特変体デモトロン 1話
「それで、特変体はどの辺りに?」
族長の妻がコーヒーが入ったカップをテーブルに置いた辺りでセフィーが切り出した。
「はい…今は鉄の檻に捕らえています。催眠弾を捕らえる寸前に撃ち込んだのですが…切れるのは時間の問題です。特変体となった我々デモトロンなら鉄の檻等、簡単に破壊して脱走し暴れてしまうでしょう。
そうなった場合の被害は想像に難くない・・・」
「その、特変体となったデモトロンの処分を俺達がやれば良いんですね?」
「えぇ、お願いします」
冒険者ギルドでシーラさんから聞いた当任務の概要によれば……
”特変体”とは原因不明の魔素の変容により凶暴化し強化された魔モノ【特別変異体】の略称であるらしい。
本来のデモトロンは同族を襲わないが特変体と化したデモトロンは同族までも襲って食してしまう、更に同族だけでは留まらず特変体が食べる物はもう一つある。それが人間だ。
特変体となったデモトロンは肉体に流れる血液成分まで変化し猛毒である筈の人肉への耐性得たどころか寧ろ特変体は同族の肉より人肉を欲する。
おまけに特変体は嗅覚も鋭く数km先の人間の住処にも気づく、ここから冒険者ギルドがある町まで3キロ程の距離だ。
特変体が森に出たら真っ先に町に気づき襲いに向かってしまうだろう。事実、特変体が町を襲い人間の死者が出た惨劇が過去に幾つも引き起こされている。
このデモトロンの村と冒険者ギルドがある町は交易関係にありデモトロンが狩った魔物の皮を町の商業ギルドが買い取ったり
運搬業をコインを代価に委託しているらしい。
この関係性は表世界のデモトロンと人間も同じで木材の伐採、重荷の運搬、などなど……
そして、人間とデモトロン族の「交易」に用いられている物で冒険者ギルドにとって重要な物がある。
それは”デモトロンの血液”だ。
デモトロンの血液には強化系ポーションの作成に必要な成分が多く含まれる。
そこで、冒険者ギルドを管轄に置く【町議会】はデモトロン族から定期的なエグドコインの分配と議会保有地の四分の一の譲渡を引き換えに族民の血を回収する協約を結んだ。
※(血液の回収方法はチューブで瓶に繋がった針の先端に麻酔薬を塗り刺して吸い上げるという現実世界の採血に近い方法で吸い上げている。ん……?現実世界ってなんだ? まぁ・・・と・・・とにかく!デモトロンと人間の関係は本来良好なのだ)
だから、特変体による被害が拡大する前に殺して欲しい。
というのが俺達が受諾した任務の本題であり
何よりこれはデモトロン族からの依頼だそう―――
―――でも、同族を殺してくれと言ってるようなもんじゃないか?
辛くはないのだろうか?
族長だから割り切っているのだろうか…?
俺はコーヒーを飲み終わり特変体を捕らえている檻まで向かおうと立ち上がったタイミングで族長に尋ねた
「あの…これ俺達があなた達の同族を殺すってことですよ?」
「ええ」
「本当に殺して良いんですか?」
「リク、お前・・・」
「特変体は元のデモトロンに戻れないってシーラさんが言ってたでしょう?やるしかないのよ。私達のためにも彼らの為にも」
「あぁ、族長さんは覚悟出来てる筈だぜ?」
「えぇ、おふたりの言う通りです。それに・・・」
族長は俺の方を向いた。その顔には影が入り、作り笑顔をしているのは一目瞭然の表情で。
「もう”何人も見送って”ますから・・・」
その瞬間、俺は族長の本心を察したが同時に覚悟を明確に感じ取れた。
「これは、本来我々デモトロン族の問題であり自分達で特変体を処分すべき所をアナタ方冒険者にお願いさせて頂いてるんです。寧ろ感謝しかない。村を守る為協力してくださるアナタ方冒険者ギルドの方々に 」
「す、すみません、変なこと聞いてしまって…」
「いいえ、お気になさらずに。さて行きましょうか…」
と、族長が言った瞬間にバゴーーーンッ!!!!という爆音が突然何処からか響き渡った。俺は瞬時にその音の主が任務の対象だと察した。
「まさかッ!?も、もう目覚めたのかッッ!?」
「ゴウドュさん!特変体は何処に捕らえていますか?」
「こ、この家の地下牢です!」
「「「ちっっっっかっっっっ…!!!」」」
「でも、どうりで、さっきこっそり探知魔法を展開した時に強い魔力を感じていたんです。そうか・・・つまり特変体は・・・」
「「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」
ドカッドカッドカッ……!!!ドゴッ…ドゴッ…ドゴ…
地下から巨大な生き物が登ってくる足音が聞こえる。それはまさしく巨人か鬼の足音。それでいて明らかに荒々しく目の前の鬼類とは全く別モノから発せられる凶暴な鬼類の足音だ。
「おいおい!もう登ってくるぞ!!」
「アニー!リク!ゴウドュさん達を外に!!」
「え?もしかして…セフィーさん一人で解決してくれるんです?」
「何阿呆なこと言ってんのよ、このまま戦ったらゴウドュさん達が危ないから逃がしてって意味!」
「ですよね…」
特変体の強さは個体差はあるが中でも莫大な腕力が脅威で魔力で超強化した檻でも簡単にへし折って脱走し暴れてしまう故に一度特変体に変われば殺処分しか対処法がないらしい
任務受託の際に見た文書に記されていた情報だ。
これを見ていたから俺はデモトロンに会うのが怖かった。というのをホンネをここで白状しておこう。
―――だってそんなバケモノ腕力の魔モノになる可能性がある種族と知ったら身構えてしまうでしょ!だれでも!
