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代償魔法  作者: 若君
第二章 魔法学院
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第四十七話 嵐の真の実力


第四十七話 嵐の真の実力


シャオは学院のひっそりとした片隅に一人隠れ、どこからか拾ってきた枯れ枝をしっかり握りしめていた。

彼女は深く息を吸い、精神を集中させると、体が不安定に、ゆっくりと浮き上がり始めた。

「少しは……この感覚にも慣れてきたかも……」彼女は独り言のように呟き、足が地面を離れる瞬間の微妙なバランスを感じ取った。

木製の装飾品を身につけることで、いつでも短時間飛行ができる魔法使いもいると聞く。

だが、長時間の飛行となれば、専用の杖に乗る方が安定していて疲れない。


「見て!あの二人だ!」傍らの廊下から人々の囁き声が聞こえてきた。

シャオはすぐに集中を解き、手にした枝を持って地面に降りると、こっそりと声のする方へ首を伸ばした。

黒髪の少年とサングラスをかけた金髪の少年が並んで廊下を歩いており、行く先々で周囲の好奇と探求の視線を集めていた。

「あの二人、元は『マグル』だったらしいよ」鮮やかな赤い魔法ローブを着た見習い魔女の一団がひそひそ話をしていた。


(南方の魔女か……)シャオはその目立つ赤いローブの色で見分けた。

『マグル』——魔法世界で生活したことのない普通人を指し、南方の魔女が使う言葉で、かすかな蔑みを含んでいる。

シャオは陰に隠れ、静かに観察した。

(他地域の魔女まで注目し始めた……)目立ちすぎだよ!これじゃ私にまで迷惑が及ぶことを、考えないのかな?

かつて自分が七賢者エルリスの弟子として入学した時、確かに衆目を集める焦点だったが。


「いつになったらあの面白い授業が選べるんだろう……」ランは足を引きずりながら、口調には退屈さが満ちていた。

「エルリス様は、我々が全ての理論授業を『通過』するまで待て、とおっしゃいましたから」

しかも彼女の「通過」基準は最高位の『A』で、他の等級は一切認めない。

「『A』ってどれくらい高いの?」ランは怪訝そうに尋ねた。

「魔法使いの採点基準はよくわかりませんが、とにかく……一位が『A』なのでしょう?」


「一位か……」ランは興味なさそうに繰り返した。

「興味なくなった?」ライラは首をかしげながら尋ねた。この前まで全校一位を取ると息巻いていたじゃないか。

「いや、ただ……そんなことして何の意味があるんだ?」ランは魂の問いを発した。

(一位を取って、その後どうする?)

「エイブリン様に褒めてもらえますよ」ライラが傍らで優しく囁いた。


――瞬時に興味津々!


「じゃあ一位を目指す!」ランはたちまち元気を取り戻し、目に闘志を燃やした。

「ええ」金髪の少年は傍らで微笑みながら頷いた。

「で、どうやって一位になるの?」ランは続けて尋ねた。上級魔女でありながら、学院のシステムには全く疎い。

「それは……私もよくわからなくて」ライラは正直に答えた。元「普通人」(魔法世界で生活したことのない者)として、彼女も魔女学院の採点機構どころか試験形式すら見当もつかない。


シャオは二人が並んで遠ざかっていくのを見つめ、指が無意識に力を込め、手中の枯れ枝を折りそうになった。

「くそ……私が飛行を覚えたところでどうなるっていうの……」師匠は結局私を去らせるだろう。何と言っても二人の入学は既定事実だし、七賢者エルリスは昔から弟子は二人しか取らない。

(それなのに私が……魔法にまるで興味のないやつに取って代わられようとしている!)

