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代償魔法  作者: 若君
第二章 魔法学院
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第六十三話 形なき命令


第六十三話 形なき命令


これまでのあらすじ:

ライラはビル13階相当の高さがある展望台から、のけ反るようにして真っ逆さまに落下した。

変装用の魔法帽子は空に舞い、彼女は杖を握りしめたものの、自分には全く飛行の才能がないことに気づく。

「やはり魔法の才能がないらしい」と内心で悟りながらも、体は垂直に加速し続ける。

地面に激突する寸前、エルリスが慌てて杖に跨り急降下。間一髪のところで手を伸ばして彼女を受け止め、その身を固く抱きしめた。極限の恐怖からか、エルリスの両手は無意識にライラの服を必死に掴んでいた。


---

「あ、あなた、正気ですか!」

エルリスは息を切らし、激昂した声を上げた。

その瞳には消えやらぬ驚愕と深い憂いが満ちており、肩は緊張で高く怒っていた。

見れば、腕の中の金髪の少女は、ただ平然とした顔で高所からゆらりと落ちていく魔法帽子を見つめている。


「今度こそ成功するかと思ったんです」ライラは異常なほど落ち着いた口調で言い、さりげなく頭をエルリスの胸にもたせかけた。

(心の準備も完璧だったのに……)地面に背を向けさえすれば、高所恐怖症は発動しないはずだ。彼女なりに考えた策ではあった。

彼女は手元の反応しない杖を見つめた。

(杖も離していない。魔法封印も解除したはずなのに、なぜ成功しなかったのか)


「私が受け止められなかったら、どうするつもりだったの!」エルリスは震える声で責め立てた。内側から湧き上がる恐怖で、声がかすかに上ずっている。

だが幸い、彼女は確かに受け止めた。張り詰めていた肩が、ようやくゆっくりと緩み始める。

「以前、師匠があのように飛び回る彼女を受け止めたのですから、私の程度など大したことないかと」

ライラは何食わぬ顔で言った。

彼女が指しているのは、エルリスの元弟子であるシャオのことだ。今は別の師匠の下で修行を続けているらしい。


「あれは私が全神経を集中させて、事前に予防していた場合よ!」こんな突発的な落下に毎回対応できるわけがない。エルリスは再び語気を強めた。

こんな危険な場面は二度とごめんだと思いながら、思わずうつむき、一抹の無力感を覚えた。

「飛行中に事故で命を落とす魔女だっているのよ」飛行魔法は依然として杖などの媒体を必要とする。

つまり、見習い魔女が空中で杖を離してしまえば、自衛の手段はほぼ無に等しいのだ。


「私は……」金髪の少女が口を開いた。

「こうしてランと一緒に死ねるなら、それも悪くないと思っています」ライラはどこか愉悦さえ帯びた口調で言い、頬をわずかに赤らめた。サングラスの奥の碧い瞳には、抑えきれない衝動が煌めいている。

落下した瞬間、成功も失敗も彼女は想定していた。

たとえエルリスが救ってくれなくても構わなかったのだ。


「こうすれば、彼女と永遠に一緒になれる」ライラの顔には、幸福とも呼べる陶酔の表情が浮かんでいた。ラ

ンと離れ離れになっていた時間が長すぎたせいか、先ほどの行動は無意識のうちに、ランを道連れにしたいという願いを秘めていたのかもしれない。


エルリスは険しい表情で彼女を見つめた。今の問題は、受け止められるかどうかという心配だけではない。

(まさか、主従契約の影響……?)彼女のこの異常な言動は、果たして本心なのか。

かつてのエイブリンのように、形なき欲望に操られているのではないか。

(以前彼女にまとわりついていたあの黒い気配はもう見えないのに、今の状況は一体……)

(だが主従契約を勝手に解除することもできない。さもなければ、エイブリンがまた危険にさらされる……)

どうすればいいのか。


「ライラ様……?」躊躇いと驚きを帯びた女性の声が響いた。

精巧なメイド服を着た一人の女性が遠くに立ち、手に提げていた材料袋を地面に落としていた。


---

「私に魔法が使えれば、すぐに現れてライラ様を受け止められたのに」マリアは腰をかがめ、地面に落ちていたライラの魔法帽子を優しく拾い上げた。

努めて平静を装っているが、その表情には主人に再会できた巨大な喜びが溢れ出している。

たとえ主従契約が解除されていても、彼女の忠誠心は微塵も揺るがない。


(あんな高い場所から落下されるライラ様を、ただ見ていることしかできないなんて……)走っていったのでは間に合わない。

その無力感と焦慮が、彼女を苛んでいた。

だが、今の彼女は指導者のいない見習い魔女。魔法を使うことなど叶わない。


「別に、誰かに受け止めてもらおうと思ったわけじゃないわ」ライラは差し出された魔法帽子を受け取り、再び深く被った。

位置を調整し、金髪の少年の姿に戻ると、淡々と応えた。

マリアの視線は絶えずライラの体を巡り、傷がないか細かく確認している。


「エイブリン様は元気?」金髪の「少年」が尋ねた。マリアをエイブリンの元へ送ってから、数週間が経つ。

「はい。風邪が治ってからは、買い出しした材料でブルーベリー料理をたくさん作って差し上げています」

マリアは報告したが、内心では「よくもまあ毎日飽きずに食べられるものだ」と思っていた。自分の料理の腕が試されているようで、さらなるレシピの研究が必要だと感じていた。

