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代償魔法  作者: 若君
第二章 魔法学院
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第五十三話 魔法と代償


第五十三話 魔法と代償


(内心がまったく落ち着かない……)エルリスは言いようのない焦燥感を覚えた。

彼女の視線は食卓でひときわ目立つ二組の猫耳から離せなかった。それらは時折、遊び心たっぷりにぴくぴくと動いている。

(なぜこんなマントを買ったんだろう……)それも黒白一対で。

(確かに、シャオがいないから、この格好でも問題ないけど……)

エルリスの手に持ったフォークは空中で止まったまま、心はすでに遠くへ飛んでいた。


(このタイプのマント、私も昔……こっそり試着してみたいと思ったことあるけど、今の年齢ではさすがに……)

目の前の二人を見ると、この年頃がこんな子供っぽいコスチュームを着るのは、よく似合っているように思えた。

(いっそセレンのように、子供の姿に変身してから着てみようか……?)

エルリスは自分自身のこの突然の思い付きにさらに心を乱され、フォークは相変わらず空中で静止したままだった。


「師匠?」嵐の声が彼女の思考を破った。

「食べないの?」嵐とライラが同時に、彼女の空中で止まった手を見た。

「い、いや、ただちょっと考え事をしてて……」エルリスはやや気まずそうに説明し、急いで皿の料理を口に運んだ。

(嵐が私を師匠と呼ぶのはちょっと変だな、彼女はエイブリンだけを師匠だって認めてるのに……)この疑問がエルリスの心の困惑をさらに深め、表情も複雑になった。


嵐はエルリスを観察し、彼女の機嫌が良くなる気配がないように感じ、思わず心配そうな表情を浮かべた。

「あとどのくらいで食べられる?」嵐は隣のライラに聞いた。

「たぶん、あと20分くらいかな」ライラは優雅に夕食を味わっていたが、頭の黒い猫耳が意思があるかのように、勝手にひくひく動いていた。

「長いな……」嵐は呟き、明らかにそれほど長く待たされることにいらだっていた。


「そういえば、やっぱ私が黒い方着るべきだったと思う」嵐が突然また言い出した。

「黒髪に白マントは、色のコントラストが強すぎて、すごく変」この相反する色調が彼女には不調和に感じられた。

「白がいいって自分で言ったじゃない。それに黒を着たら『これじゃ傍にいる私が黒魔法使いみたいじゃん』って。だから白を選んだんでしょ」

ライラは静かに、嵐がさっきまで自分で言ってたことを繰り返した。


「金髪に白マントなんて、真面目すぎるし、光明に見えすぎるよ……」嵐は言いながら、顔をしかめた。その真面目な服装がライラに似合うなんて想像もしたくない。

それにあの猫耳、全然彼女のイメージに合ってない。彼女の方が黒魔法使いなのに。

「今交換する?」ライラが提案した。

「ううん……」嵐は躊躇した。


エルリスは横で彼らのとりとめのない会話を聞きながら、早く食事を終えてこの落ち着かない場所から離れたいと思った。

だがなぜか、今日の夕食は格別に豪華で、すぐには終わりそうになかった。


---

「そろそろ時間だね」ライラが言い、ナプキンで優雅に口元を拭った。

嵐はそれを聞くと、すぐに興奮して跳び上がり、少し冷めたブラウニーの皿を取りに行った。

(本当に挙動動作のすべてが厳格な訓練を受けた貴族みたいだ……)エルリスは食事を終え、横で静かにライラを観察した。彼女がこの猫耳マントを着ている様子は、実に奇妙な違和感を覚えさせた。

(それにこの濃厚なチョコの香り、もうじき我慢できなくなりそう……)エルリスは内心でもがき、結局席を立つことにした。


「二人でゆっくり楽しんで、我先に部屋に戻るね」エルリスは言いながら立ち上がった。

するとブラウニーの皿を持った嵐が瞬間的にぽかんと固まり、頭の白い猫耳が目に見える速さで垂れ下がり、全身から濃い失望感が漂った。

「どうしたの?」エルリスは嵐が捨てられた小動物のような表情をしているのを見て、何かあったのかと内心驚いた。

彼女は全く問題が自分にあることに気づかず、ライラが手を伸ばしてそっと彼女の服の裾をつかむまで。


「これは特にあなたのために作ったんですよ、エルリス師……師匠」ライラは明らかにまだ人を「師匠」と呼ぶことに慣れておらず、この二語はやや不自然で、頭の黒い猫耳も不自然に揺れた。

