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代償魔法  作者: 若君
第1章は44話まで更新、9/1で停止します。第二章は年内に公開できると思います。
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第八話 召喚魔法の仕組み

第八話 召喚魔法の仕組み


「あの殺人犯の死体を使わせてもらったわ…」

彼女は黒髪の少女をベッドに優しく寝かせた。

「代償として魔法を行使したの」


背筋を伸ばし、座っている金髪の少女を見つめる。

(確かに彼女にまとわりつく悪霊は以前より減っているが…)

「少なくともグレンヴァークが来るまでは持つでしょう」

とはいえ、死の可能性を完全に排除できるわけではない。


「そう…ですか」少女はゆっくりと口を開いた。

「良かった」微笑みながら、どこか安堵したような声。

せめて、これで一区切りつけられる。

「魔法使い様、お願いがあります…」


一歩一歩対面の席へ歩み寄る。

「『魔法使い』なんて呼び方はやめてくれ。身元がばれそうで気分が悪い」

椅子を引きながら座り、そう言った。


「ではどう呼べば?」

「エイブリン。二つ名は『辺境の魔女』」

ベッドに横たわる黒髪の少女を指差す。

「こっちはあのバカ弟子で、ラン。二つ名は『孤僻な魔女』」


「その二つ名は…?」金髪の少女は困惑した表情。

そんな名乗り方をしたら、魔法使いだとバレるのではないか?

「魔法使いになるための条件の一つよ」

「好きでつけたわけじゃない」とはいえ自分で選んだ名前に違いない。


「魔法使いの身元を確認するためのもの」

いわば識別番号のような存在だ。

「二つ名は唯一無二だが、名前は違うから」

「魔法使い同士で身元を確認するための方法」

「適当にでっちあげたら、すぐ偽物だとバレる」


「二つ名か…」少女は思案する。


「魔法使いについて教えてくれませんか?」

エイブリンをまっすぐ見つめる。

「魔法…とは一体何なのです?」


---

エイブリンは目の前の少女を見て、口元を緩めた。

「いいえ」笑いながら答える。


「今の状況なら話してくれるかと…」

少女の声は落胆している。

「ここまで非常識な行動を取った貴女に話すつもりはない」

テーブルのクッキーに手を伸ばし、一口かじる。

「一般人に魔法を触れさせる代償というものよ」


「王族に伝わる魔導書にはこう書かれている――」

王国が危機に陥った時、

勇敢な王族が自発的に犠牲になる平民を率い、魔法使いを召喚して王国を救う。

魔法使いは魔法の媒体となり、強大な力を得て、

王族の命令に従い、王国に平和をもたらす。


「魔導書ですか…」小さく呟く。

「本来、魔法使いにならなければ魔法は使えない」

一般人による魔法の乱用を防ぐためだ。

「だが魂を代償にすれば話は別」

つまり――自らの魂を媒体として魔法を行使する。


「通常、貴女たちは魔法使いではない。魔法を使えず、人を召喚することもできない」

「平民の自発的犠牲でもない。この魔法は成立しないはず」

最も重要な『魔法使いの媒体』が欠けているから。

「だが貴女は発動に成功した…おそらく術者が貴女だから」

金髪の少女を見る。

「ただ、真の代償は貴女ではなかった」


手を上げ、無形の鎖の束縛を感じる。

(だから魔法が不完全なまま…)

向かいの少女を見つめる。

(それでも魔法が発動したということは、彼女が真に自らの魂を代償に王国を守るため魔法使いを召喚しようとした…)

それは魔法使いの素質だ。


魔法使いはなりたいと思えばなれるものではない。

(ただ間違った方法を選んだだけ…)

残念なことだ。


「しかも、私は強大な力を得ていない」エイブリンが付け加える。

「でもあれだけの犠牲を払った魔法なのに…」少女の声には疑問が滲む。

「理論上、自発的犠牲なら数万人分の魂の力が得られるはず」

それならグレンヴァークを倒す力にもなる。

「実際には得られなかった…住民との合意がなかったから」

住民の力は得られない。

「だから失敗する可能性もある」


「それは…」少女の顔に不安が浮かぶ。

「だが心配はいらない。何とかする」

「私がグレンヴァークと対峙する間、彼女の面倒を見てほしい」

二人の視線はベッドの黒髪の少女に向けられた。


---

グレンヴァーク到着まで、あと一日。

「おい、聞いてるのか?」黒髪の少女が叫ぶ。

向かいには王国の王女。彼女はじっと窓の外の街を見つめ、微動だにしない。

頭の中は真っ白で、思考もままならず、ただ遠くを見つめているだけ。

「おい!」ランが声を張り上げる。


金髪の少女はようやく我に返り、彼女の方を見た。

「ごめんなさい、今なんて?」

微笑みながら謝る。

「敬語使うのやめろって言ってんだよ」

妙に気恥ずかしい。


「嵐『様』って呼ぶのを?」

少女は敬語で返し、微笑む。

「そう、それ、超変だって…(また言ってる!)」

「嵐様とお茶できるなんて初めてで、とても嬉しいです~」

金髪の少女はそう言い、空になったティーカップを手に取った。


「話題そらすな…」

ランは不機嫌そうに彼女を睨む。

「許して、最近頭がはっきりしないの」

カップを置き、傍らのベルを鳴らす。

メイドが入ってくる。


「嵐様は女の子なのに、男っぽい性格なんですね~」

笑いながらメイドにお茶を注いでもらい、スイーツに手を伸ばす。

「貴族ってのはみんなこんな風に話が飛ぶのか…」

ランは眉をひそめるが、スイーツには手を出した。


メイドが去り、バルコニーには二人きり。

「師匠と街を歩きたかったのに…」

スイーツを頬張りながら愚痴る。

「エイブリン様は『偵察』に行かれたのでは?」

厳密に言えば、散歩とは違う。

「俺を王女の相手に残しやがって…」

とはいえスイーツは確かに美味しい。


---

王国はすでに非常戒厳令下にある。

(グレンヴァークは明日到着…)

あと一日。

向かいの黒髪の少女を見る。

「俺も戦いたい…」ランが呟く。


「嵐様は強いんですか?」金髪の少女が尋ねる。

「もちろん――いや、師匠の方が強いか…」

「使える魔法も多いし、制御も上手い…」

独り言のように続ける。


(ではなぜ最初に召喚されたのは彼女で、二番目が…)

(もし住民が自発的に犠牲になった場合、魔法使いは数万人分の魂の力を得る…)

(実際には得られなかった)

エイブリン様は元々の力だけで戦わなければならない。


(嵐様はたった100人で召喚された…)

ということは…

追加の力なしで、嵐様の方が強いのか?

(魔法とは一体…)

(本当に不思議だ…)


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