第三十九話 飛べない
第三十九話 飛べない
魔法学院の輪郭がエルリスの説明の中で次第に鮮明になっていく。
「魔法学院は、年齢や学年を問わない魔法使いの殿堂だ。」彼女の冷たい声が書斎に響き、手にしたチョークがホワイトボードを滑り、くっきりとした跡を残した。
「どんな段階の魔法使いでも、どんな授業でも受講できる。」
「ただし、見習い魔女にとっては。」彼女は話の矛先を変え、指先でボード上のいくつかのキーワードを指した。
「まず最初の授業は、魔法理論、植物学、魔獣知識だ。」その後で初めて実際の魔法使用の段階に入る。
つまり、見習い魔女から初級魔女へ昇格する過程は、知識の蓄積によって判定されるのだ。
エルリスは熱心に説明していたが、その視線は呆れたように書斎の下にいる二人の姿に向けられていた。
「ラン、後でランチ用意してあげるね。」金髪の少年ライラがそばの黒髪の少年ランの袖を軽く引っ張り、少し媚びた口調で言った。
「要らん。」ランの反応は素っ気なく、まぶたすら上げようとしない。
メイドの飯の方がマシだ。
二人は我を忘れ、エルリスの説明などただの背景ノイズのようだった。
「ちゃんと聞けよ!」エルリスはついに堪忍袋の緒が切れ、手にしたチョークを握り潰しそうになった。
「たとえ一人は黒の魔法使いでも…」彼女はライラを睨みつけた。普通の魔女の昇格ルールに従う必要はない。
「一人はとっくに上級魔女でも…」彼女はランを一瞥した。この子はとっくに初級の門をどこか遠く通り過ぎている。
「聞け!」彼女の声には明らかな怒りが込められていた。この手に負えない二人を前に、こめかみがズキズキと痛んでいた。
「聞いてるよ…」ランはようやく声を出し、少し冤罪を被ったような不満げな口調だった。
「あいつのせいだ!」彼女は告げ口する子供のようにライラを指さした。
するとライラは涼やかに口元を緩め、流れるように言葉を続けた:
「要するに、まず魔法原理、魔法知識、魔法植物の栽培育成、魔獣の生物知識と生態分布を学び…」
「それから実際の魔法応用の段階に入る、というわけですね?」ライラの微笑みは優しいが、エルリスが先ほど長々と説明した内容を寸分違わず復唱していた。
「うん…うん。」エルリスは一瞬言葉に詰まり、ただ呆然と彼女を見つめるしかなかった。
「お前、魔法世界で生活したことないくせに!」エルリスは思わずまたツッコミを入れた。
目の前のライラは理論上「普通の人」――魔法世界で生活したことのない者を指す。
だが、彼女が基礎学院の入学試験最高記録を塗り替えた成績を思い出すと、これはもう「普通」とは言えないだろう。
「ランは、理解したか?」エルリスはもう一方に向き直り、魔女の最高位「上級魔女」であるランが、本当にこれらの入学案内を素直に聞き入れるのか確認しようとした?
「ん。」ランはただ鼻を鳴らしただけで、視線はよそに向けられ、明らかに興味がなさそうだった。
(この子、エイブリンから離れたらまるで言語能力を喪失したみたいだ…)エルリスは呆れたように思った。
正直、彼女はエイブリンの唯一の弟子であるランをあまり理解していなかった。ランの周りには常に理解を拒む高い壁が立ちはだかっている。
(彼女をエイブリンから離す発端を作ったのは、どうやら俺みたいだけど。)エルリスの心に複雑な感情がよぎった。
きっかけはエイブリンのためであり、自分もランをきちんと面倒を見るつもりだった。しかしランは…決して感謝せず、誰の世話も必要としないようだった。
「では、次に学院で守らなければならないルールを説明する。」エルリスは思考を整え、話を続けた。
二人の特殊な身分を鑑みて、堂々と正体を明かすわけにはいかない。
「私は二人を『見習い魔女』として入学させる。だから、決して他人の前で今の姿で魔法を使わないこと。」――まだ魔法が使えないふりをしろということだ。
