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代償魔法  作者: 若君
第一章は44話まで、第二章毎週月曜日に更新
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第三十八話 別れ


第三十八話 別れ


彼女はそれほど長くない黒髪を持ち、最も際立った特徴は、深淵のように深い漆黒の瞳だった。

わずか十五歳の少女でありながら、時に人に背筋を凍らせる闇の眼差しを浮かべる。


---

(エイブリン様を操ってあんなことをしていた時でさえ、こんな眼差しは見たことがなかったのに…)

ライラは、光すら飲み込むブラックホールのようなランの瞳を見つめていた。

他人に向き合う時だけ、彼女は感情の波が立つのか?

(それは恐怖ではなく、絶対的で疑いようのない信念のようなもの…)

ライラすら揺るがせず、触れられない深い思想。


「俺はお前とそんな話はしたくない。」ランは突然顔を背け、目つきは瞬時に普段の捉えどころのない憂鬱に戻った。口調は冷たく、彼女に、そしておそらく誰に対しても、この話題を拒否していることが明らかだった。

「私が一緒に倒すのを手伝いましょうか。」ライラは探るように提案し、ランが心の奥底に秘める闇の真実を覗き見たいと渇望した。

「要らねえ。」ランの返答は冷たく硬く、ライラの言葉一つ一つに再び強い拒絶を示した。


「ラン…」ライラが差し出した手は空中で止まり、結局引っ込められた。

まさにこの、彼女を本当に掌握できないという挫折感が、ライラに自分とランの間に常に高い壁が立ちはだかっていると感じさせ、本当に近づくことを困難にしていた。

エイブリンを操る切り札を握っていても、ランという測り知れず、覗き見ることすらできない闇を前にして、どれほどの効果があるというのか?


「エルリス様。」ライラは振り返り、後ろで心配そうにエイブリンを見つめているエルリスに向かった。

「私は魔法学院に通うことにしました。」ライラの唇に浅く、憂いを帯びた微笑みが浮かんだ。彼女はどうやってランとの距離を縮めるか悩んでいた。

もし自分が操れるのがエイブリンではなく、ラン本人だったら、どんなにいいだろう。


エルリスはライラを見て、彼女の突然の変化に少し驚いた。

「それなら…結構だ。」エルリスは言った。

もしそれでライラをエイブリンから距離を置けるなら、確かに良いことだ。

彼女ライラを魔法都市に置いておけば、少なくとも簡単に瞬間移動して戻ってエイブリンを邪魔することはできなくなる…)魔法都市の特殊な地理的条件が、正確な位置特定を極めて困難にしていた。


エルリスは考えていたが、突然重要な問題に気づいた:もしライラが魔法都市に戻ったら…

(その厄介者が俺に押し付けられるんじゃないか?!)エルリスはようやく悟った。

ライラは彼女の弟子として魔法都市に戻るのだ!

それに今や、彼女を非魔法の基礎学院で三年も無駄にさせることはできない――なんせ彼女が基礎学院で史上最高の入学試験記録を叩き出したことを知ったばかりなのだから。


(彼女は俺の言うことなんて全く聞かないだろう…)今より厄介な問題は、もしライラを魔法学院に入れたら、それはつまり自分が彼女に魔法を直接教えなければならないということでは?

七賢者の弟子が、基礎魔法すら使えないなんて、外に知れたらどうなる?

シャオが三年経っても飛行魔法を覚えられないという「特例」はあったが、こんなのは二度とごめんだ!

エルリスは一瞬にして焦慮の渦に巻き込まれた。

一方のセレン、もう一人の賢者は、今は何事もないかのように楽しげにエイブリンの菜園に水をやっていた。


「ただし、」ライラは話の矛先を変え、ランを対象とした追加条件を微笑みながら提示した。

「ランも私と一緒に行くこと。」

「はぁ?!」エルリスは飛び上がりそうになった。またか?