「そ、そうなの……」エルリスはぼんやり応え、この突然の展開にまだ完全には気持ちが追いついていなかった。彼女はおとなしく席に座り直した。

「じゃあ……少し味見してみる」せっかくせっかくに作ってくれたんだから、義理としても味見すべきだ。


嵐はすぐに嬉しくなり、手際よく大きめの一切れの濃い色のブラウニーを切り分け、きれいなデザート皿に載せた。

「どうぞ」嵐はそのブラウニーの皿をエルリスの前に運んだ。

「まだ少し温かいかもです、気をつけて」ライラが横で優しく付け加えて注意を促した。

彼らの頭の猫耳は、この時とても息ぴったりに同時に動きを止め、まるで息を潜めて待っているようだった。


エルリスの視線はそのとても美味しそうなブラウニーから、じっと自分を見つめる二人へゆっくりと移った。

(ここまで来て、私がどんなに鈍感でも気づくはずだ……)

彼女は小さな銀のフォークを手に取り、注意深くブラウニーの一切れを刺し、ゆっくりと口元へ運んだ。

二人のとても集中した見つめる中、彼女はケーキを口に入れた。


「美味しい?」嵐は待ちきれずに聞いた。頭の白い猫耳は緊張と期待で再び制御不能に速く震え始めた。

エルリスは軽くフォークを置き、口を開いた。

「ありがとう、ラン、ライラ……」

「とても美味しいよ」彼女は顔を上げ、彼らに温かい、心からの微笑みを見せた。


---

(本当に……こうなると、私もエイブリンに何も言えなくなっちゃうね……)

エルリスは銀のフォークに残ったブラウニーを見つめ、また眼前のこの二人の気の利いた子供たちを見て、胸に複雑な温かいものが込み上げてきた。


「苦い!」一方、嵐は自分で作ったブラウニーを一口食べると、すぐに顔をしかめた。

「これ失敗作じゃん……」彼女は嫌そうに皿を押しやった。

「ブラウニーって元々こんな苦味のある大人の味なんですよ」ライラは優雅に自分の分を味わい、淡々と事実を述べた。

「食べられない……」嵐は不機嫌に愚痴った。彼女はどうしてもこんなに苦いデザートを受け入れられなかった。

これケーキじゃないよ!


「じゃあ私が食べる」ライラが進んで言った。

「本当!?」嵐はすぐに憂いが喜びに変わり、食物を無駄にするのは良くないし、食べてくれる人がいるのはもちろん一番だ。

「こうすれば、私たち間接キスしたことになりますね」ライラは言いながら、自然に嵐が一口食べたブラウニーを自分の前に移動させた。

「変なこと言うな!」嵐は瞬間的にしっぽを踏まれた猫のように、猛然とブラウニーの皿を奪い戻し、死んだように皿の中の彼女を畏怖させる濃い色のケーキを見つめた。


「くそ……自分で食べるから……」彼女は決意したように、また小さじ一杯を口に運んだ。

「やっぱ苦い……」でも、食物を無駄にしたら……食物を無駄にしたら……


エルリスは静かに彼らのやり取りを見ていた。

「ねえ、一つ聞いていいかな……」彼女が突然口を開いた。二人の頭の猫耳は瞬間的に同調して震えを止め、揃って彼女を見た。

「もし……私がもう一人弟子を取ろうとしたら……どう思う?」エルリスは少し緊張して彼らの反応を観察した。

「別にいいんじゃない?」嵐はどうでもよさそうな様子だった。

「ご自由にどうぞ」ライラはプロ並みの完璧な微笑みで返した。


「どうせ食べられないんだから、私にください」ライラは再び嵐の前の食べ残ったケーキを取ろうとした。

「ダメ!自分で何とかするから!」嵐は頑として皿を守った。

師匠エイブリンの作る料理に比べれば、このくらいの苦さなんてなんでもない!もう一口!

「くそ……師匠の料理だってここまで苦くないのに……」これが所謂「高級料理」の味ってやつなのか?