「それと…」彼女の口調は厳しくなった。
「絶対に他人に本名と…称号を明かしてはいけない。」
「称号…お前、称号持ってるのか!?」「称号」という言葉に、ランはぱっと振り向き、漆黒の瞳をライラにぎゅっと見据え、珍しいほどの驚きを見せた。
(そういえば、黒の魔法使いは直接称号を得られると言われてた…)黒魔法に関する断片的な知識がランの脳裏に浮かび上がった。彼女は怪訝そうにライラを上から下まで見た。
「何て称号?」ランの口調には探るような響きが満ちていた。
この情報は、意外にも彼女の強い興味を引き出した。
「秘密。」ライラの微笑みが深まった。どうやらランがこれに反応することを正確に見抜いていたようだ。
「もし君が私の作った料理を味わってくれたら、」ライラはここぞとばかりに交換条件を出した。
「教えてあげることを考えてもいいわ。」
「うん…」ランは葛藤した。
明らかに、「称号」への好奇心と、ライラの料理を拒否する抵抗感が激しくぶつかり合っていた。
(たぶん…師匠の料理よりはマシだろ…)ランの頭には、エイブリンの災難級の料理しか比較基準がなかった。
だが承諾するのは、負けたような気がする。
エルリスの忍耐は完全に尽きた。彼女は細い手を上げ、杖を召喚した。
コン!コン!二つの鋭い打撃音が、正確に二人の頭頂に落ちた。
「集中しろ!」エルリスは杖を手にし、疑いの余地のない威厳を込めて言った。
「うっ…」ランは無意識に両手で頭を抱え、その動作が慣れていて痛々しいほどだった。
「なんで師匠とまったく同じことするんだ…」ランは頭をこすりながら、ようやく本当に顔を上げ、真剣にエルリスを見た。
雪のような長い髪が彼女の後ろで風もないのに微かに揺れ、その姿は記憶の中の輪郭と微妙に重なった。
「それはもちろん…」エルリスは当然のように、彼らとエイブリンの関係を口にした。
「私たちは昔、みんなエイブリンに教わった生徒だからさ。」エイブリンはかつて魔法学院の教師であり、数えきれないほどの生徒を教えていた。彼女自身、セレン、そして今の賢者たちさえも、エイブリンの教えを受けたことがあったのだ。
「エイブリンがかつていた場所に行けるんだ、嬉しく思うべきだよ。」エルリスは付け加えた。彼女はランがエイブリンに関することなら何でも興味を持つと確信していた。
「師匠…昔いた場所?」ランは低く繰り返し、目に突然「期待」という名の光が灯った。
(エイブリンは昔を思い出して辛い思いをしないように、めったに戻ってこなかった…彼女の同級生たちは次第に…)そう考えると、エルリスの氷のような青い目にかすかな憂いがよぎった。
あの時エイブリンも自分の時間が近づいたと感じ、魔法都市を離れて一人暮らしをしようと決め、彼女とセレンは激しく反対したものだった。
エルリスの視線はランに戻った。
「よし!師匠のために、頑張る!」今のランは活力を注入されたかのようで、闘志を燃やして拳を握りしめた。
(エイブリンの話を出せば、この子はまったく別人になるんだな…)エルリスの口元に優しい笑みが浮かんだ。
ランがいなければ、エイブリンは本当に彼女たちとのすべてのつながりを断ち切っていたかもしれない。
ランの存在は一筋の生気のようで、エイブリンが今なおこの世に鮮やかに存在しているかのように感じさせた。
「学院で一番になる!」ランは興奮して宣言し、目は輝く光を宿していた。
(その目標…壮大すぎて呆気に取られるな…)エルリスは顔の笑みが一瞬で固まり、この天をも衝くような豪語を聞いて言葉を失った。
だが考え直すと――
(いや待て、ランは今や本物の上級魔女だ、これはまさに最強プレイヤーが新人村に舞い戻るようなものだ…)エルリスは心の中で素早く計算した。
(そうすれば…もしかしたらクリスのあの野郎に勝てるかも?)クリス、賢者の一人。手段が少々…うん、正々堂々とは言い難いが。
(とにかく…勝ってからだ!)彼女は心の中で注釈を加えた:正真正銘の魔女は決して偽らない。ただし相手が顔見知りの場合は別。(注:この「顔見知り」とはクリス、および他の賢者たちを指す。)
「ふふふ…」エルリスは思わずくすくす笑い出し、理由もなく興奮状態に陥ったランと一緒にそれぞれの喜びに浸っていた。
ライラはそばに静かに座り、無表情で奇妙な感情に浸る二人を見つめていた。
---
書斎のドアが開いた。少年姿に戻ったライラとランが出て行く。
「さっき言ったこと、ちゃんと覚えておくんだぞ。」エルリスの声が部屋の中から響いた。
「はーい!」黒髪の少年ランは明るく応えた。
「学院で一番になる!」それだけ覚えている。
黒髪の少年がドアを押し開けたが、予期せず炎のような赤髪の姿にぶつかった。
「あっ…その…」エルリスの弟子――赤毛の少女シャオ――は少し慌てて口ごもり、ドア口で並んで出てくる二人の少年を見つめた。
見覚えのある光景で、まるで昨日の再現のようだった。
ランは魔法帽をかぶり、黒髪の少年に変装していたが、その底知れぬ漆黒の瞳は変わらず独特の気質を隠せていなかった。
ランはただ淡々と彼女を一瞥しただけで、すぐに別の方向へ顔を向け、歩き去った。まるで彼女など存在しないかのように。
「本当に食べれば、教えてくれるんだな?」黒髪の少年ランの声には少し躊躇いが混じっていた。明らかに「称号」のことがまだ気になっていた。
「うん。」金髪の少年ライラは微笑んでうなずいた。
二人は前後に分かれ、その姿は台所へ続く廊下の角で消えた。
「えっ…」シャオだけが呆然とドアの外に立ち、当惑と困惑の表情を浮かべていた。
エルリスがドアを押し開けた。どうやらシャオが外で盗み聞きしていることを予期していたようだ。
(隔音魔法をかけたのに、彼女は何も聞こえていなかったはずだ…)エルリスは戸口でおろおろする弟子を見て、理解できなかった。
「シャオ。」彼女は静かに少女の名を呼んだ。
「師、師匠!あの人は一体…私、あの!」シャオの顔は真っ赤になり、言葉が上滑りしていた。
さっきランに完全に無視された経験が、彼女を混乱させ当惑させ、どう振る舞えばいいかわからなかった。
エルリスの手に光が煌めき、木製の杖がすでに握られていた。彼女はさりげなく書斎のドアを閉めた。
「行くぞ、飛行の練習に付き合う。」エルリスの口調は感情を読み取れず、雪に覆われた中庭に向かって歩き出した。
「お前にはまだ二十七日の猶予がある。」冷たい口調は中庭の凍てついた空気のように、温かみを一切感じさせなかった。
シャオは地面にへたり込み、師匠の雪のような後ろ姿を見つめながら、ぎゅっと、力いっぱいに拳を握りしめた。指の関節が白くなった。
---
台所で、黒髪の少年ランは気の進まない様子で皿の上の料理をいじりながら、退屈そうに窓の外の凍てついた世界を見つめていた。
「口に合う?」金髪の少年ライラはそばに座り、ランの食事中の微細な表情の変化を注意深く観察していた。
「これは私がある国で習った料理だ。」ライラは説明した。その料理の独特な風味を再現するため、彼女は苦労し、ランに自分の料理を好きになってほしいと願っていた。
(特にここの食材は、扱うのが特別に面倒だった。)
「複雑な味だ。」ランは咀嚼しながら言った。
(師匠と肩を並べる。)心の中で同じ結論を出した。
---
中庭では、真っ白な雪が芝生の一筋一筋を覆い、周囲の建物や木々を清らかで冷たい銀世界に変えていた。
この寂しい雪景色の中で、炎のようなその姿はひときわ目立っていた。
赤毛の少女シャオは杖をぎゅっと握りしめ、空中に浮かんでいたが、体はぐらつき、非常に不安定に見えた。
「うっ…!」驚きの声が上がった。彼女の指は力の入れすぎで痙攣し、緩んでしまい、体は一瞬でバランスを失い、杖から傾きながら真っ逆さまに落下し始めた!
「きゃああああ!」恐怖の悲鳴が冷たい空気を切り裂き、彼女は柔らかそうだが実は硬い雪の絨毯に激しく叩きつけられそうになった。
間一髪のところで、エルリスの姿が雪色の光の流れのように素早く駆け寄り、落ちてくる少女をしっかりと両腕で受け止めた。
「エルリス師匠…」シャオは肝をつぶして師匠の胸に縮こまり、間近にあるが常に距離を感じさせる精緻な顔を見上げた。
エルリスの雪のような長い髪は中庭の雪景色とほぼ溶け込み、氷のような青い目は寒い池のように深く、細い体つきは舞い散る雪を背景に一層冷たく脆く見えた。
「まだダメね。」エルリスの声には全く抑揚がなく、この殺伐とした純白の世界で特に冷たく刺さるように響いた。彼女はシャオを抱えたまま、ゆっくりと積もった地面に降り立ち、そっと彼女を下ろした。
「手を出しなさい。」エルリスが命じた。
シャオは震えながら両手を広げた。掌には深い浅い無数の擦り傷が広がっていた。荒い木製の杖を繰り返し握った摩擦によるものだ。
この酷寒の中で、傷口の縁の皮膚はひび割れた不規則な模様を見せ、一層痛々しかった。
「また緊張して、握りすぎたんだろう…」エルリスの口調には少し呆れが混じっていたが、動作は止めなかった。彼女は携帯の薬袋から翠緑の薬草軟膏を取り出し、シャオの掌の傷一つ一つに丁寧に優しく塗り込んだ。
その氷のような青い瞳は、今ようやく隠しきれない憂いを漏らしていた。
(手袋をはめて飛ばせてみたこともあるけど、握りが不安定になって逆に悪化して…)特にこの氷点下の環境では、とエルリスは考えた。
たとえもっと暖かい場所で練習させても、結果は変わらなかった。
(問題はおそらく心の中にある…)エルリスは細心の注意を払いながら傷の手当てをし、思考が渦巻いていた。
彼女はシャオに飛行を教えるためにあらゆる方法を試してきたが、毎回この子は杖から落ちてしまうのだ。
「エルリス師匠…」シャオはおどおどと呼びかけ、声にはまた師匠を失望させてしまった恐怖と、師匠と過ごす時間が早く過ぎてしまうことへの恐れが満ちていた。
「他に怪我はない?」エルリスが尋ねた。
口調は相変わらず冷たかったが、その下にある気遣いと心配を感じ取れた。
「まさか、私のいない間にこっそり練習してないだろうな?」彼女はすぐに追及し、シャオの手に前回手当てした時より明らかにひどくなった傷を鋭い目つきで見た。
「ち、違います。」嘘だ。
シャオは無意識に否定したが、目は泳いでいた。
エルリスの眉がすぐにひそめられ、氷のような視線が刃のように彼女に向けられた。
シャオはうしろめたそうに顔を背け、師匠と目を合わせられなかった。
(彼女は恐怖で最も基礎的な安全着地すらできないのに…)でも練習を見張らなければ、彼女は自分で怪我をする。
エルリスは無力感を覚えた。特に彼女の元では、嘘をつかないことも鉄則の一つだ。シャオの嘘は今回が初めてでもなかった。エルリスの目には、一層深い憂いが宿った。
(飛行は基礎魔法だ、これができなければ、永遠に初級魔女の門は越えられない…)
どこの師匠の元に行っても、結果は同じだろう。
(どうすればいいんだ…)
「別の師匠に代わってもらおうか?」エルリスは辛い提案をした。
「それは…?」シャオはぱっと顔を上げ、目に一瞬で恐怖が満ちた。まるで一番恐れていたことが前倒しになったかのように。
(私を早く「卒業」させるってこと? 違う…まだ猶予は一ヶ月あるのに…)
「期限が来る前に、他の導師に教えてもらうようにしよう。」エルリスはその残酷な決定――もしシャオが残り時間で飛行を覚えられなければ――を直接口には出さなかったが、それはすでに決まっていることだった。
(これは画一教育の欠陥だ…ある者たちにとっては、合わないのだ。)
「どうやら、私の教え方が君に合わないようだ。」エルリスの声には珍しく自責の念が混じっていた。
「ち、違います!師匠!私はただ掴み損ねただけで、次はきっと…」シャオは焦って言い訳し、声は恐怖で微かに震えていた。
「もし本当に大怪我をしたら、冗談じゃ済まない。」エルリスはため息をつき、視線は中庭の冷たい雪景色を掠めた。
(そういえば…ついこの前、高所恐怖症の少女を杖の上から空中に突き落としたばかりだ…)エルリスはその一瞬を思い出し、思わず自省した。あの方法は人に消えないトラウマを残すだろうか?
(でも、あの子が先に私に嘘をついたから…)私のせいじゃない。
「学院では、杖にまたがることさえ困難だったそうだな。」学院の一対多の集団授業スタイルも、明らかにシャオの心のわだかまりを解き、飛ぶことを教えることはできなかった。
「ここでマンツーマンで教えてくれる人を呼ぶ。」エルリスは決断した。
「では、誰を呼ぼうか…」彼女は思案に暮れた。
(いっそのことランに教えさせてしまおうか…)目の前にいる上級魔女だ。
(いや、やめておこう…)ランの気難しい性格とライラの存在を考えると、エルリスはすぐにこの考えを否定した。
それは問題を解決するどころか、さらなるトラブルを招きかねない。
---