「今日も材料をたくさん買い込んできたところです」マリアは示そうとして、両手が空であることに気づいた。

先ほどの衝撃で、すべて地面にぶちまけてしまったのだ。


「大変! 卵も入っていたのに!」マリアは散乱した材料の前に膝をつき、絶望に暮れた。

飛行魔法が使えない彼女にとって、一軒一軒買い直すのは非常に不便なことだ。

「エイブリン様に、帰りがけに買ってきてもらえないかしら……」自分はメイドだが、移動の不便さはどうしようもない。飛べない魔法使いは、歩けないも同然だ。

特にエイブリンなら、きっと承諾してくれるだろう。来る途中もたくさん買って帰るように言われていた。


「だって、あの屋敷の中には、見渡す限り魔物の卵ばかりで……」マリアはあの屋敷での日々を思い出した。隅で正体不明の生物が蠢き、普通の食材など一つもない。

実験室のような部屋もあり、以前は魔物の卵で料理していたというが、その食感はかなり独特だったらしい。エイブリン自身もどれが食べられる卵か忘れてしまい、マリアに一つずつ試させている始末だ。

「だから、普通の卵を買おうと思ったんです」マリアは力なく言った。魔物の卵は扱いを少しでも誤れば、すぐに孵化して襲いかかってくる。彼女はもう二度と御免だった。


傍らのエルリスは、地面の惨状を見て軽く手を振った。袋の中の卵や材料は、瞬時に元通りになった。

「まあ、エイブリンにあげるものなら、仕方なく直してあげるわ」エルリスは少しツンデレ気味に言い、あくまでエイブリンのためであることを強調した。

「それから……」エルリスの視線はマリアに向いた。

彼女がちょうど良いタイミングで現れたと思ったからだ。


「ちょっとこちらへ」エルリスはマリアを連れ、少し離れた場所で話し始めた。

金髪の「少年」ライラは、首をかしげて彼女たちの後ろ姿を見送った後、自分が落下した高塔を見上げた。

「ランは現れなかったね……」

ライラは少し落胆したように呟き、無意識に胸に触れて、ランと繋がる魂の絆を感じ取ろうとした。


---

「あなたたちの間の主従契約は、もう解除されたのでしょう?」エルリスは、相変わらずあのメイド服を着ているマリアに尋ねた。

「それなのに、なぜあなたはまだ彼女にあれほどの忠誠を誓っているの?」なぜ依然としてライラに対する強い執着を保っているのか。

「もちろん、主従契約がなくなったとしても、私の心は永遠にライラ様のものだからです」マリアは真剣な眼差しで、一点の曇りもなく答えた。


「ライラ様は子供の頃から私がお世話し、育ててきたのですから」マリアは慈しむような、しかしどこか狂気を帯びた口調で回想に浸った。

(また母親マインドか……)エルリスは呆れ混じりの表情を浮かべた。なぜ他者に対してこれほどまでに強い感情を抱けるのか、彼女には理解しがたい。

「あの時の主従契約……」エルリスは問いを重ねた。その声には微かな躊躇が含まれている。

「今のあなたに、まだ影響はあるの?」かつてライラと契約を結んでいた者として、魔法の効果が完全に消えているのかを確認したかったのだ。


「あります」マリアはきっぱりと言い切った。

その感覚は、骨髄に深く根ざした信念のよう。

理性で抗おうとしても、体が勝手に魂に刻まれた指令に従ってしまうのだという。

エルリスは驚愕に目を見開いた。


「主従契約が解除されている今でも、だと言うの!?」エルリスの声が震えた。それは、彼女が最も恐れていた答えだった。ランとライラの現状を考えると、不安が波のように押し寄せてくる。

「一種の……彼女から離れられない感覚があります」マリアは頬を赤らめて認めた。だが、彼女はその依存を嫌っていないようだった。

「むしろ、あの主従契約を再び結びたいとさえ渇望しています……」


「ただ、時間の経過と共に、あの強制的な感覚は徐々に薄れていきます。今はもう一度契約しても構わないと思っていますけれど」マリアは補足した。離れる時の苦しみは強烈だったが、エイブリンの元に来てからは少し和らいだようだ。