シャオは遠くからサングラスをかけた金髪の少年を睨みつけた。彼女への敵意は、実力のあるランへのそれよりも強いほどだった。


---

「魔法使用の原則について……」教授は教壇で滔々と語っていた。

「ふー……」黒髪の少年ランオンは教卓でぐっすり眠っており、傍らの金髪の少年ライラは溺愛するように、時折彼女の髪を優しく撫でていた。

周囲のクラスメートは好奇の視線を投げかけ、彼らの過度な親密な行動に驚き、ほとんど講義に集中できていなかった。


教壇の教授はこの騒動の源に気づき、眉をひそめ、さっとチョークを一本手に取り、編入してきたばかりの黒髪の少年が公然と熟睡する姿を捉えた。

「これは見習教授になって初めて使える……」彼は低声で呟くと、手首をふった。

「『チョーク投げの魔法』!」その白いチョークは命を吹き込まれたように、一直線の軌道を描き、ランへと疾走した!

「目標の額に当たるまで、決して止まらない!」教授はこれでさすがに目を覚ますだろうと思った。

チョークが命中しようとした瞬間、黒髪の少年はぱっちりと目を見開き、電光石火のように手を上げ、正確にチョークを掌中に収めた!


「お腹空いた……」ランはぼんやりと呟いた。手中には自分が阻止したチョークを握りしめていた。


教授はこの光景を見て驚愕した。彼の魔法が……こんなに簡単に破られただと?

「そ、そんなはずがない!これは普通の『見習い魔女』にできることか?」『上級魔女』だろう。

その時、時を同じくして終業の鐘が鳴った。

「お昼ご飯の時間ですよ」金髪の少年ライラが傍らで優しく言い、優雅に卓上の魔法書を閉じた。

「やっと……」黒髪の少年はだらりと机に伏せた。ちょうど寝起きで、慵懶な無気力な様子だった。


---

廊下で、二人の少年が並んで歩いていた。

「ランオンは昨日よく眠れなかったの?」金髪の少年ライラはランが対外的に使う偽名で呼びながら、気遣って尋ねた。

朝いくら呼び起こそうとしても起きてこない、というかほとんど毎日そうで、まさか寝坊の癖まであったとは。

「別に、よく眠れたよ」ランは言いながら、さっと浮遊する魔法書を召喚した。


「これを試してみたかったんだ」ランは魔法書を広げ、その中の一頁をライラに見せた。

「授業中に『飛来するチョークを絶対にキャッチする』魔法だよ!」ランは実験成功の興奮表情を浮かべていた。

「代償は、授業中に連続三十分以上眠り続けること」途中で起こされると無効。

彼女は得意げにその魔法の横にチェックマークを入れた。


「普段はなかなか使う機会のない魔法だね~」ランは愉快に言い、明らかに機嫌が良くなっていた。

「ここなら以前試す機会のなかったたくさんの魔法を試せそう!」

ランは興奮して魔法書のまだチェックの入っていない、試すのを待つ様々な魔法に目を通した。

「次は何を試そうかな~」彼女は新しいおもちゃを見つけた喜びに浸っていた。


「エルリス様は学院で魔法を使うことを固く禁じてたんじゃなかったですか?」ライラは傍らで優しく注意し、珍しくそうして浮かれるランを優しい眼差しで追った。

「こういう……まったく魔法に見えない魔法なら、いいでしょ?」ランは愉快に言い訳した、それに—

「それに魔法を使わなくたって、徒手でチョークはキャッチできるし」そのくらいの自信はある。


---

「あなたたち、授業中に魔法を使ったわね?」

エルリスは部屋の中央に立ち、手にはたたきつける準備のできた木製の杖をしっかり握り、眼光は氷の如く鋭く、口調は冷厳だった。

「してない……」ランはうそぶいた。

コン!コン!