「俺は行かねえ。」ランは即座に強く反対し、顔には嫌悪感が満ちていた。

ライラと一緒に行動しなければならないと考えるだけで、全身が不快だった。

「お前一人で行け。」彼女はただこの小屋に残り、師匠と静かな日々を過ごし、時々魔物を退治してこの厄介者から解放されたかった。


「ランが行かないなら、私も行かない。」ライラは平静に宣言し、態度は断固としていた。

自分が魔法都市に行く唯一の条件は、ランが同行しなければならないということ。ランがいる場所に、彼女はいるのだ。

(待て待て待て!)エルリスは状況を見て、ようやく決まったことがまた水の泡になりそうだと悟り、特にこれがエイブリンに息抜きの機会を得られるかどうかに関わっている!

彼女は急いでランをわきに引き寄せ、声をひそめてひそひそ話をした。ライラはそばで興味深そうに二人を見ていた。


「ラン、お前魔法学院行ったことないだろ?」エルリスは早口で言った。エイブリンが一人で見習い魔女から上級魔女じょうきゅうまじょに育て上げたランは、集団生活を経験していなかった。

「確かに…」ランは認めた。

エイブリンには彼女一人しか弟子がおらず、学院に行く必要は全くなかった。

それにランの魔法の才能は「変わり者」で、しかも自分で新しい魔法をたくさん見つけられるのだ。


「彼女に付き合って行ってくれよ…」エルリスは懇願するように言った。

ライラを離れさせる鍵は、ランもこの場所を離れなければならないということだ!

「えっ…嫌だよ。」(行くなら彼女一人で行け!)ランの嫌悪感が露骨に表れていた。

「考えてみろよ、彼女が魔法学院に行けば、一日中エイブリンのそばにいることはなくなる。」エルリスは切り札を繰り出した。

「エイブリンのために…」エルリスは緊張してランの反応を観察した。

案の定、エイブリンの名が出ると、ランは冷たい表情に亀裂が入り、葛藤を見せた。


エイブリンは今ひどく疲弊している、もしライラをこれ以上彼女のそばに置いたら…


「師匠のためなら…」ランはついに口を開いた。口調にはまだ無理があるものの、師匠のためなら耐えられるようだった。

(よし!)エルリスは心の中で親指を立てた。

「ランが一緒に行くって言ってるよ。」エルリスは遠くのライラに宣言した。

「そう?それは良かった。」ライラは微笑んで応え、まるでこの結果を初めから予想していたかのようだった。


今すぐ入学手続きをしに行こう!

(こんなに振り回されてたら、心臓が持たない…)


「でも俺はもう上級魔女じょうきゅうまじょだぞ?それで入学できるのか?」ランは現実的な疑問を投げかけた。

「とにかくそこではお前の本当の姿を知っている者はいない、少し偽装すればいい。」エルリスは説明した。特にランは外出時に変装する習慣があった(毎回その姿は困惑を招くが)。

「それに、称号と本名は秘密にしろ。」エルリスは真剣に付け加えた。

何しろ「孤僻な魔女」ランという名は、魔法世界、特に魔法都市ではかなり「有名」だからだ――ある意味、その「知名度」はエイブリンの「辺境の魔女」と肩を並べるほどだった。


「なんで俺がこんなゼロからやり直すようなことをしなきゃいけないんだ…」ランは呆れたようにため息をつき、遠くでまだ暗い表情のエイブリンを見つめ、目つきが一気に沈んだ。

(俺が師匠に迷惑をかけてるのか…)ランは思わず手にした水トカゲの尾を握りしめた。

七大魔獣を倒した者は奇跡を起こす魔法を使えると聞いた。師匠が七大魔獣の一つ「グレンヴァーク」(陸地の魔獣)を倒せたなら、俺にもできるはずだ。

(三つの願い…師匠の役に立てればいいな。)ランは拳を握りしめた。

それからママ…パパ…


(この世界を変えられればいいのに…)