屋敷に現れる魔獣の処理に追われていたせいかもしれないが。

「あの強制的な依存は、本当にたまらないんです……」マリアは、世界がライラ様だけになってしまうようなあの日々を、恍惚とした表情で思い返していた。


「だが、彼女はあなたに強制的な命令なんてしたことがないはずよ!」エルリスは激昂して問い詰めた。この強制的な信念はどこから来るのか。

(エイブリンも言っていた。命令されていなくても、無意識に彼女と友好的に接したいと思ってしまうと……)契約自体が、支配者の深層心理に従わせる受動的なコントロール機能を持っているのではないか。


「確かに、直接的な命令をされたことはありません……」マリアは回想した。

主従契約を結んだ後も、ライラが具体的な指示を下すことはほとんどなかった。

だが——

「私は自分のやり方で、彼女の力になりたいと渇望するのです」マリアは愉快そうに言った。命令がなくとも、主人の幸せのために自ら動く。


再会の喜びに浸る彼女の傍らで、エルリスの表情はますます沈んでいった。

(つまり、主従契約は締結者を次第に、ランに対して偏執的な執着を抱かせる……)それはあまりにも憂慮すべき結論だった。

(しかも、この影響は簡単には消し去れないというのか……?)


すべては、ランが最初にかけたあの願いに戻ってしまうのか。

【もう一人にはいたくない】

かつては亡霊が代償としてライラを縛ったが、今は主従契約が、彼女自身をランの側から離れられなくさせている。


---

エルリスはマリアを連れて、ライラがいた場所へ戻った。

しかし、あの「金髪の少年」はすでに若い女魔女たちに囲まれていた。

「あなたはどちらの師匠の弟子さんですか?」彼女たちは興奮した様子で、気品溢れる男性魔法使いを品定めするように見つめている。

「後でお時間ありますか?」

「お尋ねしますが……お付き合いされている方は?」

サングラスが、彼に触れがたい神秘的な魅力を添えていた。


「いますよ」金髪の「少年」は微笑んで答え、その瞳には遠くの存在に対する深い愛を湛えていた。

その幸福そうな微笑みが、かえって周囲を騒然とさせる。

「ですが、彼女はあまり私のことを好きじゃないみたいで……」少年は一転して、捨てられた子犬のような悲しげな表情を見せた。

それを見た魔女たちは、一斉に母性本能をくすぐられ、守ってあげたいという衝動に駆られた。


その時、ライラは戻ってきたエルリスたちに気づいた。

「エルリス師匠〜」彼女は軽やかな声で呼びかけ、まるで師匠の帰りを待ちわびていた弟子のようにはしゃいで見せた。

(嘘! 嘘! 嘘!)エルリスの体内の「嘘発見魔法」が、激しい警報を鳴らし続けていた。彼女は冷ややかな目で、人だかりの中の「少年」を見つめた。

その呼びかけに、周囲の視線も一斉にエルリスへと向けられる。

そこには、雪のような白髪をなびかせた、清冷な美しさを持つ魔女が立っていた。


「師匠、ずっとお待ちしておりました」金髪の少年は相変わらずの笑顔で言った。

(嘘! 嘘! 嘘!)警報は鳴り止まず、もはや煩わしいほどだ。

(こいつは一体どうなっているの。口を開けば嘘ばかり……)エルリスの目には、彼女が歩く嘘発生器のように映っていた。

ライラは人混みをかき分け、小走りでエルリスの元へ駆け寄る。その持続的な嘘の音に、エルリスは頭を抱えたくなった。


「まさか、彼の好きな人って……」周囲の人々は、並び立つ二人を見て勝手な推測を始めた。

「性格が正反対の二人ね……」

「七賢者のエルリス様が、あんなに年下の少年を。しかも少年の方は片思いなんて……」

二人の間の恋の可能性について、魔女たちの噂話は止まらない。


「行くわよ」エルリスは冷たく言い放ち、精美な紋様が刻まれた杖を召喚した。

「はい〜」金髪の「少年」は従順に応え、笑顔を崩さない。

「ライラ様……」マリアは名残惜しそうに見つめた。再会したばかりだというのに、また別れがやってくる。


「エイブリンの面倒をしっかり見てあげて」

ライラは軽快に杖の後ろに飛び乗り、慣れた手つきでエルリスのローブを掴んで身を寄せた。それはまるで恋人同士のような親密さに見えた。

「彼女は『ラン』にとって、とても大切な人だから」そう言い残し、エルリスが操る杖は空へと舞い上がり、次第に遠ざかっていった。


残された人々は、依然として先ほどの光景について熱心に語り合っている。

「ライラ様……」マリアは二人が消えた空をじっと見つめ、自分が飛べないという事実を、これほどまでに呪わしく思ったことはなかった。


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