勇者リク、最強を失い、詰む
ギィィィィィィ、だれかが開いた訳でも無くひとりでに戸が開くと、そこから見えたのは何も無い虚空が姿を現し、とてつもない引力が発生した。
3人「うわあああああああああああああああ!!!」
俺らは瞬く間も無く謎の扉の先へと吸い込まれた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
『裏世界へようこそ!さぁ!ワクワクドキドキの冒険が皆さんを待ってますよ!』
扉に吸い込まれた直後、気づくと俺らは広大な平地に降り立っていた。平地の周囲には禍々しい雰囲気の森が広がり、その森の後方を遠望すると鋭利な形状の巨大山脈が轟々と存在感を放っているかと思えば一方を見ると平地から何処かに続く道があり進行方向を見ると建物が数軒並んでいる街に繋がっているのが分かった。パッと見都市や王国ほどの大きさでは無いが町という程の小ささでも無いごく普通の街だ。
セフィー「ねえ、神様?そもそも、裏世界って何?」
神様『やっぱり気になるぅ?」
セフィー『空気中の【魔霧の残滓】を視たら魔王城よりも一層…黒が多いみたいだから…」
※黒・・・ ⬛︎魔族 ⬛︎魔物 ⬛︎獣族が多く持つ魔力の属性
※白 ⬛︎ヒト族⬛︎精霊⬛︎獣族が多く持つ魔力の属性
神様『さっっっすが!セフィーちゃん!転移したばかりなのに そこにもう気づいちゃうなんて!」
セフィー「ありがと、でも、 これぐらいの分析なら多少の魔力がある人なら出来る筈だよ。まぁ、アニーは動く筋力の塊だからわかんないと思うけど」
アニー「はあ?馬鹿にすんな!俺にだって違いぐらいはわからあ!あれだろ?こう・・・ズシッ!!とした感じだよな」
セフィー「それ、分析じゃなくて、ただの直感じゃない。まぁ、でもそうね。表現的には間違ってないかも。ねっ?リク」
俺「え?...あ、うん...そ、そんな感じだな」
と、話を合わせておいたけど、実は今俺は何故だか周りの【魔霧の残滓】を全く感知できていないんだ。というか、裏世界に転移した瞬間にGXモードにより感知していた周囲の魔力濃度、人物の詳細な能力値が全く読み取れなくなっている。でも、ギャラクシーモードは更新したばかりだし・・・?どうなっているんだ?
アニー「どうした?リク。ボーッとしやがってよ」
「あ、う、うん。ははっ。なんでもないよ。それより話してくれよ。神様」
神様「よろしい!ではでは!この私が、ここ裏世界について説明してしんぜよーう!おっほん!まず、この世界はあなた達が倒した魔王が元のエグトラルドを模倣して創造した世界で、この世界の魔王を倒さない限りあなた達が倒したと思っていた魔王は永遠に蘇り続けちゃうの。」
「なっ!?」
アニ「それは本当かよ!?」
セフィー「うそ…!?」
神様「魔王を完全に倒すにはこっちの世界の魔王本体を倒さないとエグトラルドに平和はずっと訪れないってカラクリなのねーこれが!」
セフィー「待って、もしかして…」
アニー「どうした?セフィー」
セフィー「私が住んでいた王国にも魔王に挑んだ者達が何人もいたんだけど魔王に敗れて帰らぬ人になった…という話だったわ」
アニー「そういえば、俺が住んでた村でも魔王に挑んだ奴等は全員帰ってくることはなかったな…」
「だから俺等が世界で初めて魔王を倒したパーティーだと思ってたんだが。もしかして・・・・・?」
神様「君達の想像してる通り魔王に挑みし猛者達が姿を消してたのは魔王(分身)を倒しこの世界に転移していたから…なんだよねー!びっくりしたあ?」
アニー「ってことはアイツらが…!アイツらが来てるのか!?」
神様「うーーーん、それはねえアニー君?自分の目で確かめなさい。」
アニー「そ、そうだな!でも、良かった!アイツら生きてるのか…!」
アニーから聞いたことがある、アニーがまだ見習い戦士の頃毎日のように戦闘訓練の相手をして貰っていた兄貴分達が魔王城に挑んでそれきり帰ってこなくなったという話を…。
セフィー「そっか、クロウルさん生きてるかもしれないんだ…」
クロウルという人物についてもセフィーから聞いたことがある
近衛騎士団の先輩騎士でセフィーの憧れであり何より愛していた。いや、今でも愛しているからこそ、セフィーはその時クロウルのことを忘れたかったのだろう、俺とセフィーはなりゆきで男女の関係の一歩手前まで行ったが、超える寸前で、セフィーが我に帰り、そういう関係には至らなかった。
あ…あの時はまるで振られた気分だったよ…!別に俺から告白したわけじゃないのにな……!