彼ら二人は新たな言い争いに陥り、エルリスの質問を忘れてしまった。


「はあ、本当に手がつけられないね……」エルリスは仕方なくため息をつき、皿の中のほろ苦くて後味の良いブラウニーを味わい続けたが、口元は思わずほころんでいた。

(こんなに早くまた元通りか……)だがこのブラウニー特有の濃厚な味わいは、彼女の心にさざなみのようにほのかな温かさを広げた。

エルリスは再び立ち上がり、嵐とライラが同時に言い争いを止めて彼女を見た。


「明日、一緒に出かけよう、ラン、そしてライラ」彼女は微笑んで宣言した。何か重要な決意をしたようだった。


嵐はエルリスを見つめ、またテーブルの上の空になったデザート皿を見た。

「気分……良くなったの?」彼女はやはり聞かずにはいられなかった。頭の猫耳は不安で少し垂れ下がった。

「うん」エルリスは軽く応えた。彼女は嵐の側に行き、優しく彼女の頭を撫でた。

続いて、彼女はライラの側にも行き、同じように軽く彼女の頭を撫でた。


「また明日ね。今夜はお利口にしてよ」エルリスは言い終わると、くるりと背を向けて台所を去った。


---

夜、嵐はベッドの端に座り、筆を手に脱いだ白い猫マントの裏地に複雑な魔法陣を描いていた。

「これで明日はこれを着て出かけられる!」嵐は興奮して独り言を言い、描き終わった魔法陣の白いマントを注意深く傍に置き、また黒い方を手に取った。

「うん、黒いのは……」彼女は少し躊躇したが、やはり筆を取って描き始めた。


「魔法使いも手で魔法陣を描くんだ」ライラは机に座り、嵐の集中した横顔を見ながら言った。

今までの授業ではこの部分には全く触れられていない。これも一種の「代償」なのか?

(前に嵐を召喚した時、マリアも地面にあの不気味な魔法陣を描いていた)けど魔法世界に来てから、実際に魔法使いが手で魔法陣を描くのを見たことはない。

ライラはぱらぱらと魔法書をめくった。


「魔法陣は高級魔法の分野だよ」嵐は顔も上げずに説明し、手の動きは流暢で正確だった。

「高級魔法の特徴は準備にとても時間がかかること」嵐は慣れた手つきで線を描いていた。

(魔法は一度発動すると、持続時間は最長だけど、戦闘中では使う機会はなかなかないね……)師匠に迫られて覚えたけれども。

(今じゃほとんど常用する人はいなくて、普通は高級魔女を目指す人だけが勉強する)

今でもこれに詳しいのは、ほとんどが経験豊富な年配の魔女だ。


「高級魔法か……」ライラの手中の魔法書のページが速く自動でめくれ、その後あるページで止まった。

(前に嵐が唱えたあの呪文も、高級魔法だったのか……)ページには高級魔法についての詳細な説明が書かれていた。


高級魔法は、術者自身が「創造」するものを魔法を動かす「代償」とするのが特徴。

これには発する言葉、書く文字、描く図形が含まれる。

これらの力を持つ文字や魔法陣を特定の物品に永久に付着させ、持続効果のある「魔法アイテム」を作ることができる。


「じゃあ、これらの呪文のような文字や魔法陣は、最初はどうやってできたの?」ライラは好奇心から追及した。

(結局、魔法そのものは誰が創造したんだろう……)

彼女は手中のこのありとあらゆる魔法が載った魔法書を見つめ、中には様々な体系が確立され、効果はそれぞれ異なるが、あり得ないような代償を払わなければならない魔法の説明で満ちていた。

「亡くなった魔法使いが創造したの。今の全ての魔法は、全部そうやってできたんだよ」嵐は言いながら、満足げに自分が描き終わったばかりの魔法陣を眺めた。


「魔法使いたちは命を終えた後、生前に創造し、持っていた全ての価値——知識、魔法、名前、さらには存在の痕跡までも——を材料として、一つまた一つと新しい魔法を生み出す」

「強い魔法使いであればあるほど、死後に創造できる魔法もより強力になる!」全ての魔法使いが生涯をかけても、死後には一つの魔法しか生み出せないのに。

「そして私たちが今使っているこの呪文と魔法陣のシステムは、とある偉大な魔法使いが創造したと聞いている」

だが彼女は自身の真の名と存在そのものを最終的な代償としてしまったため、今となっては彼女が誰だったのかを知る者はいない。


自身のすべてを、後世に遺す魔法と代償に変える。



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