第六話 魔法発動
第六話 魔法発動
少女はその場に立ち、傍らでメイドと国王が彼女を見つめていた。
「王国を……救う……」
少女の虚ろな瞳に、国王の言葉が反響する。
王族特有の魔法を使えば、国民の意思に関わらず、彼らを代償として魔法使いを召喚し奴隷とすることができる。
魔導書にはこう記されていた──
一人の勇敢な王族が、『自発的に犠牲になる平民』を率い、魔法使いを召喚して王国を救う。
(正直言って、本当に自発的に犠牲になる国民なんているのか……)
国王は内心で考えた。
(彼女は死刑囚を使っただけで失敗したというのに……)
こんな代償まで背負って。
(もしかしたら最初から『自発的に犠牲になる平民』など存在しなかったのかもしれない……)
彼は目の前の実の娘を見た。
(ひょっとすると、この文章の鍵は『自発的に犠牲になる王族』なのか……)
平民の同意など関係なく。
「ライラ、この魔法は『死ぬ覚悟』がなければ発動しない」
国王は低い声で言った。
「一人の『勇敢な』王族が、自発的に犠牲になる平民を率いて……」
その声が少女の耳元で旋回する。
「魔法使いを召喚……王国を救う……」
少女の足元に魔法陣が浮かび上がった。
「ライラ様!」メイドが叫んだが、魔法陣の中心に立つ少女には反応がない。
「救う……王国を……」少女はかすかに呟く。
どんな代償を払おうと、王国さえ救えればそれでいい。
白い光が次第に彼女の姿を飲み込んでいく。
(成功するのか……)国王は期待に胸を膨らませて見つめた。
(我がものとなる魔法使いを!)
彼は興奮を抑えきれなかった。
グレンヴァークを倒せる魔法使い、これほどの代償を払って召喚した魔法使い──
それはまさしく「最強の魔法使い」と呼ぶにふさわしい!
彼らは部屋の中央で広がる白光を見つめた。
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突然、白光は墨で汚されたように黒く染まり、無数の悪霊が魔法陣を食い破った。
砕ける──魔法陣は崩壊し、少女は地面に倒れた。
「ライラ様!」メイドは慌てて駆け寄った。
「失敗したのか?」国王は恐怖に震えながら呟く。
(いや、魔法は代償を払えば必ず発動するはず……)
「失敗」などということはあり得ない。
「明明魔法陣已經出現……」どうして途中で崩壊する?
少女の周りには無数の悪霊がたむろしている。
「この少女の魂は……」そのうちの一匹が口を開いた。
「我々のものだ!」
悪霊たちは残忍な笑みを浮かべ、メイドの方を見た。
メイドは恐怖で地面に座り込み、近づくことができない。
「彼女は代償として使えない」
悪霊たちが囁くように言った。
「魔法は発動した~」
「代償は移転する~」
彼らは背筋が凍るような笑い声を上げた。
突然、国王の足元に魔法陣が現れた。
「いや!やめて!死にたくない!」国王は恐怖に叫んだ。
彼の姿は白光に飲み込まれた。
「一人の国王と五万四百十三人の国民を代償に、召喚!」
「召喚!召喚!」悪霊たちは部屋中で咆哮した。
国王が消えた後、魔法陣の中に人影が現れた。
部屋で唯一意識のあるメイドは、眼前で起こっている全てを見ていた。
「出てきた!」悪霊たちは興奮して叫んだ。
光が散ると、菊色の長い髪をした魔女が魔法陣の中に立っていた。
「まさかこれは……」彼女は低く呟いた。
「召喚されたのは──『辺境の魔女』!」
悪霊たちは興奮して吼えた。
「彼女は……?」メイドは震撼しながら彼女を見た。
「師匠!」私は転送魔法陣で即座に現場に駆けつけた。
「来るな!」彼女は叫んだ。
地面から無数の鎖が現れ、彼女の四肢を縛り上げた。
「うっ……」首輪が首に巻き付こうとした瞬間──
砕ける──首輪は崩れ落ち、四肢を縛る鎖だけが残り、次第に透明で形のないものになっていった。
