
セフィー「あんなのただ体を綺麗にするだけよ。やっぱり魔法で生成したお風呂より本物の温泉が一番よ!ね?リク?」
「あ!あー...俺!あれだ!俺、神様に伝え忘れたことがあったんだ!じゃ!!!」
セフィー「え?」
ルド「お客様!?」
アニー「伝え忘れたこと?お、おい待て!!」
俺は驚いた3人の顔を背に冒険者ギルドを逃げるように飛び出し全力で走りまくった。。
今まで共に冒険を共にした勇者が強化装備を使って総主力値を全最大値に加算してたけど本来の総主力値は勇者育成校在校時のまんまなんて真実をあの2人が知ったら……俺がどんな目に合わされるかわかったもんじゃあない。
特にセフィーは元王国の騎士団に所属していた背景もあり、不正にはめちゃめちゃ厳しいのだ。
俺はひたすら走ってギルドの建物が見えない遠い所に辿り着いた。
無我夢中で走っていた俺は気がついたら鳥か小動物かわからないけど、色んな動物の鳴き声が木霊し、葉と葉が擦れる音が聞こえる…まさに緑豊かな大自然の内まで来ていた。
「ぜえ___ッ!はぁッ!はぁッ!はぁッ!ガッゲホッゲホッ!___ッ!ここまで来れば........!」
でも…この先どうするんだ?
GXモードの発動数が切れ、今まで何でも出来ていた俺だったが、総主力値が元に戻った俺の
体力は並の冒険者以下で少し全力疾走しただけでバテてしまった。
我の事ながら、【あのメダル】を使う前の体力の無さを最強の状態を体感したからこそ、驚愕する。
どんだけ強弱だったんだよ…!・・・と、
こんな非力な男が高レベルな魔物と対峙したら瞬殺されるか食い殺されるに決まっている
「グルルルルルオオオ...」
ほーら、お誂え向きに狼に二本の角が映えた3メートルぐらいの獣がザッシ、ザッシ…と足元にある草を踏む音を鳴らしながらのお出ましだぁ。
「ガルルルガアーーーッッッ!!!!!」
目を光らせた獣は容赦なく俺に飛び掛かった。
「もう、いいか…」
父さんに言われた魔王を倒すって使命も果たしたし。それに、突如失踪した最強勇者とか、肩書きが生まれたら格好いいし、このまま跡形もなく食い殺されるのも悪くない......。
食い殺される・・・?
まてよ、食い殺されてる間って意識あるのかな…?
瞬殺してくれれば痛みを感じずに餌食になれるけど、
もしも、即死出来ずに自分の体が鋭い牙によって噛み砕かれる痛覚を感じながらジワジワと生涯を終えるのか?
そ、そんなの・・・!
「いっ___!いや!いやだ!!!俺はまだ死にたくなああああああい!!!!!!!!」
俺は情けなくも惨めに涙と鼻水を垂らしながら叫んだ。
でも、ここは森の中、生き物はいても人の気配は無いし誰かが助けてくれる筈もない。
「くっっっそおおおおお!!!!」
俺は飛び掛かって来た獣の攻撃を咄嗟に躱した。
教官にしごかれた回避訓練の成果が今日発揮出来たきがする。俺を食おうとした獸はそのまま前足で字面に着地すると、避けた俺がいる方へ顔を向けた。
森の中を俺は全速力で逃げた。獸も全速力で俺を追ってくる。30秒も経たない内にGXモードを使ってない俺はヘロヘロになり足が縺れて地面にバターンと倒れた。足を見るとガクガク震えてて、もう使い物になりそうにない、俺は本当に終わったのだと、確信した。
追いついた獣が完全な捕食者の瞳を光らせて俺を噛み殺そうと地面から飛んだ。
「あぁ......今度こそ終わったんだ......」
バイバイ、俺の人生。転生したら最初からチートを使える勇者になりてえな。
シュピィィィィイイン!!!!!
何かが切り裂かれる音が響いた。
ドサッバタバタッ
何かが地に落ちる音が聞こえた。
「こんな所で何をしている?ここはお前のような冒険者見習いが入って良い所ではないぞ」
そして聞いたことのない男の声が聞こえた。
「へ?」
殺される恐怖により咄嗟で瞑っていた目を少しずつ開くと俺の前には真っ二つに裂かれてからだの断面が露出している獣の死体と剣を左手に持った青年が倒れる俺を見下ろしていた。
「お前、転移した勇者か?」
青年は俺の勇者装備を見て不思議そうに言う。
「ここは魔王を倒した強者のみが来れる世界の筈なんだが、あの女神、昔ドジして勇者の後を魔王城の中まで追って運良くも生きていた村人を転移させちゃった〜なんて言ってたけど、またやらかしたのか?」
「えっと......なんつーか…俺は“さっきまで“"勇者だった""というか......」
「なんだ?引退したのか?それならますますこんな所に来るべきではないな。ましてや、その戦闘力じゃあ今みたいに野良の魔モノに襲われて死ぬぞ」
「いや、引退とかじゃなくて…俺…本当は……!」
俺は青年に俺がGXモードを使って勇者訓練校を卒業し冒険者ギルドに所属した後にパーティーを結成して魔王城を攻略した事と、そのGXモードを裏世界に転移する寸前に失い、自分の実力が訓練による賜物ではなくGXモードの種力値補正で強くなっていた事がパーティーの2人にバレる前に逃げ出した事…すべてを話した。
・・・。
「ふーん…つまりお前は阿呆なんだな」
こいつ…あまりにもはっきり言いやがるなあ!初対面の人間に阿呆とは何だ阿呆とは!
「概ね事実だろう?自分で蒔いた厄の種に自分が追い込まれているなど…阿呆としか言いようがないだろう」
グサッ!!!!
刺突攻撃のような正論突き!!
でも本当に、この青年の言う通りだ・・・。
「俺・・・これからどうすりゃ良いのかなー??︎;;」
「だから。それが阿呆だと言ってるんだ。お前の行いだろう?なら始末の仕方はお前自身で考えろマジの阿呆が」
「そう.........す......よねぇ..........」
ま…マジの阿呆!?こいつ…多分俺と年齢大差変わらないのに二回り年上みたいな話し方しやがって!
しかし・・・またもや正論ではある。
全く…本当にどうしろって言うんだ・・・?
「そうやって、その力に頼っていたから、いざ""自分の身一つ""になると、何も出来なくなるんだよ」
青年は容赦なく正論を続ける。
「生きていたいなら、強くなる努力をしろ。表世界に戻りたいなら尚更だ」
ザザザッ…
すると、誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえた。