表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
代償魔法  作者: 若君
第一章は44話まで、第二章毎週月曜日に更新
41/54

第四十一話 主従契約


第四十一話 主従契約


台所では、暖かい黄色の明かりが湯気を照らしていた。

魔法帽をかぶった黒髪の少年「ランオン」が、鍋やフライパンの間を手慣れた様子で動き回っていた。帽子の先端が彼の手際のいい動きに合わせて、頭の上で微かに左右に揺れている。

「ランオン、手伝おうか?」金髪の少年「レイ」が調理台のそばに寄り、優しい口調で言った。

「いやだ!あっち行け。」黒髪の少年は苛立った口調で、明らかに相手に近づかれたくなさそうだった。


(あの二人の男の子…何してるんだ?)シャオは食堂の隅に座り、台所の二人のやり取りを困惑しながら観察していた。

(あまりにも親密すぎる…)普通じゃない。

(それに室内でも魔法帽を絶対に脱がない…)本当に奇妙なこだわりだ。

(もしかして辺境の地の習慣なのか?)


「はあ…」シャオはため息をつき、これ以上台所の二人の「少年」(?)の奇妙な行動を推測するのはやめた。

彼女は自分の両手を広げた。掌には杖を握りすぎてできた擦り傷が広がっていた。エルリス師匠が調合した薬草軟膏を塗ったので、三日でかさぶたになるはずだが、こっそり練習して師匠に隠していた長年の古傷の痕が、まだ掌に浅く残っている。

(枝で練習すると、前みたいに手が痛くないような気がする…)シャオは心の中で考えた。暖かい室内に戻るたびに、擦りむいた場所がじんわりと痛み始める。

でも、ボロボロの枝を持って飛ぶ?それはあまりにも滑稽で、彼女は心の底からそんな馬鹿げた飛行方法を受け入れられなかった。


「でも三年も経つのに…」シャオは力なく冷たい木製の食卓に突っ伏し、両手で頭を抱えた。

台所からは相変わらず二人の言い争い声が聞こえてくるが、彼女はもう気にしていなかった。

(聞いた話では、初級魔女を卒業するのに最長でも二年はかからないって…)これは他の仲間にとってはごく普通のペースだが、彼女だけが、詰まった歯車のように、進んでいない。

必要な知識はすべてわかっているのに、ただあの忌々しい飛行魔法が覚えられない。

(まさか…本当にこのまま家に帰るしかないのか?)エルリス師匠のもとを去り、みすぼらしくあの家に戻る?家の兄や姉は、とっくに中級魔女に昇格し、上級魔女の資格を目指していると聞いた。


(なのに私…初級のまま…)

いや、今回は師匠のもとから「卒業」できなければ、「見習い魔女」の段階に戻されてしまう。

(一番基礎的な魔法すら使えない状態に戻る…)この認識が彼女の胃を締めつけた。

最高の賢者に弟子入りしたのに、なぜ私はここで詰まっている?一体どこが間違っているんだ?

赤毛の少女は顔を腕に深く埋め、悩みで息が詰まりそうだった。


台所で、ライラの視線が食堂に突っ伏している影(厳密には彼女の「先輩」)を掠めたが、それ以上は留まらなかった。

かつての彼女なら、礼儀正しく声をかけ、気遣ったかもしれない。

だがここでは、ランのそばでは、そうした行動はすべて不要だと感じた。

彼女の視線は料理に集中するランだけにしっかりと固定され、脳裏に渦巻くのもランに関連する思考だけだった。


「何を騒いでいるんだ?」エルリスの声が台所の入り口から聞こえた。どうやら遠くから騒ぎ声を聞きつけたようだ。

彼女は食堂で元気のないシャオを一瞥し、台所で対峙するランとライラを見た。

「夕食を作ってる。」ランは顔も上げず、冷たい口調で言った。

「こいつがずっと邪魔するんだ!」すぐに告げ口する子供のように、そばの金髪の少年を指さした。


「ただ手伝いたかっただけです。」金髪の少年ライラは弁解した。

「基本的な食材の扱いは、だいたい覚えました。」――マリアに教わったのだ。

今や彼女は理由もなく蠢く魔法食材に対応できる。ただし包丁や人を見ると隠れる数種類には、まだ手を焼いていた。

「要らない!」ランはきっぱりと断った。


さっきまでランは釣竿を持ち、切ったニンジンの塊を餌にして、戸棚の奥に隠れている同類を釣ろうとしていた。

彼女はこれを「同類を惹きつける」常套手段だと主張し、まずはニンジンを一匹捕まえることが前提だと言った。

緊急時には「キュウリ」で一時的に代用することも可能だ。

一匹捕まえれば、切ったニンジンを使って他の隠れている連中を引き出せる。

――以上が、「魔法ニンジン」に対する標準的な手順だ。


「ランが作ってるのか…」エルリスは少し乱雑だが活気のある台所を見回し、再びしおれたシャオを見た。

「何しろ人数が増えたから、いつもシャオに頼らなくても済む。」彼女はなぜか安心した。

しかしすぐに、彼女の視線は隅に静かに立つメイドのマリアを捉え、相手が軽く会釈するのを見た。

(まだいるのか…魔女見習いにメイドが付き添うなんて…)エルリスは心の中でまだ納得できていなかった。


「君、ちょっと来い。」エルリスがマリアに言った。メイドは従順に彼女の後について台所を出た。

「君たち二人、これ以上台所で言い争うなよ。」エルリスはそう言い残すと、マリアを連れて廊下の角で姿を消した。


---

静かな廊下は、少し薄暗かった。

「お前の師弟契約を見せろ。」エルリスはマリアに手を差し出し、疑う余地のない口調で言った。

マリアはためらわず、指先を軽く触れると、微かに光る紙が空中に現れ、差し出された。

(白い…)エルリスは少し驚いた。黒魔法を象徴する色だと思っていたのに。

彼女はその真っ白な師弟契約を受け取り、師匠の名前を見た。

(見覚えのある名前…)あまり愉快ではない記憶を呼び起こす名前だった。


「今使っている名前は偽装か…」エルリスは述べた。契約書の名前とマリアが今使っている呼び名は一致していなかった。

彼女は指を伸ばし、紙の上のマリアの本名に触れようとした。

「パチッ!」見えない力が彼女の指を激しく弾いた!

同時に、紙の上の本名が瞬時に何本もの微かに光る鎖でぎゅっと縛られ、封印された!


台所の中。

「あらあら、また来るのか…」金髪の少年ライラが軽く呟き、これから来る面倒事に少し嫌気がさした。

ランは彼女を怪訝そうに見たが、手に持ったフライパンを振る動作は止めなかった。

ランが不思議に思った瞬間――


「レイ!今すぐこっちに来い!」エルリスの叫び声が廊下を貫き、家中に聞こえる威厳で、金髪の少年の偽名を呼んだ。


「夕食が終わってからでは?」ライラが応えながら、ランが両手が塞がっていて拒否できない隙に、後ろから黒髪の少年をぎゅっと抱きしめ、頬を相手の首筋に押し当てた。表情は隠しようのない満足と愛着だった。

「ダメだ!今すぐ来い!」廊下からはっきりとした、逆らえない命令が飛んだ。

ライラの顔の喜びが次第に薄れ、代わりに薄い氷のような不機嫌さが浮かんだが、ランを抱く両腕は頑なに離さなかった。

ランは彼女を横目で見た。


「師匠が呼んでるよ。」ランは言った。口調には純粋な困惑が混じっていた。


「あの人って『お前の』師匠だろ?」ランは首をかしげ、澄んだ黒い瞳に理解できないことがいっぱいだった。

ライラは自分の姿を映すその瞳をじっと見つめ、しばらくして、ようやく手を離した。

「今行きます。」金髪の少年は背を向け、食べ物の香りが漂う台所を後にした。

ランは彼女の後ろ姿を見て、困惑したようにまばたきし、すぐに振り返って鍋の料理に集中した。


---

「これは何だ?」エルリスは不気味なオーラを放つ黒い紙を摘み、眉をひそめて、目の前の金髪の少年を問い詰めた。

「主従契約です。」ライラは淡々と答えた。むしろ相手の今の詰問が、ランと過ごす貴重な時間を邪魔していると感じ、大げさすぎると思っていた。

「そんなこと聞いてない!」エルリスは高まる怒りを必死に抑え、歯の間から声を絞り出した。

「なぜ彼女にこんなものをサインさせたんだ!」


これは無条件服従の契約だ!その本質はエイブリンの場合と全く同じ!唯一の違いは、目の前のこれが「自発的」にサインされたものだということだ。

「彼女を私のそばに置くには、これが唯一の方法でした。」ライラは説明した。まるで反論の余地のない事実について話しているかのように。

「他の方法もあっただろう…」エルリスは怒りを抑えきれずにいた。これは明らかに最も過激で、最も取るべきでない方法だ!

「それに彼女は自発的にサインしたので、強制はしていません。」ライラは説明を続け、これはエイブリン様の場合とは全く異なり、双方が認める関係だと強調した。


「どうかご心配なさらないでください、エルリス様。」マリアもそばで同調し、口調にはむしろ狂信的とも言える興奮さえ混じっていた。

「これらはすべて私の心からの望みです。」彼女は滔々と語り、目には異様な光が宿っていた。

「私はライラ様のそばにいたいのです。」彼女は心の欲望を露骨に口にし、この契約がライラ様が自分を必要としている何よりの証拠だと――しかも今回は「魔法使い」として必要とされていると――思っているようだった。


「これは私たち双方が認める関係であり、ご介入いただく必要はありません。」ライラは礼儀正しく応答したが、その礼儀の裏には全ての人に対する等しい距離感があった。

ランに対してのみ、彼女はこの偽りを脱ぎ捨てる。それがまさにランが彼女にとって特別である証だった。

エルリスの顔色は一瞬で雷雲のように曇った。

目の前の二人がこの歪んだ関係を「一致して認めている」ことに、理解できないほどの荒唐無稽さと強い拒絶感を覚え、この契約自体が象徴する黒魔法の本質は言うまでもなかった。

彼女は突然手を上げ、ライラに向けた。


同じ黒い契約書が、ライラの胸中から見えない力で引き抜かれ、エルリスの掌の中へ飛び込んだ!

エルリスは二枚の黒い紙を重ね、ためらいもなく、両手で力強く――

ビリッ!耳障りな裂ける音が響いた!

彼女は自らの手で、歪んだ関係を象徴するその契約を粉々に引き裂いた!黒い紙片は不吉な灰のように、冷たい空気の中に舞い散った。

「お前の師匠として、絶対に認めん!」エルリスの声は氷のようで、彼女の吐き気を催すこの繋がりを断ち切った。


黒い紙片が地面に舞い落ち、すぐに燃え尽きた灰のように、急速に色を失い、消えていった。

契約の魔法の効力もそれに伴って完全に消滅した。


ライラは静かに地面に消えていく最後の黒い痕跡を見つめていた。

それから、彼女は顔を上げ、目の前のエルリス――名目上の導師――を見つめた。

「今後は、この類の魔法の使用を禁ずる。」エルリスの目は冷たく鋭く、厳しい警告が刻印された。

(ああ…解除できるのか…)ライラの心にこの考えがよぎった。

(ランを縛るのにこれを使うのは無理そうだ…)かすかではあるが、わずかな喪失感がひそやかに広がった。

(他の方法を考えないと…)


---

「戻った?」黒髪の少年ランは湯気の立つお皿を運びながら、重苦しい空気の三人組を見た。

「夕食できたよ。」彼は彼らを怪訝そうに見つめた。

エルリスは歩み寄り、手を伸ばしてランがかぶっている魔法帽の頭頂を優しく撫でた。

「よくやった、ランオン。」口調は少し柔らかくなり、すぐに自分の席に向かって歩き去った。


「おお…」師匠以外の人に頭を撫でられた?ランは奇妙な違和感を覚えた。

(違う…あいつにも撫でられたことある…)ライラに無理やり頭を撫でられた場面が脳裏に浮かんだ。毎回嫌々だったけど。

(まあ…そんなに珍しくもないか。)わずかに芽生えた珍しさはすぐに消えた。


「いただきます!」エルリスが宣言した。


---

夕食後の静かな夜。

「俺、あいつと同じ部屋に寝なきゃいけないのかよ!」ランの抗議の声が廊下に響いた。

「一度に三人も弟子を取ることは滅多にないんだ…」エルリスはこめかみを揉みながら、呆れた口調で言った。明らかにこんな宿泊危機は想定外だった。

「我慢しなさい。」屋敷には確かに弟子用の部屋は二つしかなかった。

「それにお前は今『男』(の姿)だし、」エルリスは念を押した。

「シャオと同じ部屋にはさせられないだろ?」基本的な男女の区別はつけなければならない。理論上は何か「アクシデント」が起きることはないはずだが(もし起きたら、それはそれで驚きだ)。