だがその圧迫感と制限は、依然として明確に感じられた。
「師……師匠……」私は緊張して彼女を見た。
「まったく、どうしてこのバカ弟子と同じ目に遭う羽目に……」
「バカじゃないです!」私は反射的に言い返した。
彼女は鎖の束縛を感じながら手を上げ、首に触れた。
「代償が不完全で、奴隷魔法は完全には発動しなかったようだ」
「だがこれは……」彼女は次第に薄れていく無形の鎖を見た。
少女の体からは無数の悪霊が漂っている。
「王国を救え!グレンヴァークを殺せ!」
「王国を救え!グレンヴァークを殺せ!」
「王国を救え!グレンヴァークを殺せ!」
悪霊たちは呪いのように叫び、最後には少女の体内に戻っていった。
彼女は地面に茫然としているメイドと、意識を失った少女を見た。
「はぁ……」長いため息をついた。
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ベッドの上の少女がゆっくりと目を開いた。
「私はまたどうしたの……」体を起こしながら。
「今度は無意識に眠ってしまったのか……」
「マリア?」彼女は周囲を不思議そうに見回した。
「私も行く!」
「駄目!」
「王宮で待ってなさい」
若い女の子と成熟した女性の声が、部屋の中で交錯する。
「だから言ったでしょう、魔法使いの戦闘力は強すぎてはいけないと」
彼女は紅茶を一口飲んだ。
「生活に必要な魔法だけ残しておけばよかったのに」
「でも師匠が強いんだから、弟子も弱くては!」
「強いからこそトラブルに巻き込まれるのよ!」
「昔話が始まるんですか!」
私は興奮して言い、その時傍らの少女が目を覚ましたのに気づいた。
「あ!起きた!」
私は瞬時に彼女のベッド前に移動し、押さえつけた。
「この野郎、よくも師匠に……」
私は怒りに震えながら彼女の襟首をつかんだ。
「やめなさい……」師匠が言うと、私の体は浮遊魔法で持ち上げられた。
「くそ、浮遊魔法……くそくそ!」私は空中で拳を振り回した。
「ごめんなさい……」少女はゆっくりと口を開いた。
「私……何をしたのか覚えていません……」
記憶を失う症状はますますひどくなっていた。
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「五万四百十三人の国民に、国王まで……」少女はテーブルに座り、信じられないというように呟いた。
王族の魔法は、国民を代償として魔法使いを召喚する。
「五万人……私が師匠を召喚した時はたった百人だったから、師匠は私の500倍強いんですか?」
私は真剣に考え込んだ。
「そういう計算じゃない」師匠が言った。
「王国の半分の人口と、王族の命一つだ」
本当に王国を救うなら、国民の半数以上の代償が必要となる。
「一命は一命、そういう換算だ」
王族は魔法を発動させるための起爆剤なのだ。
「とはいえ、どうやら君たちも国民の同意を得ていなかったようだね」
師匠は自分の首に触れながら言った。
「だから奴隷魔法は完全には発動しなかった」彼女は微笑んだ。
少女は緊張して彼女を見た。
「だが少なくとも──『グレンヴァークを倒す』という点は、おそらく実現できるだろう」
「どうやら、これが術者の最初の願いだったようだ」
魔法使いを奴隷にすることではなく、グレンヴァークを倒して王国を救うこと。
彼女はこの若い王女を見た。
(意識が朦朧としている中で、これほど強い信念を持っていたのか……)
「この意志で、体にまとわりつく悪霊を追い払えたらいいのだが」
「さて、今の私はこの王国に縛られた」
無形の鎖が彼女を縛り、王国から出ることを許さない。
「グレンヴァークが来るまで、私は王国から一歩も出られない……」
彼女は立ち上がった。
「王国の中を散歩してこよう」