---

「師匠…」ランはエイブリンをぎゅっと抱きしめ、名残惜しさでいっぱいだった。

小屋の前には別れの哀愁が漂っていた。

後ろには大勢の人が立っており、ほとんどはセレンの大勢の弟子たちだった。


「そういえば、ランは確かにこういう時期を経験してないな。」エルリスはそばで感嘆した。

普通、見習い魔女になるということは、親元を離れ、学院に入るか師匠に付いて学ぶことを意味する。

(でもランはずっとエイブリンに連れられていた。)そして今なお「卒業」していない。


「ラン、エルリスの言うことをちゃんと聞くんだよ…」エイブリンは優しくランを諭し、そっと彼女の頭を撫でた。

「わかってるよ。」ランの声はもごもごしており、両手はまだエイブリンの服の裾をぎゅっと握っていた。

「師匠…」彼女はうつむき、別れの悲しみを必死にこらえ、ついに決心を固めた。

「俺が守る。」ランは顔を上げ、決然とした眼差しでエイブリンを見つめた。


その漆黒の瞳孔の奥には、守るために燃える小さな光が宿っているように見えた。

エイブリンはその言葉を聞いて、瞳孔が激しく揺れた。自分の弟子を信じられないというように見つめた。

「師匠は俺にとって一番大事な人だ。」ランは温かい微笑みを見せた。


---

「じゃあ行くわ。」ランは浮かぶ杖にまたがり、安定して上昇した。

「師匠、体に気をつけてな!」彼女は地面のエイブリンに向かって大きく手を振った。

いつも出かける時は見送る側だったエイブリンが、今は立場が逆転していた。

「一ヶ月に一度は帰ってこられるんだから…」エルリスがそばを飛びながら念を押した。

「まるで今生の別れみたいにするなよ。」


エイブリンは地面に立ち、彼らを見上げながら、そっと手を振った。

彼らの姿が青空の彼方に消えるまで、彼女はゆっくりと腕を下ろした。

彼女はその広々とした空を静かに見つめ、自分がこんな時を経験するとは思っていなかった。

心に淡い感傷が込み上げると同時に、重い石が静かに落ちたような気分にもなった。


「辛いだろ、こういうの。」セレンが不意にそばで口を開き、果物をかじっていた。

「セレンは帰らないのか?」エイブリンは振り向き、まだ居座っている賢者の一人を見た。

「お前の弟子たちが迎えに来てるぞ。」彼女は後ろの、統一された白いローブを着て、自分の師匠――賢者の一人、「迷途の魔女」セレンを熱心に見つめる弟子たちを指さした。


「全員帰れ!今日は俺がエイブリンと二人きりでいるんだ!」セレンは小さな手を振り回し、むっとしながら後ろの「招かれざる客」たちに退去命令を下した。

「でも師匠、昨日もここに泊まられて、学院の方では他の弟子たちが待っております…」

代表の弟子が説得しようとした。彼らはわざわざ早く迎えに来たのだ。


セレンはうつむき、すぐに顔を上げ、険しい表情に変えた。

「うるさい!早く帰れ!」

「卒業したくないのか!」

集団は震え上がり、杖に飛び乗って素早く飛び去った。


セレンは振り返り、一瞬で甘い笑顔に変わった。

「これで静かになった。中に入ろう、エイブリン。」彼女はエイブリンの手を取って小屋の中へ引っ張っていった。

「奴らに素材を持ってこさせたから、一緒に薬草を研究して、ちゃんとお前の手を治そう。」

「お前の手が治るまで、私は離れないよ。」セレンは微笑みながら言い、目には決意が宿っていた。


「まったく…」エイブリンは呆れたように彼女に引っ張らせたまま、声には少し諦めが混じっていた。

「これじゃあ…静かとは言えないな。」

エイブリンは呟いたが、口元は思わず浅く、久しぶりの微笑みを浮かべていた。


---

エルリスの屋敷の前。

「師匠、お帰りなさ…」シャオが声を聞いて出迎えたが、途中で突然その場に固まった。

エルリスの後ろには、あの見慣れた金髪の少年ライラだけでなく、今回はなんと黒髪の少年も一人増えていた!