それに・・・ 変異の理由がわかってないという事はいつ誰がなってもおかしくないし、話していたデモトロンが急に特変体に変貌したらどうしようかと・・・
だから、族長も奥さんも怖かった。今も正直言うと少し怖い。
しかし、今の怖さの対象は音を立てて迫り来る
”当任務の対象”であろう何モノかだ。
「待ってください!!!」
バーーーンッ!と音を立てて外から何者かが入ってきた。よりによってこのタイミングで!?
「ギン!!入っちゃダメだ!!特変体が目覚めたんだ!冒険者さん達にお願いするから!この家から離れていなさい!」
「特変体じゃない…!あの2人はグウォン兄さんとファーラ姉さんだ!!まだ意識が残っていたんだ!特変体になりきってない筈なんだ!!!」
突如現れた青年のデモトロンが玄関の前に立ち2人を避難させる出口を塞がれ閉まっている。
ドガッ…ドガッ…ドガッ…!!!!!
下から聞こえる足音はだんだんと大きくなり、もうすぐそこまでやって来ているのだろう、続けて
ドゴッ…!ドゴッ…!!!
家の中にある扉を叩く音が聞こえて、その扉が何処に繋がっているのか察した俺は扉を警戒心を向ける。
「おい、族長さん、あの扉まさか…!!」
「ええ!地下に繋がっている扉です!」
ドゴオオオオオン!!!!!
爆音と共に何者が扉を蹴破った…中からは全身が黒気味の赤に変色した姿はデモトロンと変わらない魔モノが現れた。これが特変体・・・!確かに”デモトロンであってデモトロンではない魔モノ”と称されるのは納得の姿をしている。そんな魔モノが蹴破った扉から一番近い位置にいるセフィーに向かって飛び掛った!
「こうなったら仕方ない!アニー!ゴウドゥさん達を特変体から守って!!」
そう言った直後、セフィーは呪文を唱えた。足元に魔法陣が現れ魔王陣から光が発せられたかと思えばその光は空間一体に発せられ、俺は咄嗟に目を閉じた。
瞼を閉じた一瞬の間に何か物体がぶつかる衝突音が聞こえた。
目を開くと光を見た後遺症でボヤける視界に飛び掛って来た特変体の腕を盾で防いでるセフィーの姿が入った。
そのセフィーに向かって俺の中で生まれたとある懸念を聞いてみる。
「あの・・・これって・・・やっぱり俺が戦う・・・流れ・・・・・・」
「ええ!もちろん!」
って、めっちゃ笑顔で頷くんじゃないよ!!
「あぁ、やっぱり・・・そのー…そのままの勢いで倒してくれたり」
「安心して」
「え?」
「さっきのあまーーーいコーヒとクッキーのおかげで魔力精度が上がってるから瀕死程度の怪我ならすぐに治せるよ!」
いやいや、瀕死程度でて・・・
「さあ、出たでた」
「おっと…!!」
俺は背後から誰かに背中を押された、目の前には特変体の姿のみが俺の視界に収まっている。後ろを振り向くと特変体の攻撃を盾で止めていた筈のセフィーが腕を組んで立っている。
「家中に結界を展開したからここで戦っても村に被害が渡ることはないわ」
「そうか……今の光と魔法陣は結界魔法…!」
「本当は創造魔法で空間ごと変えれたら良かったのだけど、ごめんなさい、中の物は戦闘中に壊されてしまうかも」
「そんなの安いもんです、村と街が守られるのなら…!」
なんて。立派な族長なのだろう。家より村と町を慮るなんて・・・長の鑑だ。俺なんてこの場に来ても尚自分の身の危険に内心怯えているというのに。
「あの・・・援護してくれるよ…ね…?」
「うん、危なくなったらね」
はたして、彼女にとっての”危なくなった”がどの程度の匙加減なのか?想像には難くないが
もう対象を目の前にしてしまっては引き下がれない。(結界まで張られちゃったし・・・)
俺は大きく息吸って吐き、覚悟を決め直すと、背中に刺した大剣を抜き戦闘の構えに入った。




