第七話 王国を護る
第七話 王国を護る
私は師匠と共に普段着で街中を歩いていたが、町はすでに混乱に陥っていた。
「半分の人口が代償って、ランダムなんですか?」
周囲では泣き叫ぶ声が聞こえる。
「いいえ、年長者から順番よ」
師匠は淡々と答えた。
「もし自発的に犠牲になる者がいれば、状況は変わっただろう」
「だが民衆にこの事実を知らせると、事態は複雑になる」
自発的な者もいれば、拒む者も出てくる。
魔法が失敗する可能性も生まれる。
「だから通常は民衆に知らせない」
彼女の声は平静だった。
「貴族はどうなんです?」続けて聞く。
「彼らが犠牲になるかどうかよ」
「少なくとも、選択の権利はあるわ」師匠は言った。
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城門へやってくると、さらに深い混乱が広がっていた。
「グレンヴァークが来る!」
「貴族どもは我々を犠牲にするつもりだ!」
「家の老人たちがいきなり消えた!」
「どうやらあの王女は魔獣襲来の情報を公開したようね」
師匠は興味深そうに言った。
「彼女が国王になれば、いい王様になるだろうに~」
彼女の視線の先には、城門の騒動があった。
「師匠、もし王国から出たらどうなるんですか?」
私は好奇心から尋ねた。
「出られないわ」冷静な声。
「転送門も使えない」
彼女は王国から脱出しようとする人々を見つめた。
すると、何人かが突然地面に倒れた。
「私以外の者も、もう出られない」
「あれは……」私は遠くを見つめながら首を傾げた。
まるで全ての人間が、この王国に閉じ込められたかのようだ。
「この王女の願いが『王国を救う』だからね」
住民も当然王国の一部に含まれる。
「一度出てしまえば、王国の一員とは言えなくなる」
「じゃあ私も出られないの!?転送陣で入ったのに!」
「ええ、入るだけよ」
師匠は踵を返して歩き出した。
「待ってください!」私は慌てて追いかけた。
「師匠には勝算ありますよね?」
「まあね……」彼女は足を止めた。
「だが本当はこんな面倒ごとに巻き込まれたくない」
(しかも、一度召喚されたということは、今後も他の王国から召喚される可能性が……)
彼女は首に手を当てた。
(今回奴隷魔法が不完全だったとしても、今後もそうとは限らない……)
【あなたの番です】
「やはり、魔法使いは強すぎてはいけないのよ」ため息混じりに言った。
(それに、最初に召喚されたのは私ではなく……)
彼女は傍らの私を見た。
その時、私は広場の中央で虚ろな目をして立っていた。
ガラリ!
周囲の空間が突然ひび割れた。
「またか……」
複雑な表情で私を見つめ、空中に手を振った。
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王宮内。
大臣たちが王国の王女を取り囲み、激しく発言していた。
「王女陛下、衛兵からの報告では、住民が城門に殺到しているものの、誰も王国から出られないようです」
気絶するか、見えない壁に阻まれている。
「今や他の貴族たちも王宮に集まってきており、同様に出られません」
「国王陛下はどこへ行かれたのです!」
「魔法使いは今どこにいる!」
「王女陛下!」
一同の視線が彼女に集まる。
「公告を出しましょう……これは魔法を使うための代償です」
「国王の命と、半分の住民の命が代償となりました」
彼女は落ち着いた声でゆっくりと言った。
「そして私は残された住民と、この王国を守ります」
「全てが終わった後、私は……」
言葉を終える前に、彼女の瞳が虚ろになった。
「どうなさったのですか、ライラ様……?」メイドが心配そうに尋ねる。
「魔法使い……様……」ぼそりと言うと、そのまま倒れた。
「王女陛下!」
「ライラ様!」
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部屋の中。
ベッドの上で彼女はゆっくりと目を開け、天井を見つめた。
「またか……」再び目を閉じ、弱々しい声。
「この件が終われば、私も王族として……死ぬことになるのでしょう」
「だが……それまで持つだろうか……」
そう呟く。
「人を召喚しておいて、今さらそんな弱気なことを言うのか?」窓の外から声がした。
振り向くと、成熟した雰囲気のオレンジ色の髪の魔法使いが、眠る黒髪の魔法使いを抱きかかえ、窓枠から飛び込んできた。
彼女の足は空中を平然と歩くように、軽やかに床に着地した。
「すまないね、王宮に入るのに衛兵に止められたから、こうして入らせてもらった」
ベッドの金髪の少女を見つめる。
「近すぎたせいか……」低く呟き、抱いている少女に視線を移す。
「ねえ、王女陛下」
「取引をしよう」
「どんな要求でも聞きます!」
金髪の少女は慌てて体を起こした。
「私がグレンヴァーク解決をお願いしたのですから……」
「手段が強引で、不快な思いをさせてしまったかもしれませんが……」
「傷つけるつもりはなかったのです!」
「この件が終わったら私も――」
少女は俯き、言葉を続けなかった。
「グレンヴァークは私が解決する」
オレンジ色の髪の魔法使いの声には力がこもっていた。
金髪の少女は彼女を見上げた。
「だから、この子を解放してほしい」
鋭い眼差し。
「そ、それはもちろん……」少女は慌てて何か言おうとした。
「あなたたちの魂はすでに繋がっており、彼女も影響を受けている」
「虚ろな状態になると、彼女は魔法を使ってしまう」
(睡眠魔法で眠らせることはできるが、夢の中で魔法を使う可能性も……)
「魔法の使用で自滅する危険性が高い」
ベッドの少女は目を見開いた。
「私は何度も止めてきた」
こんな状況は初めてではない。
「それに、彼女がそれまで持つかどうかも……」
黒髪の少女をしっかりと抱きしめ、焦りの表情を浮かべる。
「今すぐ解きます!」金髪の少女が叫んだ。
「解けば、きっと……」
「無理よ」遮る。
「魔法を使うには代償が必要」
少女の瞳が激しく震え、目の前の魔法使いを見つめたが、言葉が出ない。
「それも魂を代償にした」
これは魔法の中で最も重い代償だ。
「基本的に、この契約は死ぬまで続く」
しかも転生後も縛られたまま。
「だが、もしあなたが彼女を召喚した願いがグレンヴァークを倒すことだったなら――」
「私はあなたの願いを叶え、グレンヴァークを倒す」
「その時は、この子を解放してほしい」
淡い笑みを浮かべた。
「彼女をこんな形で失いたくない」
金髪の少女は上を見上げた。
「わ……わかりました」
ごめんなさい……
私のせいで、彼らはこの王国の危機に巻き込まれた。
せめて、私にできる範囲で償いたい。
魔法使い――伝説だと思っていた存在が、本当にいたなんて。