「部屋に戻ろう、ランオン。」金髪の少年ライラは優しい微笑みを浮かべ、手を差し出した。

「いやだ…」抗議は無視され、ランはライラに引っ張られて部屋に入っていった。


エルリスは彼らが閉めたドアを見つめ、シャオも黙ってそばを通り過ぎ、自分の部屋に戻っていった。

「今日はこれでいいか…」エルリスは疲れたように呟き、自分の寝室へと歩き去った。


---

深夜、万籟寂として、屋敷は眠りの呼吸に包まれていた。

トン、トントン。

微かだがはっきりとした叩く音が、ある寝室の窓ガラスを軽く叩き、浅い眠りのライラを目覚めさせた。

「ライラ様…」マリアの顔が冷たい窓ガラスにへばりつき、低く呼んだ。

本来なら屋敷を離れているはずの彼女が、今はどんな方法でこの高層の部屋の窓枠に登ったのかわからない。

窓の外では木の枝が夜風に微かに揺れていた。


ライラはベッドから起き上がり、金色の長い髪が滝のように背中に流れた。闇の中で、彼女の澄んだ青い目は窓の外の人影を正確に捉えた。彼女は音もなくベッドを降り、素足で柔らかな絨毯を踏みしめ、窓辺へと歩いた。

「どうした、マリア…」ライラが窓を開けると、涼しい夜風がすぐに室内に流れ込み、彼女の輝く金髪を揺らした。

「お願いです…もう一度私と主従契約を結んでください。」マリアは切迫した口調で懇願し、目には強い渇望と期待が燃えていて、瞳からあふれんばかりだった。


ライラは静かに彼女を見つめ、手軽に青白く光る魔法書を召喚した。彼女は素早くページをめくり、微かに光るページを指でなぞったが、ほんの一瞬で「パン」と本を閉じた。

「結構です。」拒絶は簡潔で明快だった。

窓の外のマリアはまるで雷に打たれたように、瞳孔が激しく震えて縮んだ。

「で、でも…ライラ様…」彼女は焦って弁解しようとしたが、声は喉で詰まってしまい、かすれた音だけが残った。


「鎖で縛られました。」ライラは淡々と述べた。ページの上で再び明確になったが冷たく無情な魔法文字から確かめた。

「どうやら以前は、彼女エルリスがこの魔法の存在に気づいていなかっただけのようです。」

(でも…これで彼女が全能ではないことが証明された…)特に黒魔法の分野では、その存在を知っている者だけが封印を施せる。

(時間がある時にもっと深く研究してみよう…)ライラは魔法書を虚空に収めた。どんな魔法にも代償が必要で、気ままに使えるわけではないことをよく知っていた。

特に黒魔法の代償は、普通の魔法よりはるかに高く計り知れない。


「今はやめておきましょう。」ライラは結論を出し、視線は思わずベッドで眠るランへと向いた。

ランを永遠に自分のそばに置く魔法を見つけるのは、思っていた以上に難しいようだ。

「まずはエイブリン様のところに行って、彼女の世話をしてあげてください。」ライラは指示した。

確かに黒魔法に詳しい人に相談したい気持ちはあったが、軽率に試してまた見つかれば、より厳しい封鎖を招くだけだ。


「で、でも、ライラ様…」マリアの声は泣き声を帯び、窓の外で切迫して呼びかけた。

私は王宮で貴方様の帰りを待ち、日夜、貴方様がいつか私を迎えに来てくださると信じていました…

(ライラ様…私のライラ様…)どうか私を置いていかないで。

マリアは震える手を伸ばし、冷たい指先でライラがランに殴られた腫れた頬に触れ、強引に少女の視線を自分に引き戻した。


「お願いです、私を貴方様のそばに置いてください、ライラ様。」彼女は懇願した。月光の下、涙に濡れたその瞳には、一か八かの卑屈さと絶望が満ちていた。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