黒髪の少年は手慣れた様子で杖を操り、ゆっくりと降り立ち、足をしっかりと地面につけた。

顔を上げると、冷たい黒い瞳が淡々とシャオを一瞥した。


「こ、これは…」シャオは呆然と自分の師匠を見つめた――毎回外出するたびに「少年」を一人連れて帰ってくる!

それに今回は性格が正反対だ!


「シャオ、こっちがお前の新しい後輩だ。名前は『ランオン』。」エルリスは疲れた口調でランの偽名――魔法都市への道中で適当に考えたもの――を紹介した。

「お前たち二人…」エルリスは深く息を吸い、ほとんど歯を食いしばって警告した。

「大人しくするんだぞ…」彼女の顔にはライラとランにしかわからない、崩壊寸前の表情が浮かんでいた。

金髪の少年ライラは優雅な微笑みで応え、黒髪の少年ランは軽蔑したように顔を背けた。


「とにかく、まずは俺の執務室で入学説明会を開く…」エルリスは呆れたように言った。この二人が学院でトラブルを起こしたら、尻拭いは自分だ!

(それに二人とも俺の名義で弟子にしなきゃいけないなんて!)

確かに、ランをエイブリンの弟子として学院に行かせるわけにはいかない。それは確実に大騒ぎを引き起こす。


(でもセレンのあの野郎…)エルリスは以前の会話を思い出した。

『俺の弟子は多すぎて、ランが混じってたらすぐバレるよ。』特にセレンの弟子たちは集団行動が基本で、ランの孤高な性格では到底馴染めない。

『とにかく、俺はエイブリンの世話をするから、あの厄介者二人は君に学院へ連れて行ってくれ。』

厄介な代物を押し付けて、自分はエイブリンのそばに残る…

(俺だってエイブリンのそばにいたいんだ!)エルリスは心の中で狂ったように抗議した。

彼女がこの提案をしたのはエイブリンを心配してのことだったのに、今ではこの問題児二人の世話をしながら、しかも自分の弟子として学院に入れなければならない!


エルリスは振り返って後ろの二人を見た。この構図を見ただけで、彼らが学院で大人しくしているはずがないとわかった。

「ラン~オ~ン~」金髪の少年ライラは親しげに黒髪の少年ランの腕を絡めた。

「外でそんなにくっつくなよ…」黒髪の少年ランは気まずそうに解こうとした。

「誰もいない時ならいい?」ライラは楽しげな口調で言った。

「誰もいなくてもダメだ!」ランは怒って唸った。


(なんで二人とも男のふりをしなきゃいけないんだ…)エルリスは頭を抱えるように二人を見た。

ただ外見を変えるより面倒じゃないか?

(それに…)彼女の視線がそばで場違いな赤毛のメイドに移った。

「なんでメイドまで連れてきたんだ!」エルリスはマリアを指さし、ほとんど発狂しそうだった。


「もちろん私の世話をしてもらうためですよ~」ライラは当然のように答え、相変わらずランの手を握っていた。

「メイドなんて連れてくるな!何様のつもりだ、お嬢様か!」エルリスは激しく反論した。

(確かに元王族だが…)

「どうかお気遣いなく。」マリアはそばで恭しくお辞儀をした。

「気にしないわけがないだろ!」


「マリアが皆さんの三食を用意しますよ。」ライラは微笑みながら付け加えた。

「ダメだ!自分で作れ!お前は魔女だぞ!」エルリスはこれからの共同生活に前例のない不安と絶望を感じた。

「ランオン、あいつに言ってやれ!」エルリスはランに向き、ランならライラも少しは聞くかもしれないと期待を込めた。


ライラもそばのランを見た。

するとランは眉をひそめ、ためらうことなく口を開いた。

「あいつの作ったもん、食うかよ。」口調には嫌悪感が満ちていた。


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