杖は容赦なく叩きつけられた。


「うっ……でもわざわざ魔法に見えないような魔法を選んで試したのに!」ランは正座して、叩かれて痛い頭を揉みながら説明しようとした。姿勢が説得力皆無だったが。

「真面目に授業を受けなさい!」エルリスは見下ろすように彼らを見下ろし、口調は厳しかった。

「教授たちが大勢あなたたちの『事績』を報告しに来たわ。特に某人在授業中公然と寝た件について」

「なぜ私まで叩かれるんだ……」ライラも頭を揉みながら、小声で愚痴った。


「もちろんあなたが彼女をちゃんと管理してないからよ!」エルリスは気短に言った。

とにかく、あなたたち二人は今連帯処分、一蓮托生よ。

「まあ、でも他人が魔法を使うのを見るのは、なかなか面白いです」ライラは淡々とした口調で言い、ランを止める気は全くないようだった。

(自分では使いたくないけど)


「とにかく、学院にいる間は、絶対にこれ以上魔法を使ってはいけません」エルリスは「さっ」と杖をしまい、口調に疑いの余地はなかった。

「わかりましたか?」彼女の冷たい視線が二人を通り過ぎた。

ランは不満そうに彼女を睨んだ。あの一日魔法を使わないと全身がおかしくなる病気が、またぞろむずむずし始めた。特に眼前の彼女に指示されているのは、自分の師匠ではなく、所詮「他人」だ。

「魔法使いが魔法を使うなってありえない!」彼女はついに我慢できず、大声で抗議した。


「あなた今の身分はただの『見習い魔女』って忘れたの!?」エルリスは厳しく応えた。

「魔法学院での自分の立場をわきまえなさい!」

(それに名目上私はまだあなたの師匠よ。あなたがどんな問題を起こしても、最後は全部私の責任になるの!)

「最も基礎的な『初級魔法』だけを使うことを許可します」エルリスは少し譲歩し、一線を画した。

だが今日使った「チョークキャッチ魔法」でさえ、中級魔法の範疇に入る。


「嫌!嫌!嫌!」ランは激しく反抗した。すねている子供のようだった。


「じゃあここにいる意味なんてない!いっそ師匠の元に帰る!」

私は師匠のことを考えないように努力してるんだ!

それに今日、師匠は風邪を引いているのに、私は傍にいてあげられない!

(なぜみんな私をコントロールしたがるの、私の行動を制限したがるの……)


「これ以上エイブリンに迷惑をかけないで!」エルリスは一時の焦りから、口走ってしまった。この言葉がランにどれほどの殺傷力があるか気づかずに。

ランは瞬時に沈黙した。

あの漆黒の瞳は突然全ての輝きを失い、底知れぬ虚無のようになった。

周囲の世界は、眼前のエルリスと共に、彼女の眼中であたかも瞬時に全ての色を失い、果てしない黒と白だけが残った。それは彼女の絶望的な眼眸のようだった。


エルリスはすぐに自分が失言したことに気づき、慌てて口を押さえたが、時既に遅し。

ランはさっと机の上の魔法帽をつかみ、一言も発さず、振り返りもせずに部屋から飛び出していった!


「ラン……」エルリスは彼女が速やかに消え去った入口を見つめ、張り詰めた神経が瞬時に緩み、それに取って代わったのは満腔の自責と後悔だった。

「本当に……私はいったい何を言ってしまったの……」エルリスは疲弊して自分の魔法帽を手に取り、すぐに追いかけようとした。

その時、ライラが彼女のローブの裾を引っ張った。

「私も一緒に行きます」金髪の少年は顔を上げ、顔には微笑みを浮かべていたが、眼差しは異様に強く、拒否を許さなかった。

「駄目よ」エルリスは厳しい眼差しで返した。


---

「もう夜なのに……どこを探せばいいの?」

エルリスは杖に乗り、夜空を高速飛行していた。寒風が彼女の雪のような長い髪をなびかせる。

後部座席には金髪の少年ライラが座っている。彼女は手にエルリスの覗き見魔法が使える魔法書を持ち、ページにはランの姿が映し出されていた——彼女はどこかで絶え間なく両手を振って魔法を行使している。