セフィー「そうだ、この先どう旅をすれば良いか聞きたいんだけど路銀の稼ぎ方に通貨は?そのまんま?」
セフィーは言いながら腰のベルトに付けてる袋を腰を振らして揺らして中に入ってるコインをジャラジャラ鳴らした。
神様(自称)「基本的な生活様式はあっちと同じ、通貨は表世界と同じエグドコインだよー、転移者はギルドを転々として各地のギルドで依頼を受けて達成報酬のコインで衣食住を賄えるわ。ギルド証があれば魔霧交換所で倒した魔物ちゃんの魔霧をコインに交換出来るよ!まぁ、結構持ってるみたいだし、暫くは手持ちで事足りると思うよ〜」
※「魔霧」とは万物が持つ霧状の魔力体。集めると「魔素」という国々のインフラを担うエネルギー源に変換される。魔霧は息絶えると持ち主から抜け出し「魔霧入れ」というコルクを開けると自動的に魔霧を吸い込む容器で採取できる。
※「魔霧交換所」とは魔物か植物から採取した魔霧を通貨に交換できる場所。各地のギルドに訪れた冒険者、街人、村人は貼り出された依頼をこなし入手した魔霧を通貨に変えることで生活している。
セフィー「ふーん、確かに元いた世界と変わらないかも。」
神様(自称)「ここからあの道を真っ直ぐ歩いた先に見えるあの町に早速冒険者ギルドがあるの、そこで名前を登録すれば即日から依頼を受けられるよ。あ...あと、そうだな。表世界と違う所と言ったら「表」より此処の敵は10倍20倍も強いから表と同じ感覚でいてあっさり命を落としちゃう冒険者達はたーくさんいるから、君達も気をつけて戦うよーにっ!!!
俺「聞きたい事は色々あるけど、まぁ、いいよ。まずは俺らで出来る事をやってみるよ。」
アニー「そうだな。まずはギルドを覗きに行くか」
セフィー「そうね。ありがとうございます、神様」
神様「いえいえ~ たまにちょろっとだけ顔出すから!まぁ、次この世界に顔出せるのは200年後になるかもだけど!はは!そうだ!あと最後の補足なんだけど」
俺「何?」
神様(自称)「ギャラクシーウェポン! あれ、転移した瞬間に発動強制シャットアウトされるから!もし使ってる子がいたら効果が切れてるから、もう一度更新してね!もうストック使い切ってたらドンマイ!じゃあね!ばいばーい!また会お……...」
!!??
アニー「なんだ?ぎゃらくしーうえぽん?」
セフィー「GXウェポン…あっ!噂には聞いたことあるわ。王都で聞いた話だけど幻のウェポンで能力発現中に使用者の能力値が最大値まで上がる特殊強化装備だとか」
アニー「パワードとは違うのか?」
※ パワード・・・魔法石が原料の武器の性能を上げたり、属性も付与できる装飾品。性能強化のみであれば白と黒のパワードのみがあり 属性付与のパワードは属性の色によってバラバラである。基本的にパワード職人が製造していて、冒険者は職人にパワードを自分の武器に装着して貰う。
セフィー「あれは武器強化。ウェポンは人間の強化装備で本来は戦闘時の一時的能力向上の為に使う。ウェポン自体はいくつか種類があって王都にも売られてる」
アニー「そうか、ウェポンってのは王都にはあったんだな。俺は今初めて知ったぞ」
セフィー「でも、そのGXウェポンは昔王都にも存在した特殊強化装備ウェポンらしく、噂によると能力値が最大で最高値まで上げれる性能で、持続時間も長く常時最強の状態を保てて使った当時の騎士はその力に驕ってしまいレベル遥か上の魔王の幹部を討伐しに魔王城へ向かうも持続時間が切れて引き連れた兵たちは返り討ち。騎士は幹部の攻撃で命を落としたそうよ」
い、命を…落した??こ、怖・・・・・・
セフィー「同じ騎士として情けない!ウェポンで強化された仮の能力値で幹部を倒しに征くなんて…正々堂々と自分の力で強くなってから向かいなさいよ…!」
ご立腹気味の顔を見て俺の顔は段々青ざめて行く
セフィー「まあ、それ以来ギャラクシーウェポンは王都で売られてないから私は実物みたことないんだけど」
アニー「確かにな。狡い手段など使わず強い敵には鍛錬し正々堂々と立ち向かわねば。お前もそう思うだろう?」
アニーは青ざめ気味の俺の方に顔を向けた。
「え?あ!あぁ!勿論!勿論!正々堂々と立ち向かえってはなしだよなあ!?」
アニー「ん?お前顔色悪くないか?」
「魔王まで連戦だったから疲れてるだけだよ。はは…」
アニー「そうか?なら良いんだが」
セフィー「でも、うちらにギャラクシーウェポンどころかウェポンを使ってる人間すらいないし、きっと別の冒険者が使ったんでしょうね。だから、忠告で話したのかも」
俺「あっ...う、うん、そうだな。あっ!ちょっと悪い!思い出した事が!」
俺はポッケに手を突っ込むとギャラクシーウェポンのボタンをそっと押した。
「あのー、ギャラクシーウェポンさん?GXモードって...」
再び俺の周りにGXの空間が展開された。
『はい、リク様のGXモード発動回数およびギャラクシーウェポンの利用権は消失しております。このアクセスは残り5秒後に終了いたします。ご利用ありがとうございました』
俺「ちょっっっっとまって!!!!!!!!
ほら!コインならそれなりに持ってるから!いくらでも払うから!!!お願いだから待ってくれええええ!」
セフィー「何を思い出したの?」
ギャラクシーウェポンのアクセス権が没収され現実遮断シールドも解かれ元の裏世界に戻った
呆然としている俺の目にセフィーの顔が映った。
俺「つ...」
アニー「つ?」
俺「詰んだ・・・」
俺はヘナヘナと崩れるように地面に座り込んだ。