だがぼやけた画面だけで、何の音も聞こえない。


「どう?どこにいるかわかる?」エルリスは前方で焦って尋ねた。

彼女たちは「空中都市」と謳われる魔法都市を離れ、広大な地上世界へ下降中だった。

「具体的な場所はわかりません。ただ森の中らしいということだけ」ライラは冷静に答えた。しかも画面中のランは狂ったように魔物と戦っている。

(ランが全力で魔法を行使する時って……こういう姿なのか……)ライラはページ中のその姿を凝視した。音は聞こえないが、その戦闘場面は異様に激烈で血腥いとさえ言え、魔獣の群れの中で優雅に致命的に舞う戦闘魔法使いのようだった。


「森……この大陸の四割は森なのに……」エルリスは呆れたようにため息をついた。足下に広がる夜色の中で連なり起伏する、果てしない黒い樹海を見下ろし、無力感を覚えた。

(エイブリンに頼めば……)ランの師匠として、彼女には正確にランの位置を特定する方法があるかもしれない。

だがエルリスはすぐにその考えを捨てた。

(駄目だ……それに彼女は今日風邪を引いているし……)彼女は杖に乗り、内心は焦慮と煩悶でいっぱいだった。


「とにかく、今この方向へ進み続ければ、彼女を見つけられるはずです」

ライラは異様に平静に言い、魔法書をエルリスに返した。

「前方?どうしてそんなに確信できるの……」エルリスは本を受け取り、疑念に満ちた口調で言った。

ライラは手をそっと自分の胸に当てた。

「これで」彼女は微笑んだ。その笑みの中には、エルリスには完全には理解できないある種の感情と確信が潜んでいた。


---

深い森の奥地で、爆発音と魔物の咆哮が絶え間なく響き、夜の静寂を破っていた。

「魔女は自然の万物を感知し駆動できる……」黒髪の少年ランはその中に立ち、両手を振るい、交響楽を指揮する指揮者のように優雅で力に満ちていた。

「水、火、風、土、陽光、植物、鉱物……」

彼女は眼前に押し寄せる魔物を見つめ、随意に手を上げ、軽快な指パッチンを一つ打った。


ドゴ―――!

激しい爆発が瞬時に周囲の魔物を粉砕した!炎天を衝く火炎が、彼女の無表情な顔を照らし出した。

周囲で驚いた光の精霊たちが慌てふためいて逃げ惑う。

ランは戦場の中央に静かに立ち、足下の土地が生き物のように蠕動し、変形し始め、魔物の残骸を音もなく飲み込み、地底へ引きずり込んだ。


周囲の植物は彼女の意志の下で狂ったように繁殖し、巨大化し、太い蔓は大蛇のようにうねり、正確に絡みつき、接近しようとする魔物を捕獲した。

また一つ軽快な指パッチン——

さらに炽烈で狂暴な炎が彼女の面前で奔騰し燃え上がり、全てを飲み込んだ。

「これで……七大魔獣を倒す……」ランは眼前に躍動する炎を見つめ、その漆黒の瞳は底知れず、あたかも世の全ての光を飲み込めそうだった。

「私は自分のやり方で……師匠を助ける……」彼女は誓いを立てるかのように低声で呟いた。


(グレンヴァルドが片付けられたばかりだ。短時間ではまたその跡を追うのは難しいだろう……)ランは魔法書を召喚し、指先でページをなぞった。

「なら……ヴェルグリンを探すか……」

  『飛天魔獣「ヴェルグリン」。

  伝説:大量のカラスが王国上空を旋回する日こそ、審判が下る時である』

ランは魔法書の記載を見つめ、真剣に次の一手を考えた。


その時、エルリスとライラがようやくこの森に駆けつけた。

ランは何かを感じ取ったように、ゆっくりと振り返り、彼女たちを見た。

あの瞳——最も深い夜のように、虚ろで、万物の終わりを思わせるブラックホールのようだった。

彼女の此刻の視界では、全てのものが色を失い、単調で絶望的な黒と白だけが残っていた。それは彼女の暗黒の瞳孔のようだった。

彼女の記憶に最後に鮮明に残る色は、あの彼女の母を飲み込んだ、灼熱で残酷な真紅の大火だけだった。

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